4 現代の忍者
茜部と二人きりでの帰路は初めてではない。
今にして思うとどういう内心で今までの距離感があったのかじっくり思い返す時間がほしいが、普通に仲のいい友達でもあった俺たちは普通に平穏な帰り道を共にしていた。
他愛もない話にひと笑いふた笑いして、何ら劇的ではなく可も不可もない気を張らない帰り道。
「じゃ」と言えば「また明日」と軽く会釈して分岐する。
そんな気を張らない関係が心地よく、まさにそこに安寧を感じた俺は、それが綺麗系で明らかに自分では釣り合わなさそうな彼女相手にはっきりと好意を抱くきっかけになったと思う。よく話すようになったきっかけは本当に些細な出来事だったが、彼女とこういう関係になってから向こうも俺に対して同じ気持ちでいそうだなと雰囲気から察するくらいには、こんなフラットなノリのまま深い関係になった自負がある。
ただ、手放しにそんな関係に安心しきれない自分もいる。特に、仮に両片想いだとして、俺みたいなクラスの二軍どころか三軍くらいの男が相手で申し分ないのかというのはずばり聞いてみたいことでもあった。
こちらは一緒にいる時の心地よさに加えて相手を普通に可愛くて魅力的な女性と思っているので、そういう仲になれたことを役得だと思っているが、逆の視点ではこれは成り立たず、俺と同じノリができて単純に俺より高スペックな男子が現れたら太刀打ちしようがないので困る。
「普通な風でちょいちょい変なところだね」
「俺のどこが(脅迫してまで結婚前提縛りで付き合いたいくらい)いいと思ってくれたのか」と、本来少しは尻込みしながら訊くような話を先からの流れもあって軽いキャッチボールのようなノリで投げかけてみたところ、淡々と帰ってきたのがそんなセリフだった。
「それって褒めたのか?」
「褒めた褒めた」
あくまでも淡々と言う。大事だから二回言ったんじゃなくて雑に放ってバウンドしたタイプの二回だ。
「変」を自負していないし、日頃そんな自覚のない「変」に「普通の風」を着せているように見られてるのかと思ってドキリとしてしまう。
身に覚えのある「変」は中学に置いてきたつもりだったが……
「水原と一緒にいると、何か守りがいを実感できる」
「俺、与り知らぬところで茜部に守られてたの?」
何その無自覚主人公ポジ。そういうのを中学に置いてきたんだって。捨てそびれた破片が容易に燃え盛るから変に焚き付けるのはやめてほしい。
「いや、水原個人を守ってたわけじゃないよ。私と結婚したら護衛……っていうか一定レベルの監視?は付くけどね」
「ちなみにプライバシーはどこまで守られる?」
「実質抹消だよね」
消えてきれいさっぱり痕跡が残らないらしい。
俺にはもはや自由はないのか?
「情報漏洩を防ぐためにある程度……でもビッグデータ収集みたいなノリだし、危ないアクセスとかが弾かれるようになるってくらいで、ほどほどのリテラシーがあれば日常生活で障ることはないよ」
そう言われると、スマホとか色んな便利アプリで知らず知らずに収集されてる分と大差ないようにも感じるが……
「まぁ私は個人的に水原の検索履歴とか知ってるけどね」
「今日一聞き捨てならないことを言ったな?」
「私のフルネームで検索しても特に何も出てこないよ」
「ははは」
「今後はなるだけ包み隠さず答えるから、気になることは直接聞いてね」
「いっそ俺ごと抹消してくれ」
「それは困る」
全貌はまるで見えないが、
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