2 茜部 彩

 茜部あかなべ 彩は(見た目)至って普遍的な女子高生である。

 一見すると素っ気なく、かと言って素っ気なさ故に取っ付きにくいというほどでもないくらいには表情豊かでもあり、クラスでは並のグループに属し、特に誰かに臆することもなくコミュニケーションも取る。

 知る限りでは成績は上の下。体育を覗き見た感じ運動神経は女子の人並み。ほとんど仕事がない保健委員。あと何だ……あぁ、制服の着こなしはお手本通りだが、優等生っぽい雰囲気でもない、まぁ特筆するところがない一女子だ。


 敢えて悪意を込めて言えば不愛想ではあるが、同級生からの印象は「フラット」の一言に尽きる。彼女の名誉のために書き添えるが胸の話ではない。


 そんな訳でフラットな彼女、目立つグループにいないので下馬評で名前は出ないが、意外に顔は整っていて正統派の綺麗系である。

 特定の男子と親しくなることがなく、彼女の風体がそんななので「脈はないだろうけど当たって砕けろで」と博打に告白する男子もおらず、故に色恋とは縁のないタイプだと思われていた。



 茜部当人でさえそう思っていたところだが、同じく特筆するところがほとんどなく……強いて言えばポーチに絆創膏と抗生物質の軟膏を持ち歩いていた奇特な男子 水原とひょんなきっかけで特別よく会話するようになる。

 これが不思議と馬が合い、しばらくすれば「学年で有名なレベルの両片想い」と噂されたところで当人同士がまぁまんざらでもなく、周りも「何かきっかけがあれば付き合うだろう」と生暖かく見守るくらいには親しくなっていたのだが

 


 

 「今、一家丸ごとこの世から抹消って言った?」


 「言った」


 「抹消って?」


 「消えてきれいさっぱり痕跡が残らない」



 抹消じゃん。

 怖。



 「茜部ってそんなヤバいこと言う人だっけ」


 「ヤバいこと言ってる自覚はあるけど、真面目ではあるよ」



 気持ち眉を八の字にしてこちらを見るその顔は、本人がそう言うからには真面目なんだろうが、よく同じ顔で冗談言ってたりもするからなぁ……



 「らせ○がんできる?」


 「私はできないけど、ぶっちゃけ兵器はあって前線では使われてる。ちなこれ国家機密」


 「何かさらっと俺の首絞めてない?」



 気持ち的には全く愉快じゃないけど、ノリはやっぱりいつも通りだ。



 「うん……あの、好きだし、好きな気持ちも別に揺らいだりしてないんだけど、ちょっと忍者のくだりから受け止めきれてない」


 「だろうね。ごめんね」


 「結婚は……まだ十代半ばで将来って具体的に考えてなかったけど……正直茜部とならって妄想はしたことある」



 そんでいつも通りのノリが続くなら、気を張らず退屈もせず、これまでの人生で出会ってきた女性の中で一番うまく行くだろうなとか勝手に想像してベッドで気持ち悪く悶えたりもしたさ。



 「萌えるわぁ」

 


 露ほども萌えているようには見えない顔で彼女はしみじみとそう言った。

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