42、三島友輝グンタ国へおもむく

「三島友輝少尉。貴官を海軍連絡局直轄部隊所属とし、三島総務隊の隊長に任命する!」


 こう言われたのが10日前。


 なんでこうなった?

 これが素直な感想。


 だって海軍連絡局って、新設された連合軍総司令部(正式名称はリーンネリア連合軍総司令部)の内部組織だよ?


 地球から勇者召喚された連合艦隊や陸軍部隊/陸戦隊。

 そう……僕ら【勇者軍】は言っちゃ悪いけど余所者集団だ。


 当然だけど、リーンネリアを守る正規軍は人族連合軍。

 彼らからすりゃ、指揮系統がちがう軍が勝手に戦うのは色々と困る。


 それなら両軍を統合すればいい……ってことにはならない。

 なぜなら勇者軍は、いずれ地球に帰っちゃうから。


 でも魔王国軍と戦う戦力は欲しい。

 勇者召喚までして戦力を補充したんだもん。

 恋い焦がれるくらい欲しいのはあたり前。


 そこで……。

 両軍の組織はそのままで、その上に統括組織を作ることになった。

 それが連合軍総司令部ってわけ。


 海軍連絡局は、その中の組織のひとつ。

 同じ理由で陸軍連絡局もある。


 海軍連絡局は、ちょっと前まで連合艦隊連絡局って呼ばれてた。

 陸軍連絡局も、前は地球陸軍連絡局。


 なんで名称が変更されたかっていうと。

 人族連合から、2つの軍を統合した名称にしてほしいって要請されたからだって。


 まあ、どうでもいいけど……。

 どちらも勇者軍と人族連合軍が共同作戦を実施するために設置されたことには変わりない。


 でもって、僕が転属したのが海軍連絡局の直轄部隊。

 てことは、海軍が共同作戦を実施するさいに最優先で動く部隊ってこと。


 しかも僕の名前を冠した総務隊ですよ、総務隊!

 総務っていえば雑事全般なんでもやります部所じゃん。

 あい変わらずのパシリ任務……とほほ。


 で……。

 三島総務隊の隊員は、僕を含めてたったの6名。

 隊の規模でいえば小隊より小さい分隊みたいなもん。


 しかもなぜか、

 特別軍属って扱いだがら兵士じゃない。

 となると実質的な隊員は5名……。


 普通なら文句を言いたいところだけど、無理。

 だって任命したの山本五十六長官だもん。


 同時に工藤辰巳先輩も転任ていうか、新たな部所に配属された。

 工藤特務中隊の

 

 上位組織は、なぜか同じ海軍連絡局。

 本来なら陸軍連絡局のはずなのに、なんでだろ?


 ともかく……。

 なんと、あの先輩が中隊長ですよ!

 当然だけど階級も中尉に昇進。


 先輩の部隊はまともな編成。

 第1護衛小隊12名/第1支援小隊12名/第1隠密小隊10名ってなってる。


 そしてまあ、なんていうか……。

 サリナさんが第1護衛小隊の特別軍属になってる。

 ま、こっちにはミーシャがいるから当然か。


 ちなみに第1護衛小隊って、これまで三島護衛隊って呼ばれてたものね。

 第1護衛小隊と名前が変わっても、やることは同じ。

 つまり僕個人の護衛。しかも先輩直率部隊。


 ってことは、僕の部下は何をやるん?

 そこらへんは着任後に教えてもらった。


 僕の部下は、文字通り、僕個人の親衛隊。

 昼夜を問わず僕の直轄として、いろいろ任務を遂行する。


 しかも彼らは、僕の護衛兵じゃない。

 護衛するのは先輩とこの第1護衛小隊だもん。


 だから僕の部下は、僕の命令であちこち飛び回ることになる。

 当然、僕のそばを離れることも多いから、別に護衛する部隊が必要ってわけ。


 それじゃ工藤先輩のとこの他の部隊は?

 そこらへん、先輩に直接聞いてみた。


 第1支援小隊は、護衛小隊と隠密小隊が活動するさいに必要な後方支援を一手に引きうける部隊みたい。まあ、縁の下の力持ち部隊だね。


 第1隠密小隊は、名前通り秘密工作を行なう怪しい部隊。

 普通に考えりゃ、索敵とか偵察を担う部隊って思うけど、ちがう?


 ともかく……。

 僕はGF参謀部から、先輩は横須賀陸戦隊から転出することになった。


 これらの人事移動が終了したら、すぐさま出動命令が出た。

 いやはや……人使いが荒いねー。



※※※



【新暦2445年11月30日AM10:00】※現地時間


 そして……。

 いま、出動命令を正式に受理してるとこ。

 場所はアスファータ港にある連合海軍第1埠頭。


 連合艦隊の拠点はルード島にあるから、ここは連合海軍専用の埠頭だ。

 当然そこにいるのは、新設された連合海軍地方艦隊の艦。


「私が第1警備戦隊司令のブライア・キース少佐だ。そして、こっちにいるのが第1警備隊隊長のミエル・アリッサ大尉と第2警備隊のオランド・ブーマ大尉。

 三島総務隊と工藤特務中隊は、第1/第2警備隊とともに、これからグンタ国へ公式訪問してもらう。訪問内容は出撃後に密封書類の開封をもって知らせることになる」


 キース少佐は海人族の一種、ラッコ族の男だ。

 身長は100センチ前後しかないから、どうしても見下ろすかたちになる。


 年齢は……よくわからん。

 他の獣人族と違って、顔までラッコなんだもん。

 ラッコが立って軍服着てる。実際見ると、なかなかシュール。


 でも人族連合では、歴史ある海軍の指揮官職についてた種族らしい。

 だから、リーンネリアの海を知り尽くしているという意味で侮ることはできない。


 アリッサ大尉は海猫族の女性。

 年齢は人間でいえば20台後半に見える。

 でも階級を考えると、もう少し上かな?


 それにしても、女性士官ですよ!

 連合艦隊じゃ士官どころか、女性は1人も乗艦してない。


 だから人族連合軍じゃ女性軍人は普通って言われて、最初は面食らったもんだ。もう、慣れたけどね。


 海猫族はミーシャたち短耳猫族と違って、どっちかっていうと山猫族に近い種だ。


 身体も大きく、ピンと張った大きな耳に精悍な顔だち。

 大柄だけどスタイル抜群にいいねー。

 猫っていうより小型の豹みたい。


 そしてブーマ大尉は、なんとリーン諸島の原住民だった【仙族】出身だ。


 仙族は、ひとことで言えば世界樹の巫女団に仕えていた人間族系列の種族。


 魔王国軍が侵略を開始するまでは、リーン諸島不出の種として、世界中から珍しい存在に見られてたんだって。


 仙族は巫女団の眷属となって活動してきた歴史がある。

 だから他の種族にはない特徴を持ってる。


 それは

 簡単にいうと、同じ魔力(MP)でより大きな効果を発揮できるってこと。


 ただし欠点もある。

 体内魔力蓄積量(MP上限)が、他の種族にくらべて極端に小さいことだ。

 それは永らく、世界樹の莫大な魔素を潤沢に利用できる環境にいたせい。


 いわば短距離走者みたいなもんで、1発だけならでかい魔法を使用できるけど、すぐ魔力が尽きちゃうんだって。


 なかなか使い勝手の悪い特徴だけど、いざと言うときの1発が期待できるあたり、頼もしい味方になってくれそう。


 ところで……。

 密封書類の開封って、これ極秘任務だよね?

 行き先がグンタ国ってことは、ようやくドワーフ族が正式参戦してくれるってことだよね?


 僕の特殊スキル【エリア翻訳】が、また必要になった?

 でも、そうすると、本当の委任使節は誰よ?

 まさか先輩?


 僕の顔が疑問だらけなのに気づいたキース司令。

 とってつけたように言葉を付け足す。


「あー。これは機密事項だが……まあいいか。使

 つまり貴官が最高責任者だ。詳しくは密封書類を見てくれ。これ以上は、現時点では教えられん。

 言えることは、これからの連合軍……連合艦隊と地方艦隊、そして地球陸軍と連合陸軍の運命が、今回の公式訪問に掛かっているということだ。

 つまり任務は重大。失敗は許されん。事が事だけに、新設なった地方艦隊の全艦をもって護衛する。それだけ重要ってことだ」


 いやいやいやいや……。

 そんなわけないでしょー。


 それってリーンネリア陣営の未来を、たかが少尉に託すってことだよ?

 どう考えてもありえない選択肢じゃん。


「ともあれ……レントン国への武器供与を円満に完遂した諸君だ。今回も無事に任務を完了できると信じている。ということで、出動に際しての訓辞を終る。出撃は夕刻だから、このまま乗艦してもらう。

 乗艦するのは第1警備隊旗艦の駆逐艦シムワッカだ。艦長はミエル・アリッサ大尉が兼任する。小さな駆逐艦で済まんが、しばらく我慢してくれ。

 なにしろ第1警備戦隊は今回が初任務だ。よってグンタ国のドード港までの航海も、ほとんど訓練がてらになると思う。そのへんのことは、仕方がないと諦めてくれ」


 ちなみに戦隊司令のキース少佐は同行しない。

 作戦本部で、遠話や無線通信を通じて指揮するんだって。


 重大任務を担わせといて、自分は後方勤務かよ……。

 そう思うかもしれないけど、これ海軍じゃ普通。


 いや、ホントに重大任務?

 いろいろ考えると、そうじゃない感じがメチャクチャする。

 どうせ細部まで煮詰められていて、あとは形式的に調印するだけとか。


「では、乗艦!」


 キース少佐の号令で、まず三島総務隊から駆逐艦シムワッカに乗りこむ。

 これ、どう見ても訓練航海だよ?


 しかも巡洋できる最小の能力しか与えられてない艦隊。

 もう不安しかない。


「三島……いざとなったら、俺の支援小隊が救命ボートを出す。だから心配するな」


 乗りこむ寸前。

 工藤先輩が僕に耳打ちした。

 しかも訛りなし。マジだ。


 その隣りには、にこやかに微笑むサリナさんがいる。

 いや……。

 あい変わらず、なんのフォローにもなってないんだけど。


 かくして……。

 僕らはリーン諸島から約3000キロほど離れた、南セトラ大陸にあるグンタ国へ出撃することになったのである。


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