私は未だに彼女に恋をする。

夜月心音

思い出というには、早すぎる。

「おはよう」

「おやすみ」

 これは誰もがよく使う言葉だと思うが、私はもう3年ほど付き合っている彼氏とよく使っている。それは、家族と普通は使うものなのだろうが、私には家族と心から呼べる人たちがいない。いないわけではないのだが、心が受け付けてくれないのだ。だからこそ、唯一家族と思える彼氏とだけよく使うのだ。

 彼氏とは仕事場で出会ったけれど、その時は私は気づかなくて、彼の猛アタックでようやく数ヶ月後に彼の存在に気がついた。彼とは友達を通り越して、恋人になったのだが、今は喧嘩をしつつも、多分仲良くやれている。彼は優しいし、それによく一緒に悩んでくれる。お互いに少しだけハンデを持っているところも含めて多分理解し合えていると思う。

 ただ、私にはまだとれない呪縛がある。

 それは、高校生の時に好きだった、人のこと。

 その人は、女性だった。同性だった。でも、お付き合いすることはなく、今まで過ごしている。もう連絡先も知らないし、忘れてしまったことも、多分、多くある。それでも未だに私は彼女と過ごした日々を夢で見るのだ。そんなことを今日は話していきたいと思う。


 彼女と出会ったのは、学校だった。たまたま後ろの席に座った彼女は、取っていた授業が一緒で、違うコースの子だった。

 ここで、一つ言うとしたら、高校なのに、授業を選択? コース? となると思うのだが、私は少し特殊な通信高校であった。高校の勉強をしながら、専門学校の勉強もできるという、少し変わった学校。だから、コースというのは間違いではないし、他の高校生とは違う経験をしてきたとも言えると思う。

 彼女は専門学校の生徒であった。そして、私の友達の松田と一緒のコース、デザインコースであった。そして私は、イラストコースであった。マンガコースと迷い、なんとなく、イラストコースにしたのだ。そして、出会うべくしてなのか、たまたま偶然なのか、私と彼女とは少しだけ長い付き合いになることになった。

 なぜその日、彼女が後ろの席にいて、彼女の友人の秋桜あきらと一緒にいた。私はイラストコースの中で、一人だけの高校生ということもあり、馴染めずにいた。そのため、この年に友達になったコースは違うが高校生の松田と一緒に座っていた。いつも、デザインコースの子がいるときは、松田と一緒にいた。多分私はイラストコースの中でも異様だったのかもしれないし、この時にとても精神的に参っていたこともあり、距離を置かれていたのかもしれない。

 どんな話をしたかはもう覚えてなんかいないが、彼女——友里ゆりと初めて話した時だった。初めは少し怖い印象で辿々しく多分話していたに違いない。けれども、そのクールさと、笑った時の笑顔が私の心を掴むのに時間はかからなかった。友里は怖い第一印象でも話せば冗談も言うし、向上心があり、そしてとてもマイペースだった。そのマイペースに、秋桜も松田も私も振り回されることも多かったが、それがまた可愛くて私はなんの文句もなかった。

 余談だが、彼女は最後の最後まで私と手を繋ぐことも、プリクラを撮ることも、作品を作ることもなかった。私たちはただ、共依存のような、友達とも恋人とも言えない関係であり、ただ、それだけでしかなかった。それは未だに私を彼女を思い出す原因になっているのかもしれない。これが友達や、恋人や、親しい人とか、振られた人……とか、もうそういう名前のつく関係ならばどれほど気が楽だったか。

 それでも彼女の笑顔は私にとって絶品だった、素敵だった。癒しだった。恋焦がれた。触りたかった。その髪の毛も頬も。

 一度だけ彼女に触れられそうだった時があった。それは、松田と秋桜、私と友里がいた時で、休憩の時間だった。もうこの時には私はデザインコースの生徒だと間違われてもおかしくないくらい、デザインコースの中に溶け込んでいた。イラストコースの人たちは私をどうみていたか知らないが、もしかすると、仲間と認識はしてなかったかもしれない。

「壁ドンってなんだろうね! した時にどんな気分なんだろう」

 そう言い出したのは松田だった。ただ、松田は私が友里を好来なことを知っていたから、それを機に距離を縮めて欲しかったのかもしれない。でも松田もマイペースであることから、ただただ不思議に思ったことを言っただけかもしれない。

「やってみたらいいじゃん」

 クールに秋桜が言う。見た目は友里の方がクールに見えるが、秋桜は大学の単位を取り切ってしまったから、四年中残り一年の時間を専門学校で過ごすことにした子であり、そして大学から学費免除が出るほど頭がよかった。だからかもしれないが、彼女はとても冷たく感じる言葉を投げることもしばしばあった。

 多分、友里がクールに見えるのは、その髪型と服装にあったのではないかと今は思う。綺麗に整い、刈り上げられたツーブロックの髪型。黒を基調にした、少し中性的な服装。夏は白Tシャツ、冬はブラウスが多かったと記憶している。ただスカートではなく、いつでも黒のジーンズや黒の綿素材のズボン、黒のスラックスと、本当に中性的だった。ただそれがとても魅力的だった。当時の私はギャルになりたくて、少し露出のある服や、髪の毛を染めて派手な化粧をしていたから、余計にそう思ったのかもしれない。

 本題に戻り、壁ドンを誰がするか、と言うことが少しだけ会議になったが、偶然なのか、松田が仕組んだのか、私が友里を壁ドンすることになった。

 そんなことしてもいいのか、友里は嫌ではないのか、私はちゃんとできるのかなんて、ごちゃごちゃと頭の中を巡った。手を繋ぐことも渋る彼女に、壁ドンをすることが許されるのだろうか。そんなことない気がして、本当に気が気でなかったと思う——と、いうのは言い訳であり、本当はものすごく緊張していた。好きな人に壁ドンをするのだ。目と目を合わせるのだ。もう、何も言えない。ここから関係が進展したらいいと思ったのも本当のことだ。

「私はいいけど、友里はいいの?」

 さりげなく聞いてみる。緊張で断られたらどうしようなんて思っていたけれど、彼女はすぐに

「え、いいよ〜」

 と、軽く言ったのだった。

 嬉しかった。でも彼女は私の壁ドンなんかで心が動かないことだって知っていた。それでも私だけ緊張して心臓がうるさく鳴り響いた。次の授業の教室の前でそんなことしていたわけだから、きっと誰もが私たちを不思議に思っていたことだろう。

「じゃあ、失礼します」

 なんて丁寧に彼女に言うと、秋桜も松田も笑った。友里は少しだけ緊張した面持ちに見えた。

 私は、彼女を壁際に寄せた。

 優しく肩を持ち、もう片方の手で、目の前の友里を見ながら、壁にトンっと軽く手を置いた。

 目と目が合う。

 彼女と二人だけの時間になった気がした。

 誰も私たちの間に入れない気がした。

 唇を奪いたくなった。

 もっと近寄りたいと思った。

 少しだけ、友里も恥ずかしそうに、顔を逸らしつつ、こちらを見ていた。

 かわいかった。

 何も言えなくなった。彼女も何も言わなかった、

 でも時は止まっていた。

 たぶん、私も友里もこの時は時が止まったように感じたと思う。私が友里に詳しく聞いたわけではないからわからないけれど。ただ、少し頬を赤くした彼女は中性的な子ではなく、素敵な女性だった。

 大好きだ。やっぱりそう思った。こんなに大好きな子に出会えることはもう2度とないだろうとさえ思った。こんな時に、思いを伝えられたらどれだけ気が楽だったか。

 でもこんな幸せな時間はすぐに終わった。授業の時間だった。

「あー。壁ドンする人ってこう言う気持ちなんだ」

 なんて少し平然とした態度で言った。松田に顔赤いよなんて言われて、初めて顔が赤く、熱くなっていることに気がついたが、そんなこと無視して、何事もなかったかのように、友里に

「友里はどきどきした?」

 なんて聞いた。私は、幸せな時間がなくなってしまった寂しさ、悲しさ、悔しさと共に、友里が私にどきどきしてくれたのかという期待、希望、不安が混じり合った。

「少しね」

 彼女は顔を背けながら答えた。

 嬉しかった。多分こんなこと二度とないだろうと、思った。実際に二度となかった。それでも、私はこの時に感じたときめきを今でも忘れないし、あの目と目があっていた時間は、たった数秒だったかもしれないが、私には今でも忘れられない、何年も何年も見つめあっている。彼氏ができても忘れられないこの気持ちは、私が今でも彼女のことが好きなのかもしれない。そう、思えてくるし、実際にはそうかもしれない。


 卒業は松田だけがした。秋桜も友里も学校の体制に疑問を持ち、一年でやめていった。私もイラストを描くことよりも漫画を描く方が良いと思い、そちらに行こうと思ったが、私はそれもやめた。そして、高校だけ。しかも、単位を落とし、半年留年した。秋桜とは、学校を辞めた時点で縁が切れてしまった。あの学校に通っていた時に出会った人と、縁を切りたかったようだ。ただ一人、友里を除いて。ただ、その後、友里もあまり連絡をしなくなったと言っていた。友里も私としか連絡を取っていないと言っていた。それがなんとなく、優越感のような、はたまた特別扱いのようなそんな気持ちになった。

 彼女とは卒業後も何度か遊んだり、ご飯に行ったりと合っていた。少し遠い、学校までの距離を電車で行くほど、動物園の目の前の駅にあるベンチで二時間待っても苦じゃなかったほど、突然の呼び出しに応じることに躊躇いがないほど、そして、アルバイトをしていなく、お小遣いのみしかお金がなかった私が、洋服を誕生日にプレゼントするほど、私は彼女のことが好きだった。大好きだった。大好きだから、彼女のマイペースなところにも、彼女のドタキャンにも、彼女の急なお願いにも、彼女が好きで私が興味がなかった映画にも、本にも、音楽にも、どんなものにも、触れた。彼女に触れた。彼女に近付きたかった。今では離れたこともあるが、いまだに好きなこともある。今の彼氏には申し訳ないが、こんなに合わせたのは多分、ない、だろう。

 動物園を何時間もかけて周り、その後、カラオケに行く時も、私は疲れていてもなにも言わずについていった。彼女が好きだったから。

 数学の先生になりたいから一緒に勉強しようという彼女に付き合って一緒に勉強したのも、すごく楽しかった。

 急に美術館に行こうと言い出した彼女に、文句も言わずについていった。

 私は本当に、彼女のことが、大好きだった。


 ただ、彼女は異様に連絡が遅かった。返信が来るのは一ヶ月後などが普通だった。私は、それに従った。ただただ返信をまった。半年こないことも、一年こないこともあった。でも、普通に彼女は

「返信遅れてごめん!」

 と、連絡をしてくるのだった。忘れられなかった。忘れられなくて、好きで、ずっと連絡をまった。そして、ごめんの繰り返しだった。

 私には、松田しか友達がいないと思った。孤立した。孤独だった。この頃には、高校も卒業していたし、もう、彼女と会う回数が減って減ってどんどん彼女は私から遠ざかっていった。

 松田はそんな友里のことを

「もともと自分勝手な人だったじゃん。私はあんまり好きじゃなかったよ」

 と言っていた。少し怖いと思った。あんなに仲良くしてたのに、そう思っていたんだって。でも、彼女の言っていることは正しい、と思う。

 マイペースは裏を返せば、人に許されなければ自分勝手に入るのだ、と。

 そして、彼女の夢はたくさんだった。夢多き人と言っても過言ではなかった。私が知っている限りで、デザイナー、数学の先生、東京のデザイン会社の社員、イラストレーター、とりあえず上京する、フリーター、映画に関わること……なんでもありだった。彼女が興味さえ持てば。逆に彼女が興味を示さなかった場合は、ダメなのだった。それでもなんでもありだった。悪く言えば、ふらふらしていた。彼女は自由人。私に引き留める能力なんてなかった。

 一つ覚えているのは、彼女に会うたびに私が言われたこと。

「仕事しないの?」

 という言葉だった。先述した通り、私は少しだけハンデを負っているため、なかなか仕事をすることに踏み切れずにいた。だから、例えふらふらしていても、友里がカッコよく見えた。私にはできない「仕事」ということをしている彼女は素敵だった。だが、それと同時に、彼女に好きなもの、欲しいものを買ってあげられない、自分にとても嫌気が差した。私はプレゼントされるよりも、する方が向いていた。だから、ふらふらしている彼女を私が養って行きたかった。そういう夢があった。だからこそなんとしてでも仕事をしたいと思った。

「今資格取ってるよ」

「アルバイト始めたよ」

「アルバイト辞めたよ」

「また、資格取ってるよ」

 なんて、言って、少しずつでも、努力、していたつもりだった。

 それでも彼女との距離は感じていた。きっと彼女にとって私は必要ないと私自身も感じていた。都合よく扱われているだけだと、気づいていた。ただ、彼女に問題があったのは、正直しょうがないと言える事情があったのも、また事実だった。


「うちの親離婚しそうなんだよね」

 唐突に彼女が言った。

 少し悲しげな彼女の顔を見たら、少し何も言えなくなった。ずっと、彼女に、自分の——私自身の家庭の愚痴を聞いてもらっていたのだ。私の家庭も問題があったことで、そのことで精神が参ってしまっていた。だが、友里もまた家庭で問題を抱えていたようだった。

「今度別居することが決まったんだよね。私は残るけどさ、なんか笑っちゃうよね」

 そういう彼女の表情は笑っているように見えて、悲しげで、寂しげで、自分では……友里ではどうしようもできないと理解していた。親のことは子供では解決することができない。本人たちの問題であるからだ。本人たちの不仲は子供にも影響するし、響く。彼らは気づいていないだろうが。親だって一人の人間なのだ。

「そうなんだ」

 そう言った覚えはある。でも他になんて答えたかは覚えていない。思い出せない。ただ励ますことしかできなかった。

 そして、次のことを話したと思う。

「私さ、だから男性が苦手なんだよね」

 友里が言う。お父さんの影響だったかと思う。

「私さ、だから人と深く関われないけど、誰かを求めているんだよね」

 友里が言う。お母さんの影響だったと思う。

 私はその言葉を聞いて、ああ、私と同じだったんだ。だから、だからこそ友里のことを守りたいって、なんとなく掴みどころがなくて、ふわふわしてるのに何か裏があって、闇があるように見えてたんだって。友里はずっと耐えてきたんだって思った。

「大丈夫だよ。私がずっといるから」

 そう、答えたかと、思う。そう思うのは、友里が泣いたから。泣いたことのない友里が泣いたから。その時やっと、友里の隣にいれると思った。友里の近くに来れたと思った。友里の理解者になれたと思った。友里の恋人に近づいたかと思った。思えた。

 重たく、また友里が口を開く。

「彼氏なんかいらないよね」

 だから、この時に、友里に話した。

「じゃあ友里が彼氏を作らないなら、私も男の人苦手だし、作らない。私は友里のそばにいるよ」

 って。私は破ってしまったけれど。

 彼氏ができるまではなるべく、友里と連絡を取った。友里のことを一日中考えた。何も手がつかなくなるくらい考えた。思った。好きだと。何をしてるのかと。仕事で疲れてないかと。友里の会話に出てくる友達に嫉妬して、一緒にプリクラを撮っている女友達に嫉妬して、友里のイラストのSNSもチェックして、イラスト作品を購入した。作品は単に好きだってこともあったけど、友里から手紙がくることが嬉しかった。

 もう大好きだった。大好きだ。本当に好きだ。


 ただ、友里からの返信はどんどん減っていった。


 毎日くる時もあった。でも、一ヶ月我慢した時もあった。もう、何を話していいかわからなくなってから来た時もあった。どんどん距離は遠くなっていくのを感じているときに来た時もあった。


 私は独りになった。


 友里からの連絡がなければ、友里に連絡もできなかった。

 友里からの連絡がなければ、友里に会えなかった。

 友里からの連絡がなければ、友里に伝えたいことも話せなかった。

 友里からの連絡がなければ、最後に会って、好き、って——。


 どんどん友里は遠くなって行った。商業用のイラスト本に紹介されたりもしていた。前は一緒に参加していた、イベントも参加しなくなった。友里の絵もグッズも買わなくなった。有名な本屋さんとのコラボグッズも買わなかった。連絡も期待しなくなった。恋人になることも期待しなくなった。同級生の時、冗談で話していた東京に上京してルームシェアするというのも、考えなくなった。もう、期待も、希望も、思考も、全てが停止した。

 私の中で友里は死んでしまった。もう頻繁に会えないと悟ってしまった。もう、連絡が来ないと悟ってしまった。もう、一緒に何かできないと悟ってしまった。ブロックされていたわけではない。でも、もう、私の中で我慢の糸が切れた。

 私にはもう動物園に行く約束で二時間も遅刻してくる友里を許せるほどの、余裕がなかった。

 私にはもうふらふら仕事をしている友里を養いたいと思えるほどの、余裕がなくなっていた。

 私にはもう友里とルームシェアするという夢を考えるほどの、余裕がなくなってしまった。

 私にはもう友里を支えてあげるほどの、余裕がなくなった。

 もう、無理だった。私には。無理だった。

 もっと、一緒にいたかった。もっと。友里と一緒にいたかった。夢に出てこな程度には、すっきりとこの恋に終わりを告げたかった。思い出すたびに苦しい思いをしない程度の強さが欲しかった。

 私の家庭も徐々に崩れていった。母が精神科に入院した。父が家事をするようになった。母は父に会いたくないと言った。父は怖かったけど、優しかった。母は強かったけど、無理をしていた。

 私には、どれも、なにも、できなかった。

 最後に会ったあたりで、友里の家族は離婚したと聞いた気がする。私の家族は、今でこそもう無くなっているが、その時は渦巻きの中だったと記憶している。

 友里に最後に会った時、もう彼氏がいた。その彼氏に私は言った。

「私は男性が苦手だから、数日も持たないかもしれない」

 彼の一目惚れからの、俺が支えたいという言葉の後にそう言った。

「俺のこと利用してもいいから」

 彼はそう言った。多分、初めの数ヶ月——いや、一年くらいは利用していたのかもしれない。先述していた通り、共依存の矛先を変えただけかもしれない。好きとか嫌いとか彼にそんなこと考えていたかどうかさえ覚えていない。私は弱かった。友里を支えれるはずがなかった。だからその日が友里に会う最後の日になると思っていなかったけれど、私は友里に言った。

「ごめんね。友里。私、彼氏ができたんだ」

 友里は少し驚いていたように、見えた。でもすぐに

「もしかして、この間、連絡たくさんきて少し迷惑って言っていた人〜?」

「うん」

「やっぱり! 何となくそんな気がしたんだよね〜……」

 この時の友里の反応で私は思った。


 友里は私のことを——。


 いや、きっと無意識に、都合よく使っていただけだ。これ以上のことは、今はもうわからないし、わかっても、私にはどうすることもできない。

 私には彼がいる。

 そして、こうして思い出に浸っては、私はあの時のときめきや、後悔を思い出すのだ。もう友里とは話すこともないだろう。もうしばらく、年賀状LINEもしていなかったし、私がつい先日LINEアカウントを変更してしまった。つまり、私たちの微妙な関係は終わったのだ。完璧に。


 こうして思い返せば、私と友里は本当に歪な関係だったように思う。これは私の感想でしかなくて、第三者の意見ではないけれど。たぶん、健全な関係ではなかったかと思う。こうやって、人を好きになることは、簡単に、急に起こり、なんにも教えてくれない。だけど、私はこの恋について——友里を好きだったことについて、後悔はしていない。今の彼と付き合っていることも後悔していない。私は、私の恋を歩んでいて、私は私なりの正解を導き出しているのだろう。

 だから……。


 だから、この恋を終わらせずに、心の奥底にしまって。


 そして、今日も私は歩いていくのだ。

 こんなことを未だに言ってしまう私はきっと、まだ彼女のことが好きなのだろう。

 言えなかった後悔をここに。


 友里、ありがとう。大好きだよ。

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私は未だに彼女に恋をする。 夜月心音 @Koharu99___

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