孤独なヴァンパイア

鹿毛ろう

誕生日

 ヴァンパイア。

 人間の体に鋭い牙、先端が三角のしっぽ、黒い羽を持つ種族。

 魔法があるこの世界で、その魔法発動の根源となる魔素まそを体内で生み出すことの出来る数少ない種族の一つ。


 私――シグレアメアはその生み出す量が他のヴァンパイアよりも多かった。


「どうしてメアは魔素をたくさんもってるの?」


 当然の疑問。ちょうど九年前の三歳の誕生日、母親に魔素のことについて教えてもらった時だった。


「メアちゃんはね、すごい魔法使いさんになるために魔素をたくさん持っているのよ」


 魔法使い、特に魔術師――感知できる魔素が多ければ多いほどより複雑でより高度な魔法を使うことが出来る。


 母親の言っていることは間違っていない。ただでさえ魔素を体内で生み出せない種族もいる中で、私は生み出せるだけでなくその量も多い。高名な魔法使いになるハードルは低いと言っていい。


「魔法つかいになると、お母さん、うれしい?」

「もちろん! メアちゃんがお母さんだけじゃなくて、もっと色んな人を魔法で守ってくれれば、もっと嬉しいよ!」


 多くの魔法使いは魔術士として、村や町を襲ってくる魔物を退治して治安を守る。私の父親もこのツイタツ村の魔術士で、日々魔物から守ってくれている。

 



 十一月八日。今日は十二歳の誕生日。小学生は今年までで来年には中学生となる。

 放課後、小学校の友達二人を家に招いて誕生日パーティを行っている。


「どうしてメアちゃんってそんなに魔素が多いの?」

 ケーキを食べていると私の友達が聞いてきた。

「メアも分かってないんだよねー。生まれつきってやつ?」

「メアって頭もいいもんね。まさに天才って感じ?」

 もう一人の友達がそう言った。

「そうかなー? メアは別に普通にやってるだけだけど」

「そうだよ! 私なんてすぐ魔素無くなっちゃうから、メアちゃんが羨ましいよー!」


 魔素は魔法だけでなくあらゆるものの源でもあるので、体内の魔素の量が少なくなれば当然疲労として現れる。その点、私は魔素が多く体力もあり集中力も続くため勉強なども卒なくこなせているのだろう。


 でも、魔素が多いからといってその努力を疎かにしているわけではない。

 

 話は変わって中学校の話題となった。

「メアちゃんって、中学はどこ行くの?」

「メアくらい頭良いなら、隣町のタナバチとか?」

「メアは普通にここの中学でいいよー」

「えーもったいない! タナバ中にすればエリート高のタナバチ高校にそのまま行けるんだよ?」

「メアはそういうのいいかなーって思って」


 正直な話、エリート高とかに興味は湧かない。私はこのツイタツ村が好きだから、この村で過ごしていきたいのだ。


「二人は?」

「私はツイタ中だよ。メアちゃんと同じ」

「あたしもだよ。ここら辺の中学それくらいしかないし」

「なんだ、みんな一緒なんじゃん」

「あはは、そうだね」

「じゃあ来年もよろしくな」

 



 季節は進み、私は中学生となった。小学校の時よりも生徒の数は多く、顔見知りは数人程度であった。


 成績優秀者、などと言われた。入学試験で最も得点が高かったようで、入学式で新入生代表として壇上に立つ。


「本日より、私たち新入生はツイタツ中学校の一員となりました。これからの三年間というものはあっという間に過ぎていくものと思います。勉強面などでの不安もありますが、一日一日悔いのないように中学校生活を送っていきたいと思います――」


 まばらな拍手を受け取り席に戻り、残りの入学式が終わるのを待つ。


 長い入学式を終え、教室へと向かう。残念ながら小学校の彼女らとは別のクラスになってしまったが、中学校でまた新しく友達を作ればいい。


「みなさん入学おめでとうございます。これから三年間、よろしくお願いしますね」


 ホームルームでクラスの雰囲気も掴み、その日は帰宅となった。

 



「もうこんな時間か」


 時計を見ると夜十時。昨日まで春休みだったため学校の時間に慣れない。

 厚いコートに袖を通して今日も外に出る。


「今日は少ないなー」


 私は毎晩、村の近くを歩く魔物を倒している。結果として村のためになっているが、これは自分のため――溢れる魔素を消費するためだ。


 私の異常なまでの魔素の生成量は、普通の生活をしていて使い切れるものでは無い。


 特に夜。どのヴァンパイアも夜になると魔素の生成量が増え、翌日のために魔素を体内に蓄えているのだが、私には必要ない。


 私の体内の魔素の生成量は年々増え続け、今では日中の生成量は普通のヴァンパイアの夜のそれと同じくらいである。


 だからこうして夜な夜な魔素を放出するついでに魔物を倒しているのだ。


 ではもし体内の魔素が消費しきれなかったらどうなるのか――それが人間から吸血鬼ヴァンパイアと呼ばれている理由だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る