第23話 ゴブリンが 冒険者たちと 戦うぜ
暗雲の森外縁部 大岩 マラクス
「よう!」
気軽な感じで赤髪の小僧に手をあげる。
そんなオレを見て、赤髪の小僧が目を丸くした。
「て、てめぇ!」
一瞬だけどぽかんとした小僧のスイッチが入ったみたいだ。
そんな小僧を腕組みしつつ見る。
ちょっと金が入ったのか、きれいな革鎧を着てやがった。
生意気にもオレを睨んでいるその顔が気にくわない。
「他のヤツらはここにいるのか? いるのなら呼んでこいよ」
お前ひとりなんぞは相手にもならんと言ってやる。
挑発する気はないんだ。
確か四人ほどいたはずだからな。
まとめておけば逃げられる心配がないだけだ。
「なんだと、この野郎!」
キレた赤髪の小僧が剣を抜いて斬りかかってくる。
なんだコイツ。
あおり耐性なさすぎかよ。
「いいから呼んでこいって」
小僧の剣に掌底をあわせて叩き折ってやった。
それを見ていた他の冒険者が臨戦態勢に入る。
「ラッセル行け!」
”でも”と渋る小僧を押しのけるようにして、ヒゲの豊かなおっさんが出てきた。
身長はさほど大きくないが、がっしりとした屈強な体型をしている。
装備は両手持ちの斧か。
その後ろには長身で双剣を手にした女と、杖を構えているエルフの女が控えていた。
「『傲慢なる血盟団』のネラヒムだ。あいつらとはちと訳ありでな、助太刀させてもらうことにした」
「まぁいいや。三人まとめてかかってこいよ」
オレは言い終わらないうちに身を縮こめるようにして魔法使いとの距離を詰めた。
それを邪魔するように、双剣の女が割って入ってくる。
予想通りだ。
オレの標的は最初からこっちの女だった。
真っ直ぐに突っ込むと見せかけて翼を使って横に跳ねる。
最近わかってきたんだけど、この翼って根本的に鳥のものとは役割が違っている。
たぶん魔力とか不思議な力を使っているんだ。
なので慣性の法則を無視したような動きもできる。
オレの動きについてこれなかった双剣の女は見事に空振りをした。
その隙を見逃さずに脇腹めがけて跳び蹴りを食らわす。
どちゅと音がして女の上半身が吹っ飛んだ。
目の前で双剣の女が吹っ飛んだ姿を見て、エルフの女が詠唱をとめた。
思考がとまってしまったんだろう。
それが命とりだ。
もう一度翼を使って急激な方向転換をする。
呆気にとられているエルフの顎に膝蹴りをかました。
「んぐ」
と小さな声を出してエルフの顔半分がぐしゃりと潰れる。
蹴りの勢いに押されるように、後ろに倒れてビクビクと痙攣している。
「お、おおおおおおおおおおおおお!」
ヒゲのおっさんが叫んだ。
斧を構えているが、その先端が小刻みに震えている。
よく見ると身体も震えていた。
翼の推進力と脚力による踏み込みの合わせ技。
一瞬にしてヒゲの前に移動して、その勢いを殺さずに直突きを入れる。
食らえ、ゴブリン正拳突き。
おっさんは驚いたような顔を正拳が貫いた。
ようやくこの身体にも慣れてきたってもんだ。
十全に能力を使いこなせれば、こうなるわな。
せめてもの慈悲だ。
痙攣しているエルフの女の首を折ってとどめを刺してやった。
「てめぇ何してやがる!」
ちょうどいいタイミングで小僧たちが戻ってきた。
槍使いに弓使いにエルフ。
ちゃんと四人いるな。
「襲ってきたから殺しただけだが?」
正確には襲おうとしてきただけどな。
面倒だから言わない。
「なんでだっ……なんでてめぇみたいなゴブリンがいるんだっ!」
赤髪の小僧が顔を真っ赤にして叫んだ。
「しらんがな」
「ゴブリンなんだからよぉ、おとなしく殺されてればいいんだよ!」
「あん? なんでゴブリンだと殺されなきゃならん?」
「弱いからに決まってるだろうが!」
「じゃあお前らも弱いから殺されてあたりまえなんだよな」
「な!?」
小僧が黙った拍子を狙ったかのように矢が飛んでくる。
それを虫でも追い払うように手で払いのける。
「ゴブリンに言い負かされるニンゲンって初めてなんじゃない?」
「黙れっ!」
赤髪の小僧が振りかぶったまま突っ込んでくる。
もはや見慣れた風景だ。
援護するように矢が飛んでくるが、さっきと同じように払う。
「死ね」
そんなつぶやきとともにエルフの女が火魔法を放った。
だがその程度じゃこの身体には効果がないんだわ。
魔法を無視して小僧にローキックを放つ。
両足ともまとめて膝から下がなくなっている。
「うぎゃあああああ!」
「ラッセル!」
小僧が叫ぶ。
そこに回復薬を持った弓使いが駆け寄ってくる。
「よそ見するなよ!」
オレの動きを牽制しようとした槍使いの攻撃だ。
こいつもただ突いてくるだけじゃないか。
工夫がないな。
無造作に突き出された槍を片手で掴む。
穂先を脇の下に入れて、ふんと力を入れて槍使いを持ち上げる。
そのまま上下に何度か振り回してやった。
鯉のぼりとかそんな感じになっている。
そんな状態に耐えられるわけもなく槍使いが地面に落ちた。
間抜けな顔をして見ていた弓使いに向けて槍を放ってやる。
虚を突かれたのか弓使いは為す術もなく、槍に身体のど真ん中を貫かれた。
「ごぶ」
ごぶって言うな。
わかりにくいな、もう。
そんなことを考えつつ、槍使いに近づいていく。
「なんだ、もう終わりかよ」
弓使いとエルフの二人は既にこときれている。
残るは足をへし折ってやった小僧と、この槍使いだけだ。
槍使いの目には明らかに怯えの色が見えた。
”ひぃ”と情けない声をあげて槍使いが腰を地面につけたまま後退っていく。
その股間は盛大に濡れていた。
汚えな、こいつ。
「おい、もう終わりなのか?」
怯えているだけで答えがなかった。
もういいやと思って、一足飛びに間合いを詰めて首を蹴り飛ばす。
ごろごろと首が地面を転がって、赤髪の小僧にぶつかってとまった。
「ひぃやあああああ」
悲鳴をあげた小僧に近づいていく。
いやいやと頭を振る小僧の髪を掴んで身体を引っ張りあげて、目線をあわせる。
「な? お前ら弱いじゃん。だから狩られるんだよ」
「ゆ、ゆるして」
「お前らはゴブリンの氏族を全滅させたじゃないか」
「ごべ、ごべん」
謝ろうとしやがった。
そのことに怒りがわきあがってくる。
「死ね」
空いていた右手で心臓を抜き出して握り潰してやる。
”がひゅ”と声をあげて、小僧が死んだ。
あとはあの耳長だけだ。
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