32、シャトラン東方沖海戦2
【新暦2445年8月18日AM7:40】※現地時間
「その前に、メーレン殿にいくつか質問したいのですが」
黒島亀人の要請に、メーレンは軽く答える。
「わらわは、かまわんよ」
「ではさっそく……魔界の飛竜は火炎弾で攻撃してきますよね? ではリーンネリアの真竜種は、どういった攻撃方法をもっているんです?」
「リーンネリアの真竜種は、一般的に【神代古竜種】と呼ばれておる。長い呼び名は面倒くさい。だから、これからは【古竜】で通しておくれ。
でもって……古竜だけに可能な攻撃方法となると、まずは【竜の息吹き《ブレス》】じゃな。ブレスは火炎弾とは段違いの威力がある。飛距離も数百メートルに達し、温度も高い。持続時間も1分前後と長い。
あの空をブンブン飛んでおる飛行機械なんぞ、ブレスを食ろうたら一瞬で燃やし尽くされるじゃろうな。この大和は鉄の塊みたいじゃが、何度も食らうと溶かされるかもしれん」
大和が溶けると聞いた山本は、あわてて質問した。
「たしかに……魔界の飛竜による火炎弾は駆逐艦を爆発炎上させた。しかし駆逐艦が溶けたという報告はない。あくまで粘着した炎が弾庫に引火して爆発したのだ。
しかし……もしメーレン殿の申されることが本当なら、報告にあった巨大飛竜も、そのブレスとやらを使えるかもしれない。となると駆逐艦だけでなく、それ以上の艦種も危なくなる。
メーレン殿。ブレスに対する策はあるのでしょうか? もしなければ、艦隊を危機にさらすわけにはいかないので、いったん退却することも考えねばならんのだが……」
山本の口から【退却】の言葉が出た途端。
GF司令部要員から、悲痛に似たざわめきが巻きおこった。
「心配するでない。そのための魔導部隊じゃ」
「と申されると、防御手段はあると?」
「ああ、ある。わらわの使う【最上位魔導障壁】は、実質的に世界樹の大障壁と同質のものじゃ。問題は、最上位魔導障壁を構築するための魔力量が、わらわ個人の魔力総量ではまるで足らんことにある。
世界樹の大障壁を構築するさいは、すべての魔力を世界樹の魔素でまかなっておったから、まったく苦労せずに構築できた。
じゃが今は、世界樹からの魔素供給が圧倒的に足りぬ。なので人族連合でも選りすぐりの高魔力量を誇る魔導師を連れてきた。
こやつらがわらわに魔力を供給すれば、なんとか最上位魔導障壁を張ることができる。ただし無制限使用は無理じゃ。消費量のほうが圧倒的に多い。
さらには障壁の密度を高めるため、数十層を重ねがけすることになる。そのぶん展開できる面積が狭くなる。
いまは世界樹の魔素を利用できぬから、ブレスを防げるほどの障壁となると、そうじゃな……この艦橋の前面くらいの面積が限界かの。それ以上は無理だし、1回の持続時間も数分しか持たぬ」
ここでまた黒島が割り込んだ。
どうやら質問したくてウズウズしていたようだ。
「となると事前に展開しておくっていうのはダメですね。飛竜の攻撃動作を見極め、ここぞという時に展開するしかない。それで……最大で何回くらい張れます?」
戦闘シミュレートに関しては、黒島の右に出る者はいない。
その黒島が断言する以上、それは事実そのものだ。
「うむ。わらわも、そうするしかないと思うておったところじゃ。それから回数じゃが、艦橋に配置しておる魔導師12名が全力で連続供給すれば、おそらく3回……いや4回くらいは大丈夫かもしれぬ。
それ以上は魔導師たちの魔力が枯渇するから使えぬ。MPを回復させるにしても制限がある。魔力ポーションを服用してもMP完全回復に1時間はかかるし、体力気力の関係でもう1回くらいしか使えぬ。
ただし魔導障壁は、展開中なら移動させられる。少なくとも艦橋の左右あたりまでは、振り子のように動かして防御することが可能じゃ」
なんとなくメーレンと黒島亀人……。
この2人、息が合ってる?
変わり者同士で、妙に響きあっている所が面白い。
山本は、ほっとした表情を浮かべて話をもどした。
「防御方法があるのなら、それで良しとしよう。せっかく人族連合軍との共同作戦に漕ぎつけたのだから、戦わずに撤退することだけは避けたい」
今回の作戦は、人族連合の期待を背負っている。
ぐずぐずしていると、それだけ獣人族の人質が危機にさらされる。
だから可能なかぎり迅速に作戦を遂行しなければならない。
その重責が、いま山本の双肩にのしかかっている。
「まあ、なんとかなるじゃろ。それに魔導師部隊は各戦艦に配置してある。大和の36名は別格としても、他の戦艦にも1個小隊12名いるから、それぞれで防御を固めるしかあるまい。
戦艦以外の軍艦には、かなり質は落ちるものの、魔法士を4名から最大12名ほど配置してある。さすがにブレスは防げないが、火炎弾くらいならなんとかなるじゃろ」
今回の作戦のために、人族連合軍は1000名近い魔導師や魔法士を参加させている。
彼らは敵の攻撃を魔法で防ぎ、余裕があれば攻撃魔法を仕掛ける。
連合艦隊に可能なのは、いまのところ物理攻撃と物理防御のみだ。
たとえ魔法やスキルの付与で強化してあっても、この基本は変わらない。
そのため、どうしても弱点ができる。
弱点を補うにはどうすればいいか?
まず連合艦隊員のレベルを相応になるまで上げる。
その結果、独自の魔法攻撃/防御が可能になる。
だが現在は、そこまで至っていない。
現状では人族連合軍の助力にすがるしかなかった。
山本たちの会話は、ふたたび報告の声で中断された。
「敵飛竜部隊、突出して我が方へ侵攻中! 彼我の距離、80キロ!!」
80キロという距離からみて、おそらく対空レーダーで捉えたのだろう。
『こちらGF長官。全直掩機に通達。ただちに主隊前方10キロまで前進し、飛来する敵飛竜部隊に対する阻止網を張れ! ただし対処不能の場合は無理をせず、速やかに後方へ退避せよ。以上、念話通信を終る』
山本は特殊スキル【指揮伝達】を使い、ダイレクトにすべての直掩隊へ連絡を行なった。
それは大和艦橋にいる全員にも、サブスキルの【受話伝達】で聞き取れる。
以前の連合艦隊では考えられない、完全リアルタイムでの意志伝達である。
間髪入れず、大和上空にいた零戦の群れが前方へと飛んでいく。
まずは航空決戦!
戦いの序曲が鳴り響いた。
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