第14話 迫りくる 脅威に備える ギルドかな
タヌヌ王国領 マラクス
でっかい河を見下ろしながら、オレは今日も空を悠々と飛んでいる。
空を飛ぶのは人の憧れだって話を聞いたことがあるけどね。
確かに気持ちいいや。
夜の風景もいいけど、昼間はより景色が鮮明に見える。
緑が多くて人工物が少ない。
自然いっぱいの景色を見ていると癒やされるな。
最近は殺伐としているから。
いやゴブリンに転生してから、こんなに穏やかな日々はなかったかもしれないな。
氏族の集落だとまともにメシも食えなかったし、衛生観念なんてものもなかった。
で集落が壊滅して、拉致されてさ。
その後は拷問というか虐待というか。
めちゃくちゃにされてきたからな。
いやマジで種族進化のきっかけをくれたマンマンちゃんに感謝だ。
大蜥蜴の
途中でいくつか小さな村があったけれど、神判の力を使うとかんたんに制圧できた。
便利すぎるだろ、この能力。
死体になったヤツらはオレの言うこと聞いてくれるしね。
最近はきっちり三食、調味料を使ったメシが食えている。
おっと。
あれが王都ってやつかな。
さすがに町よりも規模が大きいし、城壁もしっかりとしている。
高さも十メートルはくらいあるかな。
空堀もあるから、下に立つともっと大きく見えるんだろう。
それだけ大きくても神判の能力の前じゃ意味がないんだけどね。
そんなことを考えていると、城壁の上にいた兵士がオレを指さしていた。
黒いのが昼間に空を飛んでいれば目立つわな。
やっぱり近づくのは夜にすべきだったか。
まぁどっちにしてもやることは同じだ。
一対一で戦うのは面倒だから、神判の力を使って一網打尽にしちゃおう。
いつものように空中でふぬぬと力をためてから放つ。
「裁くのはオレの能力だ、食らえ、神判っ!」
力の波動が王都を飲み込んでいくのと同時に喚き叫ぶ声が風にのって響いてくる。
神判を発動したまま王都の壁を越える。
予想できていたとはいえ、ニンゲンの数が多いな。
どいつもこいつも苦しんでやがる。
そもそも神判の力が強すぎるわな。
魂に刻まれた罪過ってなんだよって話だ。
町中を低空飛行で飛んでいると、食堂らしき場所があった。
こういう場所の飯も食ってみたかったんだよな。
うん。
よくよく考えてみたら食堂って注文が入ってから作るんだった。
できあがった料理は誰かが手をつけているわけだ。
さすがに見知らぬ他人が手をつけた料理に手をつけられるほど、オレの神経はずぶとくなかった。
絶句して失意のままに王城を目指す。
今度こそ周辺地域も見られる地図があるといいんだけどな。
城塞都市ラモヌイー ギルド長執務室
城塞都市ラモヌイーにある冒険者ギルドは一見すると平常の運営をしている。
しかしここ数日、ギルド長と副長の二人は根を詰めて会議を重ねていた。
「なんでこうなったんじゃっ!」
ギルド長であるボードゥアンが叫んだ。
副長のガラオリラが持ってきた聖女からの手紙を読み終わった後の一言である。
ボードゥアンの叫びを聞きながら、ガラオリラもまた顰めっ面をしていた。
正直にいって予想外のことばかりが起きているのだ。
件のゴブリンを
しかしその後がよくないのだ。
何があったのかわからないが、ゴブリンは魔神教団を壊滅させたらしい。
その後にもタタヌ王国辺境領都を襲っている。
しかも生存者がゼロという訳のわからない惨劇を引き起こしているのだ。
さらには北上しつつあるという報告まである。
件のゴブリンの狙いがどこにあるのかだが、聖女は不明だとしていた。
なにせ相対して生存している者がいないのだ。
著しく身体を破壊されているか、
仮に生存者がいたとしても、
聖女の予想によれば、件のゴブリンはこの町を目指しているのではとあった。
ただガラオリラはラモヌイーではなく、暗雲の森ではないかと予測している。
つまり恐るべき力を持ったゴブリンが故郷に帰ろうとしているのだ。
ゴブリンという知能の低い魔物にそんな帰巣本能のようなものがあるのか。
ガラオリラは疑問に思うが、事実こちらを目指している以上は理由がどうあれ対策をする必要がある。
だが対策をするといっても、ゴブリンとまともに戦っても勝てないだろう。
それはタタヌ王国辺境領のギルド長ウベルト・ピソをよく知っているからだ。
獣人の中でも優れた膂力と高い身体能力、正面から戦ってはさすがにガラオリラも分が悪い。
そんな相手も殺しているのだから、まともには戦えないと思う。
しかし目指す先がラモヌイーである可能性が高い以上、どうにかする術を見つけないといけない。
ギルドの副長として逃げ出す訳にはいかないのだから。
「なんかいい案はないか、ガラオリラ!」
ボードゥアンの問いにガラオリラは目を閉じた。
そしてゆっくりと息を吐いてから答える。
「戦うか、逃げるかの二択ですね」
「それ以外は?」
「件のゴブリンがどう考えているのかですがね。ただ私は戦うか、逃げるかの二つしかないと思います」
「戦って勝てるか?」
ボードゥアンが腕を組んでから問うた。
「負けるでしょうね。ギルド長もウベルト・ピソは知っているはずです。アレが負けたのなら我々も勝てない可能性が高い」
「儂ら二人で同時に戦ってもか?」
「十中八九、いやもっと高い確率で負けると思いますね。というかそもそも戦いにならないじゃないでしょうか」
ガラオリラの言葉にボードゥアンは目を剥いた。
自分たち二人で戦っても勝てないだろう、だがある程度は戦いになると踏んでいたからだ。
「その理由は?」
「件のゴブリンですが、高い確率で呪いを振りまく力を持っているんじゃないでしょうか?」
「
「瘴気に晒された死体が
「儂は
「それに件のゴブリンはアンデッドでもないです。まぁ不死というのは近いかもしれませんが、そもそも死にませんからね」
「なるほど。それで
「ということで戦っても勝てないでしょうね。では逃げるかということです」
「それこそ無理な話じゃな」
正確に言えば逃げることはできる。
しかしそれでは己の矜恃を保つことができないのだ。
たとえ種族が進化していようがゴブリンはゴブリンである。
そんな魔物に対して命惜しさに逃げられるはずもない。
「ではここが我らの死に場所になりますね。あとはいかに犠牲者を減らせるかですが……それは領主様とも話し合う必要があるでしょう」
「領主様にしてもラモヌイーを放棄することになれば、貴族として死ぬわけじゃしな」
基本的に貴族は戦に勝つことが求められる生き物だ。
そのため一戦も交えずに都市を放棄することはありえない。
つまり自分が死ぬことは確定として、家族をどうするのかを考えてもらう必要があるのだ。
「まぁその辺は運が悪かったと思うしかないでしょうね」
「運、か。そのとおりじゃな。あんなゴブリンが生まれるとは想像もできんわ」
かかかっと笑い声をあげる。
結局のところ腹を据えてしまえば、ボードゥアンは強い。
もともとギルド長というような職に就くようなタイプではないのだ。
ボードゥアンを気に入っているガラオリラは、だからこそ支えたくなるのだと考えている。
そしてこの瞬間に二人の腹は決まったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます