第5話 おかしいね 破滅を望む カルトかな


カルト教団拠点 マラクス


 どうやらオレを闇市場ブラックマーケットで買ったヤツらは常軌を逸した輩だった。

 誘拐・殺人・強姦・拉致監禁に拷問・解体となんでもありだ。

 組織的にそんなヤベえことをしているのかって、当然だよ。

 だって虚ろなる魔神プギツムトって神を崇拝しているイカした奴らなんだからね。

 

 で、オレはってそりゃもう酷いもんですよ。

 言葉を話せる珍しいゴブリンだからって滅茶苦茶にされましたね。

 もう勘弁してくれって話なんだけど、勘弁してくれるわけもなかったよ。

 

 それとさ、オレは確か赤毛の小僧に斬られたはずなんだけど、その傷が一切残ってなかったんだよね。

 気になってたんだけど、イカした奴らに拷問されてわかったんだ。

 どうやらオレの回復速度は異常だってことに。

 ある程度のダメージを追ったら気を失うから本当のところはわかんないけどさ。

 これも暗がりと性欲の神であるイライトのせいなんだろう。


 イライトからすれば善意だったのかもしれんが、お陰でオレはとんでもない目にあっている。

 悲壮感がないって?

 そりゃそうだ。

 ろくでもない前世だったけど、こんな拷問を受けたことはなかった。

 でさ、その記憶から判断するとだ。

 とっくに狂っていてもおかしくないと思うんだ。


 じゃあどうしてオレは正気を保っているのか。

 これもイライトのせいだと思っている。

 肉体と精神を健全に保つってやつだ。

 まぁ心当たりはあるんだよ。

 だってゴブリンに生まれたと認識して、オレは心が折れたからね。

 その時に狂っててもおかしくなかったんだ。

 でも狂ってないってことは、たぶんそういうことなんだろうさ。

 あと周りは腹をくだしてたけど、オレだけ大丈夫だったし。

 食べ物を選ぶ冷静な判断力があったからじゃなかったんだね。

 ちくしょう。


 ちなみにオレは今、カルト教団が行なう儀式のための臓器を提供している。

 住処は四畳半よりも狭い石畳の牢獄だ。

 目玉なんて何度抉られたかわからないよ。

 舌も切り取られるし、ゴールデンなナッツも抜かれた。

 腹を割かれるのなんて毎日だ。

 あいつらは暇つぶしにオレを傷つける。


 最初はさ、色々と言ったんだよ。

 罵ることもしたし、プギツムトをけなしたりもした。

 一週間も飯を抜かれたけどね。

 ここで唯一の楽しみが飯なんだ。

 オレに出されるのは残飯だと思う。

 でもゴブリンの飯より数段マシなんだよね。

 どんだけ貧しい食生活を送ってたんだよって話だ。


 怒りとか絶望とか、そういう感情は腹の底に沈めているんだ。

 今だって降り積もる雪みたいに、腹の底にどす黒い感情がたまっていく。

 ただそれを表には出さないようにしているだけさ。

 表に出しても良いことなんかなにもないからね。

 むしろ悪いことしかないんだぜ。

 こんな劣悪な環境に慣れているってこともイライラの原因だったりするけどね。


レストレスラバー弛まぬ情夫


 おっと頭がイカしたヤツの登場だ。

 こいつらオレのことをレストレスラバーって呼ぶんだ。

 なにが弛まぬ情夫だ、中二病かっての。

 つうかなんで英語なのよって思わんでもないんだ。

 たぶんイライトがくれた通訳の機能なんだろうね。


 がちゃりと鍵を開ける音がしたかと思うと、こん棒でぶん殴られる。

 くらくらとしたオレの足を持って、引きずっていくんだこいつら。

 まったく頭にくるぜ。


カルト教団拠点 儀式の間 マラクス


 気がつくと、オレはいつもの祭壇の上で縛られ、仰向けに寝かされていた。

 雰囲気的にはマヤとかアステカのに似ている。

 階段状のピラミッドがあって、その頂上に祭壇があるんだ。

 オレの目には夜空とやけに赤い月が映っている。

 星がきれいだな、なんて現実逃避している場合じゃないんだよね。

 だってもう儀式用のナイフを持った変態たちがいるから。

 儀式用のナイフって切れ味があんまりよくないんだよ。

 ざくっと刺されて、ぎぎぎぃと力づくで肉を引っ張っていく感じ。

 たぶん痛みをより与えるって方向性なんだと思う。

 最悪だろ?


「虚ろなる魔神プギツムト様に捧げる」


 ひときわ偉そうな恰好をした奴が言うと、他の奴らが唱和するんだ。

 もう最高にカルトって感じだ。

 で、こいつら薬物使ってそうなんだよね。

 だって目がガンギマリなんだもの。

 白目が充血しまくっちゃって、瞳孔が開きっぱなし。

 そりゃもう怖いったらないよ。


「贄の血を、肉を、心臓を!」


 ばすりとナイフが腹に刺さった。

 最近はなんだか痛みを感じなくなってきているんだよね。

 前は本物の悲鳴をあげていたけど、今じゃ完全にフェイクだ。

 演出じゃなくてヤラセに近い。

 オレに演技力なんて求められても困るんだがな。

 こんなことを気にするなんて、リアクション系の動画投稿者みたいだ。

 棒読みで”ぎゃああああ”って声をあげる。

 そしたらこいつらは満足するんだ。

 ガンギマリだからね、演技かどうか見抜けるわけもない。


「我らの信仰に大いなる神の慈悲を!」


 うるせえよ。

 自分らの心臓でも抉ってみろや。

 なにが信仰だ。

 こんなにか弱いゴブリンをいじめやがって。

 がっぺムカつく。


『捧げよ、捧げよ、血を肉を心臓を捧げよ』


 どっかから聞こえてくる怪しい声。

 巨人でも攻めてくんのかよ。

 オレが生贄になって少ししてから、この声が聞こえるようになった。

 ほぼと言うか確信があるんだが、こいつはプギツムトじゃない。

 シモ爺はイライトからの電波を受信していたけど、それは他の誰にも聞こえなかった。

 神官という特殊なクラスあってこそだからね。

 だからオレや他のイカレポンチどもに聞こえる神の声なんて信じられない。

 何らかの超常的な存在である可能性はある。

 が、ほぼほぼ神ではないと思っているんだよね。


 だけどイカレポンチどもには大人気だ。

”うおおお”って叫ぶバカもいれば、感極まって鼻を啜る音も聞こえるんだよね。

 まぁガンギマリだから仕方ねえか。

 そろそろ腹の中を弄り回すのやめてくれないかね。


【カカカっ! やっぱおめえ面白いヤツだな】


 む?

 なんだこれ? 念話? 心話? ってやつか。

 

【そうだよ。お前だけに話しかけてんだよ】


 偽プギツムトでいいのか?


【ああ、よくわかったな。ゴブリンの癖に】


 ゴブリンの癖にって要らねえだろ。


 ”フフン”って鼻で笑いやがった。

 ムカつくぜ。


【怒るなよ、おれぁ怨嗟の悪魔マンモノラってモンだ】


 悪魔、ね。

 そりゃ神が実在するんなら悪魔もいるってことか。


【おれぁおめぇに目ぇつけてんだよ。イライトのヤツも酷ぇことしやがるなって】


 それには同意する。

 たとえ善意であってもな。


【おめぇ、おれぁと契約しねえか?】


 契約? それをして何の得があるんだ。


【種族進化させてやるよ】


 ほう。

 進化するとどうなるんだ?


【強くなる】


 おいおいおい。

 それってまさか、アレかい。

 最弱のゴブリンがニンゲン相手に無双できるって話なのかい?


【そうなるだろうな】


 やる。

 契約すんぞ、マンマンちゃん。


【カカカっ! やっぱおめぇは面白れぇなぁ。ってかマンマンちゃんって誰だよ】


 さっき名のったじゃねぇか!


【マンモノラだ。そういうところはゴブリンなのな】


 うるせえ。

 四の五の言ってんじゃねぇよ。

 くしろ。


【落ちつけ。契約するには手順ってモンがあンだよ】


 いいから、くしろよ。


【いいか、おれぁおめぇが腹の底にためこんでいる怨嗟を喰う。その代わりに種族させてやる】


 怨嗟を食われるとどうなるんだ?

 ってかそれだとオレの怒りとかなくならない?


【いや逆だ。より怨嗟が強くなる。正気を失うくらいにはな】


 なんでだよ!


【それを説明すると長くなンだよ! いいからおめぇはそれで納得しとけや!】


 ちっ。

 悪魔のくせに契約を軽んじるとはなにごとかね?

 まったく近頃の悪魔ときたら、どいつもこいつもそんなことばかり。

 ああ、まったく嘆かわしいね。


【おめぇはどの立場で物言ってんだゴルァ! おれぁおめぇと契約しなくてもいいンだぞ!】


 ちょっと小粋なゴブリンジョークじゃないか。

 そう目くじら立てなさんなって。

 短気は損気、急がば回れって言うじゃないか。

 ごめんよ、マンマンちゃん。


【マンモノラだっ!】


 もちつけ。


【うるせえ! クソゴブリンがっ!】


 まったく悪魔ってのはもっとこう鷹揚でずる賢くって、スマートでエレガントだと思ってたんだけどな。


【クソがっ! いい感じに壊れてやがンな】


 さぁひと思いにやってくれたまえ。

 キミのラブを注入してくれていいんだよ。


【ああ! もうわかった! 契約だ、契約してやンよ!】


 マンマンちゃんの舌打ちが聞こえたような気がするけど、どうでもいいや。

 だって復讐できるんだもの。


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