5 消えた河村
「訊きたいことがありすぎるんだよなぁ……」
しみじみとそう漏らした俺を、本当に微かに申し訳なさそうに茜部が見遣る。
「ごめんね、酷な二択を強いて」
「二択の前に色々と酷なことが判明したけどな」
フルネームで検索したのがバレてるってことは、流れでお互いの名字を変えて姓名判断を試したところまで筒抜けなんだろう。で、水原姓だとめちゃめちゃ良くて茜部姓だとめちゃめちゃ悪いから結婚するとしたら水原姓か……とか考えたり。そもそも茜部は姓名判断を気にするのか……茜部姓がそれだけで大凶だけど「気にしてないし、そもそも占いの類は信じていない」とか言いそうだよなぁ……とか一人PCの画面を前に思案していたのもバレてそうだよな。
そういう諸々を知ってて今までのフラット顔なのか?そこは確かに
「……忍者って結構いるもんなの?」
「一応正規の忍は公務員だしね」
公務員。
CIAみたいなノリかな?ちょっと面白そうって思っちゃったな。
「どういう仕事してんの?」
「多岐に渡りすぎて説明難しいな……あー、でも」
茜部はぽんっと思い付いたように手を打つ。
「明日から4組の河村君が学校に来なくなる、とか」
「河村?」
何かいたな、親が議員?とかでちょっと偉そうらしいやつ。ほとんど関わりないから顔もぼんやりとしか知らないが。
「じゃ、また明日」
「また明日」
結局、訊きたいことの九割九分ほどは訊けないまま、俺たちはいつも通り別れた。
翌日、河村は学校に来なかったらしい。
「あの報道は忍者の仕業?」
「関わってはいる」
ニュースで知ったが、歯に衣着せぬ物言いと評判の気鋭の市議会議員だったらしい河村の父親は、息子と同年代くらいの女性に金を渡してホテルに連れ込んでいたというよく見る流行りのやらかし発覚を皮切りにあれやらこれやら汚い所業の数々がザクザク掘り起こされていくのだが、第一報の翌日には颯爽と議席を降りて姿を
ついでに、関わりがなかったので「そこまでか……」と驚いたが、河村ジュニアの素行が余程アレだったのか、或いはタイムリーな火種だったからキャンプファイヤー気分を楽しみたかったのか、積もり積もった鬱憤を晴らすかの如く教室二つ分隔てたうちのクラスまで河村ヘイトがごうごうと
つまり一端として、これを煽動できる裏方ってことか。
思ったより怖いやつだこれ。
「これから続々報道されると思うけど、血税使い込むし、口うるさくて市政の運営に何かと邪魔な人だったから、地盤丸ごと再起できないやり方で」
「なるほどねぇ」
報道からひと月もする頃には、河村家がもぬけの殻になっていたと報道で知った。
以降河村家の人間に会った者は居ないが、抹消されたんだろうか?どうなったのか茜部には敢えて訊かないでいる。
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