44、はめられた……。
★グンタ国周辺マップURLを、マップ欄に掲載しました。
-----------------------------------------------------------------
【新暦2445年12月20日PM2:13】※現地時間
【ともきー】こと三島友輝……。
だって、ミーシャがマトモに呼んでくれないんだもん。
ともあれ僕は、第1/第2警備隊とともに、グンタ国の主要港【ドード】に到着した。
港と言っても、木造のはしけが串型に並んでいるだけ。
しかも木造船用だから、もっとも深い場所でも7メートルもない。
まあ、近代以前……地球でいう大航海時代あたりの文明だから、これがあたり前。
当然、駆逐艦はもちろん、海防艦ですら接舷できない。
そこで港内の深い場所に投錨して、そこから手漕ぎのカッターで上陸することになる。
でもねー。
わたくし三島友輝は思いましたよ。
なんで、はしけの横にある黒っぽい砂浜に、ででーんと二式飛行艇が乗りあげてるのかって。
おまけに……。
はしけには、見たことある二人が、ニコニコしながら手を振ってるじゃないっすかー。
黒島亀人長官専任参謀と、世界樹の巫女様こと、メーレン・リーンセチア・プロモガルドさんですよ、あれ。
「三島、長旅ごくろうだったな」
マジメぶって声を掛けてきた黒島参謀だけど、声が幽かに笑ってる。
「どうじゃ? リーンネリアの者による、地球の船の運転は?」
メーレンさんのほうは、もろに笑いだしそうな顔だ。
「……いろいろお答えしたいところですけど、まずはこちらから。なんでお二人が、ここに居られるんですか? なーんも聞いてませんよ!?」
こっちは不信感丸出し。
さすがに不味いと思ったのか、黒島参謀が口をひらく。
「まあ、なんというか……あ、いや、騙したわけではないぞ?」
「お二人が来られるのなら、わざわざ自分なんかが無理して交渉役を務める意味、まったくないじゃないですか!」
「あ、いや……貴様は本当に、連合軍総司令部から派遣された全権大使だし、俺たちは何の権限もない、ただの連絡係だぞ?」
「GF司令長官付の特任参謀殿と、リーンネリアの真の最高権力者集団に所属しておられる巫女様が、何の権限もない連絡係ですって? それじゃ自分なんてミジンコみたいなもんじゃないですか!」
僕が本気で怒りだしたため、慌ててミーシャが腕に抱きついてきた。
「ともきー。こんなとこでケンカすると目立つにゃー」
すぐに工藤先輩も駆けより、一発脳天に拳固を振るう。
「まあ、落ちつけ。怒るのは話を聞いてからでも良かろう?」
いや、殴る前に説得してほしい。
「黒島様、メーレン様。こたびはどういった御用で?」
先輩の横に寄りそってるサリナさんが、心地よい声で尋ねる。
答えたのはメーレンさん。
「いや、まあ、なんだ。じつはのう、グンタ国で大頭領をやっておるオーレ・ババンゴとは、かれこれ800年くらい前に大喧嘩したことがあっての。
あやつはハイドワーフで、わらわはハイエルフ。もとからコボルトと猿人くらい性格があわんかったのよ。
なのに、わらわが世界樹の巫女として、リーンとグンタの共同戦線を締結しようと交渉したのじゃが……これが見事に決裂してしもうた。
それ以来、グンタはかたくなに魔王国との戦争に荷担せず、もっぱら北のレントンに武器を売却するだけの仲になってしもうたんよ」
グンタ国と仲が悪くなったの、あんたのせいだったのかよ!
口元まで出かかったけど、一所懸命にがまんした。
申しわけなさそうにしているメーレンさんに代わり、黒島参謀が口を開く。
「なあ、三島。本来であれば、全権大使はメーレン殿だ。だが、彼女が表に出ると、まとまる話もおじゃんになる。
そこでメーレン殿は影に潜み、表の代表である貴様が全権大使として交渉に当たることになった。
これらのことは、GF参謀部と巫女団、そして連合軍総司令部で決めたことだから、悪いが変更は不可だ」
どうせ策略大好きな黒島参謀の入れ知恵でしょうに。
だけど僕は、上官の黒島参謀には逆らえない。
まあ、文句は言うけど。
地位を悪用して練られた、悪逆非道な
あー、今回もやっぱパシリじゃん。
がっくし。
「……わかりましたよ、もう。それで、自分は何をやればいいんです?」
僕が了承の意志を示した途端。
申しわけなさそうにしていたメーレンさんが、ぱっと顔を上げた。
「ともかく、なんじゃな! ここで長話をすると目立つ。われらはしばらく飛行艇におるから、その間に、出迎えに来ておるグンタ国の責任者と会って、当座の宿に案内してもらうのじゃ。
交渉は港町ドードでは行なわず、首都のドドンガにある大統領館で行なわれる。じゃから明日にでも、ドートからドドンガまで、蒸気機関車に乗って移動することになるじゃろ。
儂らも遅れてドドンガへ向かうが、詳しいことは今夜、おぬしたちの宿舎にて行なう。わしらの身分は、全権大使の世話係となっておるから、何も気にすることはないぞ」
そうですよねー。
他人から見れば2人は、10歳くらいの侍女を連れた年配の軍人にしか見えんもんね。
地球の軍隊では侍従も軍服を着るって言えば、余裕で通用しそうだもんねー。
それよりも……。
「この世界に、蒸気機関車があるんですか!?」
こっちのほうが100倍気になった。
「あるぞい? もっとも、正式には【魔導制御式蒸気機関】じゃがな。黒島坊に聞いたところでは、地球の蒸気機関には魔法が使われておらんようだが、そんな雑な制御でよう爆発しないもんだと思うたわ」
「その呼び名、よしてくださいと言ったはずです」
黒島参謀、心底嫌そうな顔になってる。
でも、1400歳のロリばばあからすれば、たしかに鼻タレ坊主だよね?
「でも、リーン諸島やシルキー山脈あたりじゃ、一度も見たことがないんですけど」
「そりゃそうじゃ。いまのことろ蒸気機関はグンタ国の専売特許、国外不出の超機密技術じゃからな」
「そんなもん、簡単に見せていいんですか?」
「おぬしらの軍艦、あれ蒸気機関じゃろ? いまさら隠す必要もなくなったと判断されたんじゃろうて」
「……ふーん、なるほどねー」
あまり長話してると、また先輩の拳固が降ってくる。
そう思ったから、なんとなく納得したフリをしてみた。
「もうええのか? それじゃ、今夜またの」
メーレンさんも、あんまり興味なかったみたい。
すぐ話を切り上げると、さっさと浜辺にある二式飛行艇のほうへ歩いていく。
この光景……。
桟橋の付根にいるドワーフたちから見れば、出迎えを終えただけの付き人たちに見えたはずだ。
「大使? 我々も、そろそろ行くとしますか? 三・島・大・使?」
工藤先輩、それものすごイヤミ。
「ミーシャ。大使様に、そのような気軽な態度は不敬ですよ。きちんと伴付き女官として態度を改めなさい」
サリナさんも、よう言うわ。
「むー」
当然、ミーシャは頬を膨らませたけど……。
【伴付き女官】ってのは今回の正式な役職だから、サリナさんの言うことは正しいっちゃ正しい。
「第1護衛小隊、護衛態勢に入れ」
先輩の命令とともに、12名の猛者たちが僕とミーシャを取り囲む。
ちなみに。
僕の配下になってる三島総務隊6名は、すでに宿泊施設に先行してて、今頃は盗聴装置の有無とかなんとか、いろいろ調べている最中のはず。
いくら味方になるグンタ国とはいっても、正式に同盟条約を結ぶまでは他国だから、それなりの防諜工作も必要なんだって。
とか考えてるうちに……。
痺れを切らしたのか、出迎えのドワーフたちのほうから近づいてきた。
「人族連合……あ、いや、連合軍総司令部からの交渉団の皆様。私はグンタ国の鍛冶ギルド総支配人のウポポ・カーネルと申します。
こたびは我々のギルド総元締である大統領、オーレ・ババンゴとの国家間交渉のための御来訪、まことにお疲れ様でありました。
つきましては、全権大使殿に相応しい宿を用意してありますので、ぜひ御同行願い奉ります」
あ、【大統領】って言うから、アメリカみたいな国って思ってたら。
大工とか鍛冶の【頭領】の、さらに上役【大・統領】って意味なのね。
僕がなんて言おうか迷ってると、するりとサリナさんが前に出た。
「人族連合から派遣されてきました全権大使様お付きの女官長、サリナと申します。大使様の身の回りのお世話をさせて頂いている関係上、カーネル様との応対もわたくしめが勤めさせて頂きます」
そう告げると、深々と頭を下げる。
サリナは一流の交渉人だから、相手を不快にさせることは絶対にない。
話に割り込まれたカーネルも、サリナさんの見惚れるような容姿と態度にまんざらでもなさそうだ。
「これはこれは、お美しい女官長であらせられるな。では皆様、こちらへ」
カーネルさんはサリナさんの横に並び、僕たちを先導するようにして歩きはじめる。
僕はというと、護衛兵12名にがっちり囲まれて、何も見えへんがな。
先を行くサリナさんの姿すら確認できない状態で、てくてくと移動を開始した。
こんな風で、ホントに大丈夫か、僕?
ま、まあ、サリナさんがいるし、黒島参謀もいるから……。
いざとなったら丸投げしてしまおう。
そう決心して、これ以上考えないようにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます