11 娘さんを僕にください
「さっきふと思ったんだけど、茜部のご両親も忍者なのか?」
「両親はいないよ」
「え…………ごめん」
さすがに婚約するからには通すべき筋かと思ったが、気が逸って思いがけない地雷を踏む羽目になった。
「大昔にお隠れになったよ。
「そういうノリで語れる話なの?」
「まぁ両親は忍ではなかったんだけど」
「なかったんかい」
ヘビーな告白をさせて申し訳ないなと思ったところにこれだ。相変わらずすんっと薄めの表情だが、声色からも全然気にしていない風ではある。忍者らしいので本心かは分からないが。
「生みの親の記憶ってほとんどないからね。隊ちょ……椚先生が育ての親みたいなもの」
「あぁ……そっか……なるほど」
とんだ生返事だ。
ただ、途方もない忍者の突拍子の無さの中で一つ、茜部のような見た目普通すぎる女子が何がどうなって忍者になるのか気になっていた点が一つ明らかになった。
(身寄りのない子……か)
彼女は自身の仕事を「諜報の簡単な部類」と言ったが、色仕掛けが必修科目扱いだったり、ハイスペックな暗器を携帯していたり、四階建ての屋上から飛び降りて無傷な身体能力を仕込まれていたりするところから、多分に危険を伴う職なんだろうとは思っていた。
合理的……なのか?
分かったのは彼女のバックボーンの一端だけで、まだ分からないことの方が多い。
ただ、ゆくゆくは彼女と家族になるからには
「墓前に報告は……しに行きたい……かな」
「え、うちの両親の?」
「やめた方がいいか?」
「ってこともないけど……」
少し戸惑うような素振りを見せたが
「……うん、そう思ってくれてありがとう。今度一緒に行こう」
彼女は柔らかく微笑んだ。
「水原って意外としっかりしてるよね」
「意外に思われるほど日頃しっかりしてないつもりはないんだけどな……」
幸いなことに良識ある両親のもと、良識的な教育を受けてきたから。
「ほら、「娘さんを僕にください」的なアレを一応……」
と、照れ隠しに言ってはみるものの
「さっきの電話がそれだったと思うよ」
「……そうだよなぁ」
そこで茜部の視線の流れを感じてふと自分の姿を見下ろして固まる。
まさにその一大イベントを寝間着に成り果てた中学時代の芋ジャージでこなしていたという締まりがなさすぎる現実が目に入った。
人生で今ほど隠れたいと思った瞬間はない。
「……ごめん茜部。俺しっかりはしてなかったわ」
「その格好で墓前~からのくだり面白かったよ」
「俺の
「遠い将来一緒に入ろうね」
格好については、茜部のドエロい……恐らく忍者装束も、正式な装束なのかもしれないがフォーマルとはかけ離れているのでどうこう言われる筋合いはないと思う。ただ、双方の意思意外何一つ相応しくない雰囲気で人生の晴れの日を迎えたことに、すっかり非日常だなぁとぼんやり先行きが不安になるのだった。
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