第3話 利害の一致
「おい。見ろよ。めちゃくちゃ可愛い子だぞ」
「凄いわねぇ。見惚れちゃうわ」
「くぅう、あの野郎、羨ましいなぁ……」
やれやれ。
アイリィと歩くと目立つな。
注目されるのは面倒だ。
「お嬢ちゃん、どこ行くのぉおおお?」
と、声を掛けて来たのは3人組の男。
筋肉質で大柄。その風貌から冒険者だとわかる。
ランクバッジは付けていないが、装備品はそれなりに使い込んでいるな。
体臭とは別の臭い……。モンスターの血が至る所に染み込んでいるようだ。
僕たちリンザのパーティーはEランクだが、おそらくそれ以上……。
やれやれ。注目されるとこういうことになる。
「へへへ。可愛いねぇえ」
「や、やめてください!」
「ドゥフフゥ……。おっぱいデケェ。たまんねぇなぁあ」
美少女というのは厄介な存在だな。
こういう輩に絡まれる。
アイリィは、すがるように僕を見つめた。
しかし、僕はプイっと目を逸らす。
ナンパをされるのは彼女自身の問題だからな。
僕は関係ないだろう。
「おい、兄ちゃん。彼女の彼氏か?」
「そんなわけがないだろう」
「だったらあっちへ行ってろ」
ふむ。
これ以上は僕の身に危険が迫る可能性があるな。
「わかった。では、僕は図書館に行ってるから」
「ちょ、ゴオさん!?」
別に、彼女は殺されるわけではないんだ。
色恋沙汰に僕がしゃしゃり出るのはお門違いだよな。
「ぎゃはは! あの野郎、俺たちにビビってんだぜ」
「見るからに弱そうって感じだもんな。ダサいEランクのバッジとか付けてたし、ヒャハッ!」
「あんな薄情な男は放っておいて俺たちといいことしようぜぇ」
「いやぁッ!! 離してください!!」
……待てよ。
そういえば、彼女は僧侶だったな。
「助けて!! ゴオさん!!」
僧侶なら、僕が傷ついた時に回復してくれるか……。
彼女との仲を良好にしておかなければ、回復を頼んだ時に拒否される可能性が出るな。
傷の回復→安全向上→死亡回避。
うむ。利害は一致した。
「ぎゃはははーー! もやし野郎はもういねぇえんだよぉおお!! 俺たちがおめぇの彼氏になって可愛がってや、ブベラァアアアアアアッ!!」
男は10メートル以上ぶっ飛んだ。
僕の蹴りが奴の頬に命中したからである。
「ゴオさん♡」
「この野郎ぉおお!! やるってのかぁあ!?」
そう言って、2人の男は武器を持った。
太いナイフと、ショートアックスである。
男たちの筋肉量を考慮すれば、一撃でも喰らえば致命傷だな。
しかし、僕の為だ。
やらざるを得ない。
格上の冒険者ならば、魔法の出番だ。
僕は詠唱を始めた。
「この野郎。魔法を使うのかぁ?」
詠唱が終わると小さな火球が目の前に現れる。
「ぎゃはは! んな、小さなファイヤーボールが効くかよ! ぶっ殺してやるぅう!」
「死ねやゴラァアアッ!」
ナイフは直線。
ショートアックスは放物線状の太刀筋か。
距離を取るより懐に入った方が有利だな。
拳を引き。
ファイヤーボールを押し込むように、
「撃つ!」
僕のファイヤーボールは2人の男を吹っ飛ばした。
「「 ホゲラァアアッ!! 」」
うむ。
成功だ。
一応、人間用に力は抑えたつもりだが、30メートル以上はぶっ飛んでいる。
「見たか。僕のファイヤーボールの威力を」
「いや、拳の威力で飛んで行きましたよ!」
「そういえば、火は消えていたな……」
くっ……。
まだまだだな。もっと鍛えなくては……。
「ありがとうございます」
「なんのことだ?」
「私を助けてくれました♡」
「勘違いするな。君は僧侶だからな。いざという時、僕の怪我を治してくれる。そんな存在と利害が一致しただけにすぎん」
「……ふふ。でも、助けてくれましたよ♡」
やれやれ。
まるで僕に親切心があるみたいな反応だな。そんなモノ、1ミリも持っていないというのに……。
──そう、あれは忘れもしない僕が6歳に
なった時のことだ。
久しぶりに仕事が休みだった両親は、僕をピクニックに連れて行ってくれた。
草原には綺麗な池があって、僕はその水面を覗く。
「あはは、見て見て! お魚が泳い……」
ザパーーンと水面から出て来たのは大きなイモリだった。
母親は叫ぶ。
「ゴオ! 人喰いイモリよ!」
「うわぁ! 母さん助けて!!」
「池を覗いたのはあなたの責任よ!」
「えーーーーーー!?」
カプリ!
僕は人喰いイモリに食べられた。
両親は助けに来ない。
胃の中で叫ぶも外からの返事は、
「自分でなんとかしなさい」
「死ぬぅううッ!!」
僕は必死になって胃を打撃で破って脱出したっけ。それから恐怖で泣き叫んだんだ。
「うぇえええん! 怖かったよぉおお!!」
人に助けを求めちゃダメだ。
親切心なんか絶対に持たない。
自分の責任は自分で取る。
幼くして、僕はそのことを悟った。
だから、他者を助ける時は自分にも利が必要なんだ。
プニィ……。
と柔らかい感触が腕に伝わる。
アイリィが僕の腕を抱いたのだ。
彼女の大きな胸が僕の腕に当たる。
「何をしている?」
彼女は顔を赤らめた。
「こ、こうやって歩いた方が、お、襲われなくなると思うんです」
「悪漢から身を守るための対策か?」
「そ、そうです。私が襲われたらゴオさんが動かないといけないんですよ。そんなの危険ですよね?」
なるほど、これが彼女流の身の守り方か。
効率は良いな。
「利害の一致です♡」
「……ふむ」
嫌いじゃない。
ーーロントモアーズ王都図書館ーー
「それ、歴史書だ。それに魔法の本がたくさん。ゴオさんって勉強家なんですね?」
「読書が好きなんだ」
「へぇ。じゃあ、子供の時から読んでいるんですか?」
「まぁな」
両親がくれる本は、殺人殺法とか、毒、呪いなんかのおどろおどろしい物ばかりだったからな。僕はそんな本を読むのが嫌で、魔法に関する歴史書を貪るように読んだんだ。
だから図書館に来ると落ち着く。
「私も……。本を読むのは好きなんですよね」
「ほぉ」
「えへへ。一緒ですね」
「それ、恋愛小説じゃないか」
「べ、べ、別にいいじゃありませんか! 読書は読書です!」
僕たちは本を読んだ。
時間はあっという間に過ぎる。
横に並ぶアイリィは喜怒哀楽が激しい。
クスクスと笑ったり涙汲んだり、時には怒ったり。
読書ってそんなもんだろうか?
「それ、そんなに面白いのかい?」
「あ、ゴオさんも読まれますか? 凄く面白いですよ♡」
と、僕に体を近づける。
「あなたたち、距離が近いわよ!!」
リンザが僕たちを引き剥がした。
どうやら酔いが回復しているようだ。
「ゴオ!
「いや。僕はそんなつもりではないが?」
「お姉ちゃん、違うのよ! 私がゴオさんに本を勧めていただけなの!」
「あなたはもっと危機感を持ちなさい!」
「ゴオさんはそんな人じゃないわよ」
「男は狼なのよ!」
やれやれだな。
しかし、その危機管理能力は嫌いじゃない。
「回復したのならクエスト挑戦だな」
「そうよ。ここへ来る途中にギルドに寄ったのよ。既にDランククエストを探して来たわ」
「どんな内容だ?」
「ふふふ。これよ」
リンザが見せた用紙には、Dランククエスト、白狼のダンジョンと書かれていた。
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