10 婿ゲットだぜ

 「隊長、彩です」


 「お疲れ。婿捕まえた?」


 「捕まえました」


 「そうか、おめでとう」



 脅しプロポーズに正式に応え、ドエロい忍者装束で「本当に?」と繰り返し迫る茜部と理性との板挟みになりながらも「本気」であると念を押し、落ち着いたところで彼女は「上司に一報入れたい」とスマホを取り出した。

 隊長さんはどうやら若い女性のようだが……あれ会話丸聞こえなのは大丈夫なのか?婿捕まえた?ってポ○モンみたいなノリで話すよなぁ……

 ところで、このイベントには忍者の組織がバックとして関わっているらしいことは分かっていたが、まず両親ではなく上司への報告なんだな……あれ?そもそも俺も茜部もお互いの両親に挨拶すらしていないな?大丈夫なのか?



 「水原 優生ゆうき君」


 「あ、はい」


 「彩の上司で上忍のくぬぎだ」



 と、唐突な隊長さん……上忍?マジでそういう階級あるのか……からの呼びかけに思わず身体が強張る。



 「安心してくれ。彩は処女だ」


 「今何の話してたんでしたっけ?????」



 人生藪から棒な瞬間選手権のトップ2がこの二日間で連荘している。

 ん?もしかして俺が茜部のドエロ衣装の衝撃で記憶か意識が飛んだか?

 報告自体は普通に嬉しい部類ではあるがどういう意図で上司からそれが明かされるんだ??


 

 「くノ一の末端は房中術……色仕掛けの類だな。それが必修科目ということになっているんだが、そこにいる彩はキャリア組として房中術のを単位認定でパスした数少ないエリートだ」



 茜部、エリート忍者なのか……ちらっと視線を移すが、先からのくだりを受けて微動だにしていない。なるほどエリートかも。



 「履修していたなら君ぐらいの年頃の男子は色仕掛けで一発だっただろうが、それを経ずして結ばれるのであれば越したことはない。とにかく彩はエリートではあるが生娘だ。喜ぶがいい」


 「あぁ、なるほど」


 

 それは素直に喜びます。

 てか、多くの女性忍者は必修科目とか言って色仕掛けをしっかり学ばされるのか。エロ同人か?じゃなくて、忍者、現代のコンプライアンス的に完全にアウトなブラックなんじゃ?





 …………あれ?例の河村元市議って息子と同年代くらいの女子に手を出して~とかニュースになってたけど、まさか…………いや、生々しくて嫌だな。この件は考えないでおこう。

 

 そんで隊長さん、よく喋る人だな。



 「だが君はそんなエリートをめとるということをよくよく自覚していてほしい。彼女はキャリアだ。腐らせてくれるなよ」


 「……はい」



 つい一瞬前までの変に剽軽ひょうきんな雰囲気から一転、その声色には婿に釘を刺す父親を彷彿とする殺気にも近い睨みが感じられた。

 あぁ、上司に大切にされているんだな。茜部の学校の外での人間関係が垣間見えた気がして心が温まる。



 「私が便宜上立会人として二人の婚約の証人となる。婚姻届けまではまだ何かと不便だろう。誓約書なんて野暮なことはしないが、君の不義理で反故にされたり、我々の機密が漏れるようなことがあれば問答無用で実力行使だ。分かったな?」


 「肝に銘じます」



 ほっこりしていたが釘どころじゃないな。話が前に進んだからつい意識が薄れていたが、水原家の心臓は忍者に握られているんだった。



 「余念なく幸せになるように。以上――ブツッ」


 

 椚さんはひとしきり言い終わるとさっさと通話を切った。

 声色から想像つくけど、さばさばした女上司って感じだなぁ。

 

 一方の茜部は、通話が上司主導で自身の性事情まで明かされたというのにすっかりいつも通り素っ気ない表情で何ともなさげにスマホをしまった。



 「……今の通話を黙って聞いてるのもすごいよな」


 「立場的に口ごたえが許されない」



 超体育会系じゃん。忍者、ちょっと思ったのと違うベクトルでも怖いな。

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