血液
どの種族も体内に魔素は存在する。
その主たる場所は「血液」だ。魔素は万物の根源であるがために、身体にとって必要不可欠で絶えず全身へ送らなければならない。血液は体内で生成される魔素を大量に吸収し全身へ魔素を巡らせている。
血液に十分な量の魔素を供給でき、それでもなお体内の魔素の生成量が上回った種族が、私たちヴァンパイアである。
朝、日の出とともに目覚める。
一日の始まりは魔物退治からである。寝ている間に溜まった魔素を放出しなければならない。最も魔素消費が激しいと言われる魔法陣を生成し魔物を倒す。
魔物は倒しても、自然を傷つけないようにするのは精密な魔法の操作が求められる。今日は木一本で抑えられたので良しとする。
「みなさんおはようございます。今日から授業が始まりますね。最初は大変かもしれませんが、少しずつ慣れていきましょうね」
ホームルームが終わると授業が始まるまで数分の休み時間がある。クラス内ではもう既に何グループかできているのか、数人が集まって話をしている。
初日でもうこんなに仲良くなるんだな、と一人教科書の準備をしたり時計を眺めながら時間を過ごした。
最初の一週間は午前の授業で学校は終わり、その後は部活動や遊びに行ったりする。私は部活動に入っていないし遊びに行く友達もいないので家に帰る。
「シグレア、さん?」
帰ろうと思った矢先、突然名前を呼ばれた。振り返ると、金髪ボブのクラスメイトがいた。
「あ、もしかしてヘルンさん?」
「覚えてるの!? そうだよ、サツキマヘルンだよ!」
入学式後のホームルームで自己紹介があったためクラスメイトの顔と名前くらいは覚えている。確か彼女は趣味が料理で自称オムライスの卵のプロなんだとか。
「さっすが新入生代表さんだねー。何でも覚えちゃうんだね!」
「オムライスの卵の人だよね? 覚えてるよー!」
「うん! それで、シグレアさんは部活決めた?」
「いや、まだ決めてないよ。というか、メアでいいよ! ヘルン!」
「あ! じゃあメアちゃんで! メアちゃんは部活入らないの?」
「部活はいいかなって。やりたいことあるし」
無論、魔物の討伐もとい魔素の消費である。
「えー、勉強とか? メアちゃんは努力家さん?」
「いや、帰ってごろごろするだけだよ」
「またまたー。勉強できる人って勉強するって言わないんだよなー」
まあ、確かに帰ったら勉強はするが。
「ヘルンは部活入るの?」
「うん。私は魔術部かな! 魔法もっと使いたいし!」
「いいね、メア、応援してるよ!」
「ありがとう! 私もメアちゃんみたいに魔術士になるからねー!」
「え? メアは魔術士じゃないよ?」
「違うの? 頭いい人って魔術も使えるからメアちゃんも魔術士なのかと!」
「いやいや、魔法は使えるけど魔術っていうほどでもないよ」
「でもとりあえず、私、メアちゃんになるから!」
「メアになってどうするの」
「メアちゃんになりたい!」
ヘルンは部活を見に行くといって去っていったが、クラスで話せる人ができて嬉しかった。
家に帰って言った通りごろごろする。家の中で魔法陣を作り一匹のコウモリ――ルマを召喚する。
ヴァンパイアは生まれた時に一匹のコウモリを貰う。そのコウモリは血液が一緒でヴァンパイアの分身体とも呼ばれるが、あまりよく分かっていない。つまり、ヴァンパイアの伝統のようなものだ。
例に漏れず私もルマをもらい、三歳くらいの頃、そういえば名前をつけてないなと思い丸っこかったのでルマと名付けた。
最近はルマに新しく芸を覚えさせようと色々試している。
「おおー、ルマ、やるじゃん」
ルマが水魔法を放った。私の魔法陣で召喚されたルマが魔法を使うのはとんでもなく魔素が必要なわけだが、こと私に至っては何も問題ない。それどころか消費できてラッキーである。
「じゃあ次は火だねーって、家の中は危ないか」
外でも危ないのには変わりない。
その後は今日の授業でやった復習をちょろっとしたりご飯を食べたりして今日も暗闇の中へ向かう。
「今日はほんとに魔物が少ないなー」
朝出かけた時も魔物とほとんど遭遇しなかった。結局朝のように隣町まで歩き数体魔物を狩る。魔素はまだ余っているが明日の朝早く起きて魔物退治をすることにする。
手を息で温めながら自分の村まで歩いて帰る。
夜空を見上げるとその日は星が見えなかった。
黄色く輝くただ一つの満月が闇夜に浮かんでいた。
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