第2話 冷血人間
ーー獅子のギルドーー
受付。
「え!? ゴブリンキングを倒したぁ!?」
と、受付嬢は目を丸くした。
「フフフ。ウチの賢者がね。倒しちゃったのよ」
「ゴオさんは凄いんですよ! 正拳突きでね、倒しちゃったんですから!」
「正拳突き? ゴオさんは賢者ですよね?」
ファイヤーボールで倒したと言って欲しいな。
「でも凄いですよ! EランクのパーティーがAランクのゴブリンキングを倒すなんて前代未聞なんですから!」
受付のカウンターに積み上げられた金貨は袋からはみ出るほどだった。
ゴブリンキングの魔晶石が高値で売れたらしい。
「あは! 凄い金額よ!」
金額も気になるが、
「リンザさん、おめでとうございます。ポイントが10万を超えましたので、ランクアップですよ。よって、本日からDランクです」
「やったーー!」
うむ。
これは嬉しいな。
ランクが上がれば、より報酬の高いクエストが受けれる。
そうなれば、より生活の質は向上する。
リンザとアイリィはキャッキャッとはしゃぐ。それとともにギルド内が騒ついた。
「すげぇ……。Eランクがゴブリンキングを倒したのか……」
「おいおい、初日のクエストでランクアップかよ」
「凄いルーキーが現れたわね」
「可愛いだけじゃないのか……」
やれやれだ。
注目されるのは困るな。
無用ないざこざに発展する恐れがあるんだ。静かに過ごしたいもんだよ。
ーーギルドの酒場ーー
夕食と報酬の分配を兼ねる。
「じゃあ本当に3等分でいいのね?」
「ああ、そういう約束だろ?」
「でも、ゴブリンキングを倒したのはゴオじゃない。あんたが多く貰うことだってできるわよ?」
「全てパーティーの成果に過ぎん。約束を守ってくれれば僕は問題ない」
「そう。フフフ。あんたって良い奴ね」
「ゴオさんって本当に良い人ですよね!」
やれやれ。
僕が良い人だなんて勘違いも甚だしい。
約束は報酬の3等分。ただ、それを守っているだけにすぎん。約束の反故はパーティーの決裂を意味する。無用なトラブルは死に直結するからな。
報酬は1人10万コズンとなった。
だいたい1ヶ月分くらいの生活費にはなる。
半日でこれだけ稼げれば問題ないだろう。
デビュー戦としては上出来だな。
「今日はパァっといくわよ!
「遠慮しておく」
「は? なんでよ?」
「酒が残れば冒険に支障を来たすからな」
「慎重派ねぇ。あんた16歳でしょ? 若いんだからもっと大胆にいかなきゃ」
「……君たちは僕より若そうだな」
「
「なるほど。しかし、単純に酒を飲むのは控えた方がいいな」
「でも、ランクアップのお祝いは必要でしょ?」
「飲みすぎは危険だ」
「メンバーが仲良くなる為にはコミュニケーションは必須なのよ」
「しかし、明日のクエストに差し支えるのは問題だぞ」
「そんなの考えて飲めば良いだけじゃない。あんたって本当に慎重派ねぇ」
「君は飲酒に関しては理性が効きそうにないタイプだが?」
「
アイミィは僕の裾をクイッと引っ張った。
「ゴ、ゴオさんは私たちとお酒飲むの、嫌……ですか?」
やれやれ。
仲間との繋がりは大切か。
パーティーの連携が取れていた方が、僕の安全は確保されるからな。
「仕方ない。付き合おう」
「あは! そうこなくちゃ!」
「ありがとうございます♡」
僕たちは酒を交わした。
1時間後。
リンザは僕の肩を抱く。
「アハハ! おいゴオ、飲んでるくぁ?」
やはり思ったとおりだ。
こうなると思った。
「しっかし、あんたは冷たい奴よね! 親御さんが亡くなってもケロッとしてんだからぁ!」
「ちょっとお姉ちゃん! 飲みすぎよ!」
「いーーや! コイツにはキツく言わないとわかんないのよ! ゴオ、あんたは冷たい!」
やれやれだな。
僕は不用な感情は持て合していないだけなんだ。冷たい温かい、なんてのはくだらない評価にすぎん。
更に1時間経つと、リンザはテーブルに伏せて眠ってしまう。
仕方がないので、僕がおぶって宿屋まで運ぶことになる。
「ゴオさん、ごめんなさい」
「大丈夫だ。気にしていない」
案外、妹のアイミィの方がしっかりしているのかもしれんな。
「お姉ちゃん……。普段は気を張ってて、私のことばっかり心配するんです。そのストレスもあると思うんですよね。こんなに酔っちゃうのは……」
「しかし、毎回これでは大変だな」
「ははは……。でも、初めてですよ。男の人の目の前でこんなに酔払ったお姉ちゃん」
「そうなのか?」
「お姉ちゃんは男の人には隙を見せない人ですから……。きっとゴオさんを信頼しきってるんだと思います」
「信頼か……。そんなもんは無いな」
「え?」
「互いの利害関係が一致しているだけに過ぎん」
「えええ!? で、でも、ゴオさんはお姉ちゃんを介抱してくれているじゃないですか!」
「彼女はパーティーのリーダーだからな。リーダーが壊れてはパーティーの存続が危ぶまれる。すなわち、僕の危険へと繋がるんだ」
「……そういえば、私を助けてくれた時も、そんなことを言っていましたね」
「僕は自分の身が最優先なんだ。リンザが言うように冷たい人間なのさ」
「そうだぁ〜〜! ゴオ! あんたは冷たい人間よぉおお〜〜」
「んもぉ、お姉ちゃんったらぁ!」
「あんたなんかねぇ、
「お、お姉ちゃん!?」
リンザはフラフラと路地裏に駆け込む。
サラサラサラサラーー!
やれやれだ。
仕方がないので背中を摩ってやる。
アイリィは高速で謝罪した。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
宿屋に到着する。
僕はリンザをベッドに寝かせた。
「戸締まりをしっかりしてな。よく、休むといい」
「ありがとうございます」
「じゃあ」
「あの……」
「なんだ?」
彼女は真っ直ぐな目で僕を見つめた。
「ゴオさんは優しい人だと思います」
はぁ……。
何を言うかと思えばくだらない。
人を信じたって裏切られるのが関の山だぞ。
──あれは僕が5歳の時。
近所では英雄人形で遊ぶのが流行っていた。
だから、誕生日プレゼントには絶対に英雄人形と敵のドラゴンの人形が欲しかったんだ。
めったに家に帰らない両親が、誕生日プレゼントのリクエストを聞くので、
「英雄人形!!」
と大きな声で言ったっけ。
興奮しすぎてドラゴンの人形をリクエストするのを忘れてしまった。
誕生日の夜。
枕元には大きな箱が置かれていた。
「うは! 誕生日プレゼントだ! こんなに大きいってことは、へへへ……」
両親は機転を効かせて英雄人形と共にドラゴンの人形を買ってくれたのだと思い込んだ。
しかし、中に入っていたのは、青牙オオトカゲの牙でできたナックルと、その武器の試し打ちができる大きな藁人形だった。
『ゴオ、誕生日おめでとう。この武器を使えば、嫌な相手を一撃で殺せます。英雄人形よりこっちの方が使えるでしょう。藁人形で練習しなさい。心臓を抉るように打つべし』
そんな手紙を添えて。
僕は三日三晩泣き叫んだ。
「絶対に使うもんかぁあああ!」
それから、両親のプレゼントしてくれるものといったら、拷問の道具とか、毒薬とか、殺人ハンマーとか、碌な物ではなかったな。
そんなことがあって、人を信用するということはしなくなった。
過度な期待は悲しみしか産まないんだ。
「やれやれ。君も酔ってるんだよ。じゃあね」
「……お、おやすみなさい!」
「ああ、おやすみ」
次の日。
朝に集合をすると、案の定、リンザは頭を抑えていた。
「うう……。頭が痛い……」
「二日酔いだな」
「うう……。ク、クエストを選ぶわよ」
「ダメだ」
「え?」
「そんな状態では危険度が増す。クエストの挑戦は君の二日酔いが回復してからだ」
リンザは頬を赤く染めた。
「ゴオ……。
「いや。君の心配なんかしない。リーダーが怪我をすればパーティーの存続が危ぶまれる。そうなれば僕の危険度が増すからな」
「はぁ? 結局、自分の心配ぃい?」
「そうだ」
「この冷血人間!!」
うむ。
それでいいんだ。
リンザは宿屋で休むことなる。
さて、それまで時間が空いたな。
よし、魔法の勉強をしておくか。
「僕は図書館に行く。回復したら呼びに来てくれ」
「あ……。ゴオさん……。わ、私も一緒してもいいですか?」
「別に断る理由はないが、特段、楽しくはないと思うぞ?」
「だ、大丈夫です。えへへ」
僕はアイリィと一緒に王都図書館へと向かった。
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