異世界の果てで、「社会」を唱える

LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!)

社会科というものがあってだね

 コァコァコァ……!

 コカカカカカカカカカカ……。


 ギャーギャー……!


 

 鬱蒼とした森林。

 林内に響くのは鳥類だか、ほ乳類だか知らないが、やたらとけたたましい声を上げる得体のしれない動物のもの。

 中には虫なんかも混じっていそうだ。


 ジワリと浮いた雨は鬱陶うっとうしく肌にまとわりついた。


 蒸し暑い気温は人間にとって不快極まりなく、

 時折シャワーの様に降り注ぐ雨によって、何もかもが湿っている。



「せんせー!」

 グイッと拭った汗は酷くショッパイ。それは今日で何度目になるか分からないほどの仕草だ。

 まったくやってられん!


「せんせー!!」

 不意に頭上から声が降ってくる。───いや、不意というには語弊がある。結構前から呼びつけられているのだ。


「もう! せんせーってば!」

 ドスンと! 降ってきた重量に思わず倒れ込みそうになる。

 こちとら40越えだ! そういうことされるとね! 腰いっちゃうのよ!? …こう、ペキンとね!


「きーてるのー!? せんせーってばぁ!」


 あー煩い……見りゃ分かるでしょ…おりゃ仕事中だっつの!?


 甘~い、子供特有に香りに一瞬意識がクラクラとするが───いかんいかん! かぶりをふりつつ、背中にのしかかる重量をペイっと放り出す。

「あだ! …もー! なにすんのよ!」


 さっきからキーキーと煩いのは、見るからに子供。

 ボロをまとった子供だった。


 ボテち~ん…と、俺の耕している畑に尻から放り出されて抗議の声を上げている。

 小さいのは子供故当然なのだが、これまた結構な美少女だ。

 ぱっと見、男か女かもわからんガキだが、なるほど、よくよく見ればなかなか美形──。


 格好がボロボロなので、乞食と見まごうばかりだが───磨けば光る玉石には違いない。


 年の頃は10代前半。…だと思う。

 思うというのは、この子───耳とか尖ってるし長いもん。

 いわゆるエルフという奴だろうか。


 この世界に来て初めて見たよ。日本にはコミケくらいにしかいない人種である。


「エルシルさんや…先生見ての通り仕事中でっす! あと腰とか止めて…マジで」 


 グチグチと嫌味交じりに行ってみるがエルシル君は気にしたそぶりもない。

 ロクに手入れをしてない、痛み切った金髪を軽快に揺らしながら、ニコニコプンプンと怒ったり拗ねたりの表情で忙しい。


 百面相のごとき顔は、日に焼けているが元は色白で将来はかなりの美人さんになるだろう。ぷっくりと膨れた柔らかそうな唇に、すっきりとした鼻立ち。両の目は森の緑とまごうほどに綺麗な碧眼だ。


 ポンポンと頭を適当に撫でてやると、嬉しそうに跳ね回る。

 あー子供ってなんでジッとしてられないんだろう。


「じゅーぎょーぉお! じゅぎょーの時間だよ! 早く速くはやくー! みんな待ってるよ!」


 …ち、クソガキ……


 ガキは嫌いだ。

 俺をこんな世界に連れてきやがったのもガキどもだし…!


 とは言えね。アタシゃこれでも大人なんです。セルナンです。

 感情と表情はちゃんと使い分けられますよー。


「はいはい。すぐ行くから先にいってなさい。先生、片付けしてからいくから」

 うん! まってるね~♪

 と、ピョコピョコと駆けていく。


 ───手伝えや……


「ち……! 先行けって言ったけどさー。ちょっとは、手伝えよな~。……誰のメシ作ってると思ってるんだよ」


 愚痴愚痴ブチブチブチブチブチ!


「先生、手伝う?」

 愚痴ブチブチブチブチブチ……!


「先生?」

 ブチブチブチブチブチ……ファ〇ク!!


「先生ぇぇぇ!!」

 ブチブ………ぬお!?


「ど、ドワスンか!? いつの間に!?」

「ブチブチブチ、ファ〇ク!──クソガキめー……くらいから、いたヨ?」


 シィット! ほとんど聞かれとるやないかい!?

 この上は亡き者に……!


「気にしないでよ。先生が裏表の激しいクソ野郎だってみんな知ってるから──」


 ホワッツ!?


「ジロジロと女の子見てるのもみんな知ってるよー?……エルシルはもう少し大きければドストライクとか。ホビランはまだまだチッパイだけど、そろそろいいねーとか、だいぶ犯罪スレスレのこと言いつつも、手を出さないくらいには子供には興味ないこともね」


 ……マジですか!?


 めっちゃ早口やん、めっちゃ見られてるやん!!

 そして、めっちゃ俺の性癖バレバレやーん!?


「まー気にしなくていいよ? 外の盗賊どもに比べたら百倍マシだし」

 そんなのと比較しないでくれ……!


 ジーザス……と天を仰ぐ俺に向かって「はい」と言って動物の革製の水筒を差し出してくるのは、背の低い少年──ドワスンだ。

 少年にしてはガッシリとした体つきで、見れば俺が使っていた農機具を一纏めにして担いでくれていた。


「あ、あーありがとう」

 ナデナデと撫でてやると、恥ずかしそうに俯く。

 ボサボサの黒髪に黒目の少年は、実に純朴そうだ。

 口がさない・・・・・わりに素直ないい子。ん? 素直がゆえに口がさない・・・・・のかな。


 これで、ひげが生えていて、角突き兜に斧でも担いでいたらヴァイキングだとか、ドワーフって感じがぴったりの印象。


 実際、目の前のこの子はドワーフなんだとか?

 ゲームはスーファミ以来ほとんどやっていないので、昔の知識程度しかないけど、ステレオタイプなドワーフのイメージから外れたところはない。

 それを言えば、エルフのエルシルもそうだ。


 イメージから違うのはどちらも子供だという事。

 ふむ……子供は嫌いだ。


「先生?」


 ドワスンが農機具をガチャガチャと片付けながら不思議そうに顔を見つめてくる。──そういう趣味はないから止めてくれ……!

「なんでもないよ。手伝いありがとな」

 もう一度、撫でてやると嬉しそうに顔をほころばせてパタパタと走り出していく。


「じゃー先にキョーシツで待ってるね! みんな、じゅぎょー待ってるよ!」

 へーへー……。

 行きますよ。行けばいいんでしょ。


 グビリグビリと渡された水筒に口を付ける。

 生ぬるいのではと警戒していたが、意外にも冷えている。


 冷蔵庫もない世界。冷却魔法なんてのもあるらしいが、そんな高等な手段を使って水を冷やすような真似をするとも思えないので、この水はきっと素焼きの瓶か何かで冷やしていたのだろう。


 気の利く子だ。


 塩分も同時に失っているので、水だけ飲んでもすぐに汗として排出されてしまうだろうが……この蒸し暑い中ではありがたかった。



 さ~て。

 ……しゃーなし、そろそろ行くかね。



 さほど広くもない畑だ。

 栽培品種もそれほど多くはないが、貴重な食糧供給元として機能している。


 ここまで育てるには苦労したなーと考えつつ、エルシルとドワスンが駆けて行った方に、俺も向かうことにした。


 授業の時間らしいからな……。


 ──はー。

 ……なーんで俺、異世界に来てまで先生やってるんだろう?


 かつて、自分が初めてことだという事は、スポーンと頭の中からはじき出されているのだが……それはまた別の話。



 あーめんどくさい、

 ガキは嫌いだー! などとブチブチ言いながら歩く彼は、異世界歴はまだ数か月目のペーペーである。


 この愚痴症のくたびれた雰囲気のオッサンは、

 森本半蔵(42)。なんか忍者っぽい名前だが、別に忍術は使えない。

 彼の使えるのは───中型免許(8t限定)くらいなものである。


 どうして、いかにも日本人の彼がこの森の中にいるのか。

 その辺は追々後述していこうと思う。

 別に飛行機が墜落したとか、トラック転生とかではない───はずだ。



 と、言うのも俺こと半蔵がナレーションっぽく言ってたりする。

 ビックリした?



「誰としゃべってるんですか?」


 汗だくのツユダク状態の半蔵が少年少女を追っていけば、巨大な木とそこに立てかけられた粗末な屋根のあるスペースに目が行く。雑木を編んだだけのスノコのようなものが床代わりで壁はない。それでも、木と粗末な屋根が作り出す木陰は実に涼しそうだった。

 その入り口らしきところには、10代後半くらいの背の低い大人びた雰囲気の少女が立ち、怪訝けげんな目で半蔵を見ていた。


「ホビラン?……なんでもないですよ」

 ホビランと呼ばれた少女はクリっと首を傾げつつも、半蔵の奇行はいつものことかと特に突っ込むでもなく、

「?? えっと、みんな待ってますよ」

 へーへー。

 ……授業でござんすね。


「んー……分かった、教科書持ってきて」

 はい。

 と、既に準備していたのか、ヨレヨレの革製の手提げ鞄を差し出してきた。

 ……なんか秘書みたいですね。ホビランさん?


 差し出すその手は、ほっそりとしており全体的に線が細い印象を受ける。

 しかし、体は肉感的で出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいた。

 ちょっと前までここまでナイスバディではなかったはずだが……。


 目のやり場に困る。

 服も単なるボロなので、色々見えそうでよろしくない。


 やや褐色の肌に、トロンとした垂れ目。鼻は高くはないが綺麗な形で、フワフワの髪はピンクがかっている。

 髪も肌も、ホビット族の特徴だという。


 種族的にはかなり高身長らしいが、それでもこれ以上伸びることは無いとか。

 背が低いのが良いのか悪いのかは知らないが、彼女はこれでまだ年若い。見た目の10代後半のようなイメージとはかけ離れており、短命が故の成長の速さなのだとか。

 うむ、

 実際の年齢は聞くまい……。


 いずれにしても身体同様、精神の成熟も早いらしいので、半蔵が感じた印象は決して間違ってはいない。


「ん。ありがとう。……(しゃぁねえ)行くか!」

「何か言いました?」

「何も? さーさー生徒は席に着きなさいよ」


 頭をグリグリ撫でながら、その柔らかい体をツンツン押しながら半蔵もホビランと連れ立って中に入る。

 入り口には、大きな葉っぱに下手くそな字で「きょうしつ」と書かれていた。もちろん日本語だ。


 そう、ここは教室。

 壁無し、電気無し、空調なし───素敵なフォレストビュー! 虫とかいっぱい入ってきます! いえー……ぃ。


「きりーつ!」


 薄暗い教室にはエルシル、ドワフンを始め幼児から10代前後半くらいの子供たちがぎっしり。


 多分30人くらいいるだろう。

 狭い屋根の下の事、こうも密集していると暑苦しいのだが…それはそこ。壁がないお陰で風通しだけはやたらと良い。

「きよーつけー!」

 よく通る声は、エルシルのものらしい。──そういや、今日の日直だったかな。

 そんなことをぼんやり考えながら、くたびれた中年のオッサンは教室のちょっとした高い位置───教壇に上がる。


 どんよりした顔で入ってくる半蔵に、誰一人ドン引きすることなく、なぜかワクワクした顔で彼を迎え入れる。

 ホビランは、色々チラチラ見えるボロを颯爽と翻し、子供たちの後列に並び立つ。


 ぎっしりと入った子供たちの姿は多種多様。

 エルフもいればドワーフもいる。

 人間もいればホビットもいる。

 なんか羽の生えた子や、鱗やら、猫耳とかまー色々だ。


 共通しているのは子供のみ。

 大人はいない……例外は半蔵だけである。


 ホビランはちょっと色気が出て来たので、大人の分類に入りそうだが……年齢的には色々アウトである。


「れーい!」

 ペコォと、皆が皆半蔵に頭を下げる。それを受けて反射的に半蔵もペコリ。

 うん……返礼しちゃうのは日本人のさがですな。


 そして、別命なく皆が顔をあげて、ニンマリ──なんかしらんが満面の笑みを浮かべている奴もいる始末。

 エルシルも豊かな金髪をユサユサと揺らしながらニィィと八重歯の光る可愛らしい笑みを浮かべた。


「ちゃくせーき!」


 そして、皆が皆ペタンと床に座る。

 机なんて上等なものはないので、車座になっているだけだ。


「ん。……おはよう」

「「「「「お・は・よー・ご・ざ・い・ま・す!」」」」」


 別に朝ではないので、おはようの時間でもないのだが……日本語には「ございます」を付ける丁寧なあいさつは基本的におはようしかないのだ。


 ちなみに異世界言語で話してるらしい。異世界の来た後のホニャララで異世界言語が理解できるとかいう便利能力のお陰らしい。

 半蔵の耳には、子供たちの声は日本語変換されているが、おそらく違う言語を話していると思われる。微妙に日本語を話し時と口の動きが違うからね。

 それと同時に、半蔵の言葉も異世界翻訳されて聞こえているのだろう。

 子供たちとの意思の疎通に苦労したことは今のところない。


 さて、


 授業である。

 ホビランから渡された鞄から取り出したのは「新中学2年生社会科(教員用)」と記載されたもの。


 そうだ、日本でなら誰しも習うであろうアレである。

 社会科──地歴公民のごちゃ混ぜのアレです。


 高校生になれば、細分化されるそれも、中学生までではまだ「社会」という一括りにまとめられている。


 詳細はといえば、地理──……言わずと知れた日本の地形や、世界の特徴的な地形風土などを学ぶものである。


 そして、歴史──……日本史から世界史のさわり、古代から、近代現代までを人取り習うものである。みんな大好き偉人もいっぱいでたりして、章の最後に乗っている偉人の顔はもれなく落書きされる運命にある。


 そして、なぜか半蔵の持つ教員用の教科書にも落書きが施されている始末。断じて言うが……書いたのは半蔵じゃありません!


 日本にいた頃に、生徒にやられたと思うのですよ……まさか田中正蔵がロックスター風にされるとは……ク、無念。

 田中正蔵は個人的に大好きな偉人なので、とても悔しかったとだけ言っておこう。


 さらに、公民──……日本の政治の仕組みや、世界の政治の仕組み、その変遷や特徴などをさらーっと教えるものだ。

 三権分立、モンテスキュー。とか、覚えのある人もいるだろう。普通選挙に、男女差別。大統領制に、金本位制等々。きっと奴に立つのこれー? とか言って嫌う人も多いだろうが……公民は無茶苦茶重要だからね! 半蔵自身も歴史等の比べて…好きかと言われれば……「うーん」という科目であるのだが、重要かどうかで言われれば、かなり重要である。とだけは言える。


 うん、

 …………なんで俺異世界来て「社会科」教えてるんだろう。



「あー……じゃぁ今日は、」



 ※ ※


「今日は、昨日の続き──ベトナム戦争から始めるぞ」


 ミーンミーンミーン……。

 ジワジワジワジワジワ……!


 オーシ、ツクツクオーシ……。


 ──あれは、暑い夏の盛りの事だった。

 もうじき夏休みに差しかかかるということで、学校中浮ついた空気が流れていて、生徒たちもどこか上の空。

 期末テストが終わったというのもあるだろう。


 先週はテスト期間故、半ドンで学校は終了。とは言え生徒たちのうちソコソコまじめな子らはひたすら勉強漬けだったに違いない。

 そんな責め苦の終わった後だ。


 ジッと教室を見回すと、だらけた空気が漂っているのがよくわかる。

 男子生徒はぼんやりと窓の外を眺めつつ、あくび混じり──。

 女子生徒は下敷きでパタパタと仰ぎつつスカートの中に冷風を送っている……。

 おーい、女子よ──やめたまいよ、それ。スカートがヒラヒラして先生には目の毒です。なんか良い匂いするし……!


「せんせー……アヂーよ」


 ぐてぇえぇと、最前列の席にありながら教師の目など知らんとばかりに着崩した制服で堂々と椅子の上に胡坐をかいている。

 上履きなんて履かずに、こいつだけ来客用スリッパを履いていやがる。……別に転校生とかじゃないぞ? 若さゆえの悪アピールと言う奴だ。


 髪の毛も茶髪に染めているし、ピアス穴も開いている。


 さすがに、先の授業が「ゴリラ先生」こと柔道家段持ちの国語の先生が受け持った時間だったので、その辺諸々を隠しているようだ。

 しかし、悲しいかな──半蔵先生は舐められてます。今の態度を見れば火を見るより明らか。


「先生も暑いわぃ」


 と、迎合するように返すしかできない。

 本当なら「ちゃんと座れ! 上履き履け! バーロー!」くらいは言いたいんだけどね……最近のガキンチョ──怖いし面倒だもん。

 殴れば体罰。言葉できつく言っても親が出てくる始末。

 かといって、軽く注意しても……妙なところでひっかかって逆ギレなんて話もある。


 実際目の前のコイツ……──安藤貴文あんどうたかふみ。仲間からはアンドゥと呼ばれているのだが、殊にたちが悪い。

 親は父親が県議会議員で母親が弁護士の資格持ちでPTAの会長──……いわゆる「うるさい系の親」って奴だ。モンスターペアレンツほどではないというが……こいつが昨年──中学一年の時、授業中の態度についてかなりきつく叱った教師がいたらしいが、色々ゴニャがあって、親が出張ってきた際に、なんとまぁ、件の教師が懲戒処分(減給)を受けるに至っているという。……そんな面倒な奴だ。

 無理に関わるのは止したほうがいい。


 別に授業妨害するわけでもなし、少々態度が悪いだけなので、放置しておいてもさほど支障はない。

 問題があるとすれば、半蔵のそう言った事なかれ主義の雰囲気を敏感に感じ取った生徒たちに裏で小馬鹿にされ、半分無視に近い扱いを受けるくらいだろうか。

 まぁ、授業は淡々と進めるのみ──……。


 実際イラっとするのは間違いないのだが…世の中アンタッチャブルはあるのだ。半蔵もこれで40越え。下手に処分を食らえば後々の人生設計に響くというもの。クワバラクワバラ──。


「もーさー……夏休み前だし、社会とか必要なくね?」

 しかし、今日は妙に突っかかる安藤。いつもなら堂々とスマホをいじり始めるというのに──だ。

 よほど暑くてイライラしているのかもしれない。


「あーめんどくせぇぇ……。先生は加齢臭するしよー」

 ──ほっとけ! 好きで臭うんちゃうわ! これでも毎日デオ〇ラントしてるのよ!


 クスクスと言った笑いが広がる。こういったチャカしには生徒たちはよく反応する。授業なんかテンデ聞いていないくせに──だ。


「ちょっと安藤君! そういうのは授業妨害って言うんですよ!」

 と、それを咎めるものがいた。

 眼鏡をかけたおさげの子──みるからに委員長だ。そして実際に委員長だったりする。


「でたよ……イインチョー暑いからさー、そういう熱いの止めようぜー」

 あーうるせーとばかりに手を振り振りし、委員長…西野めぐみの更なる追求を払う。

「安藤君が静かにしていればいいだけです! 先生──気にしないでください」

 ペコリと頭を下げる西野。委員長なだけあって頭も良く……美人だった。

 野暮ったい眼鏡とおさげが彼女の魅力を下げているという声もあるが…それは違う。それらすべて含めて、西野めぐみの魅力だと思う。……いや、そ、そう聞いただけだよ!? 半蔵先生の感想とかじゃないからね。


「委員長──び売りすぎぃぃ、内申点とかほしいーってやつぅぅ?」

 妙に間延びする舌っ足らずな感じで気だるげに話すのは、加納ミカ。中学生とは思えないほど発育のいい美少女だ。胸元に何か入れてるんですか!? っていうくらいに盛り上がっている。これで14歳……恐るべきは平成生まれ。


 ショリショリと爪とぎで白魚のような綺麗で細い指先で手入れ中だ。うーむ……色気半端なし。

 西野めぐみとは真逆のような不真面目の塊だが、色気は大人顔負けなくらい、やたらとあるので存在感が半端ない。


 正統派美人の西野と、

 チョイ悪系美少女の加納。


 どちらもこのクラスの美人の双璧だ。

 ちなみに、小憎らしいが安藤も中々のイケメンだったりする。


「おいおい、俺を取り合うんじゃねぇよー」


 ……?

「「はぁぁ!?」」


 と、美人2名から顰蹙ひんしゅくを買っていることなどお構いなしに勝手に納得して勝手にウンウンと満足するのは、安藤君のKY特性だ。学校補正を加算すると、キングオブKYである。


 あー……流石にソロソロ、一言言うかと教室全体に向き直ると──……。


「なんか、涼しくね?」

 安藤が、いの一番に気付く。

 そして、すぐに全員が違和感に気付いた。


 ……窓なくね?


「え? そと……っていうか? ここおかしい、よ?」

 西野も戸惑ったような声を上げている。

「ちょえら? なにこれなにこれ!?」

 傾けていた椅子がドッテーン! とこけて加納が派手に後ろにすっころぶ。───黒だと!?


「おいおいおいおいおい! 先生何々?」

「ちょっと……! ひ、人いないよ!??」

「教室出れない!」


 にわかに活気づく教室だが、それは混乱によるもの。

 実際半蔵も困惑していた。


 だって──。


 なにこれ?

 教室が……円形に切り取られている?


 壁も一部を残しすっぱりと……。

 そして、黒板も真ん中の方を残してズッパシと……!

 さらには、教室の床になにやら光る文字列が──……。


「な、な、な、な、な──」


 フワー……と溢れる光の帯と共に空気がゆっくりと上に登っていく。

 まるで「魔法陣」……。


 明るい光が溢れ出て、重量が薄れる様に、───女子のスカートもフワーっと……眼福です!!


 ってちゃうわ!


「───なんじゃこりゃあっぁあああ!!」


「先生! 警察、警察早く!」


 ハッと気付いた西野が半蔵に食って掛かる様に懇願する。

 ……おおう、この状況で冷静だね君ぃ! って、警察ね!? 任せぃ! ……あとスカート押さえときや……?


 ───メッチャ見えてるから。


「……って圏外か!?」

 ぶっちゃけ通じたところで、警察にこの状況をどうにかできるとも思えないが、少なくとも何処かと連絡できる場何とかなるかもしれないという淡い考えが浮かんだのも事実。

 と、とにかく──。


「みんな落ち着、」

 け──と言おうとしたとき、それは現れた……。



 ※ ※


 コァコァコァ……。

 コカカカカカカカカカカ……。


 ギャーギャー……!


 けたたましい鳥獣の鳴き声に我に返る。

 ジッと視線を感じれば、約30人分の60個以上の目が半蔵を見ていた。


 目の前のエルシルなんか、興奮して鼻を大きくしてフンフンを息をしている。

 ……授業ってそんな楽しいかなーと、思いつつ自身の職業的に非常に恵まれた生徒に囲まれていることを思い出した。


 そういえば、この教室とは違い……「日本」の教室での環境は最悪だったな、と。


 あの小憎らしい安藤の顔と、少女二人の顔を思い出しつつ軽く目を伏せた───。


「……せんせー?」

 最前列を陣取っているエルシルがようやく、心配気に声を掛けてきた。

 それを安堵させようと軽く閉じて居た目を開き、慣れない笑顔を浮かべて見せる。


「何でもないよ──」


 そうだ、なんでもない……。


 あの日、『勇者』に選ばれた安藤と、従者に指名された西野と加納。……そしてアンカー・・・・にされた半蔵。


 ──……く。


 ※ ※


「ひゃはは! これ異世界転移じゃないか!? 知ってるぜ!」

『そうですね…理解が早くて助かります。では、征きましょうか私の『勇者』殿…』

「待てって! 年齢と対になるものを星の反対側に置けば複数を連れていけるんだろ?」

『えぇ、可能ですが……あまり大人数は無理ですよ。この世界の記憶の改編にも無理が生じます』

「大丈夫大丈夫! あと、3人だけ、な?」

『では、従者を一人、選んでください…そしてアンカーを2人───』

「いや、俺は14歳だし、西野も加納も14歳だ! 足して42歳……てことはよぉ?」

『あぁ、その方を?』

「そーいうこと! じゃ、先生よぉ~。──悪いけど、生贄よろしく!」

 ……動かない体に、開かない口──。


 そして、反論もできぬまま、視界が暗転する。


 そのまま、最後にみたのは暗闇に閉ざされた世界で、

 淡く光る3人の少年少女──……反対に黒い霧のようなものに包まれてドンドンと3人から引き離される半蔵。


 そう。

 奴は……。いや、奴らは『アンカー』と、そう言っていた。


 任意の場所に転移するための人柱。

 それは当然、星の反対側になる、と──。


 は?

 ふざけんなよ?!


 なにが、人柱だ。

 な~~~にが、異世界転移だ、と──……。


 そんな愚痴を開かない口でブツブツ零していたのが最後の記憶。


 あ~なんだっけ。

 ……ほらっ。最近、やたらと本屋で漫画チックな表紙の小説を見かけるけど……あれのタイトルとかでチラっと見たような……??


 あーダメだ。意識が落ちる。

 くっそ! 


(安藤! あのクソガキぃぃぃぃぃ!)

 覚えてろッ!


 自分だけかわい子ちゃん連れてウッハウハライフで冒険ってか!

 先生かてなぁぁ! 人間やで!? あーーーーーーーーー!


 このままどっかいったら行方不明扱いで、隠してるエロDVDとか、性癖全開の部屋を大家に見られてしまう!


 そんなん、


 いーーーーー

 やーーーーーーー

 だーーーーーーーーー


 ……。


 …………。


 ……。



※ ※ ※


 そして、今に至る───。


 そして、

 そして、

 そして、


 …………何の因果か──。

 こうしてまたガキに囲まれる生活を送ることになるとは──はははっ。笑えるぜ。


「……ん。では、一時間目を始める。ベトナム戦争は、先日やったからな、続きの中越戦争から行こうか──」


 はーーーーい! × 30以上


(ったく……。なんだかんだで俺も焼きが回ったな)

 あれだけ嫌っていたガキに今は微かに癒しを感じているんだから。

 日常の延長か、非日常にあって半蔵を救ったのは、ガキどもとの生活だったとは何の皮肉なんだか……。



 フト相好を崩し、

 湿度の高い森林のせいでじっとりと湿った教員用の教科書を開く。



 ……しっとりと濡れたソレは、インクがにじんで読みとれない箇所も多い。


 だが、社会科教師になって十数年……もう、そらんじても言えるほどに繰り返したものだ。

 毎年、社会の内容は変われども、根本的なところはそう大きく変わらない。


 研究授業も真面目に出たし、個人的に指導計画もしっかり作り込んでいる。

 何より……社会は好きだ。

 実に面白いし、教えると僅かでも手ごたえを感じる。


 日本ではあまり興味を持たれない科目かもしれないが……子供たちを社会人足らしめるためには絶対に必要だ。

 数学、英語が重視されがちだが、国語も、理科も、社会も大事、──その他の科目だって日本の教育プログラムに無駄はほとんどない。


 だから、さ──。


 みんな聞いておくれ。


「中越戦争というのがあってだね──……」


 それは、

 地球の歴史……。

 これも国外の戦争のお話し──中学の社会の教科書にも、2、3行しか書かれていないソレ……。


 でも、

 この子たちは興味深そうに聞いている。


 森林の中で出会った、約30人の子供たち──大人は日本人の社会科教師、半蔵だけ……。


 これは、異世界で社会科を教える先生の物語と、

 異世界に少年少女にとっての『異世界』のお話。そして、的確かつ冷静かつ辛辣な突っ込みが入るブラックなユーモア溢れる異世界ファンタジーである。


 安藤?

 ……知らんよ。星の反対側で文字通り中二病全開ではしゃいでいるだろうさ。




 さてと、君たち───。


 中越戦争というものがあってだね……。

 大国VS小国って……こう、男心に燃えないかい? え? 女の子? じゃーロマンとだけ言っておく。

 これはね。

 先生がいた世界のちょっと昔のお話しだよ。

 先生の国から少し離れた国の出来事さ。


 さて、

 ちょっぴり昔のことだけど、

 大国の中国と、少し小さい国のベトナムという国がありました。

当時、ベトナムは世界最強(自称)を誇る米国を、なんとまぁ、カウンター勝ちで打ち負かし、結構、調子に乗ってました。


 そんな時、戦争終わったばかりで混乱中のベトナムでしたが、今度はお隣の国でなにやら妙な動きが活発化。


 お隣はカンボジアという国があって、そこでは、すったもんだの末に「クメールルージュ(赤い旗?)」とかいうアイタタタ厨二病臭いな名前の組織が牛耳る──ちょっとアレな国が誕生してしまいました。

 「赤い旗」のカンボジアは、徹底的な社会主義を掲げて──。



「はい、せんせー!」

「何かなドワスン君」

「社会主義って、先日習った共産主義と同じですか?」

「細かく分類すると、違うんだけどだいたい同じで良いよ」

「……適当すぎません?」

「説明するとややこしいから、放課後先生のとこに来なさい? 興味あるものも一緒に来なさい」

「はーい!」



 ──で、だ。徹底的な社会主義を掲げたおかげで階級だとか、階層のようなものをとっぱらっちゃて、みんな平等にしようとしました。しかし、古い階級を大事にする人もいるし、新しい国ができるまでは、偉い人や、「先生」みたいな人もいっぱいいました。

 でも、新しい国の偉い人たちは、その人たちがとっても邪魔だったので、コロコロしちゃいました。

 びっくりしたのは、カンボジアの市民たち。コロコロされちゃ敵わんと、お隣ベトナムに逃げ込みました。

 しかし、ビックリしたのはベトナムも一緒です。ただでさえ戦争が終わったばかりで大変なのに、沢山のひとが急に来ちゃ困るよーとばかりに、カンボジアに抗議しましたが、聞いてくれません。

 仕方なく、戦争に勝って自信満々なベトナムは、経験豊富な沢山の軍隊であっという間に、カンボジアを制圧してしまいました。さぁこれで安心問題ないと、ベトナムは考えていましたが、なんとここで、ベトナムのもう一つの隣国───大きな国の中国さんが怒りだしました。

 弟分のカンボジアに手を出して、けしからん! と、そこの親分である中国を怒らしちゃいました。

 西と南のカンボジアに軍隊を出しているベトナムに対して、中国は北と西に位置しています──。



「さぁ、どういう状況か分かるかな? ……はい、ホビランちゃん」

「えっと、バックから攻められた?」

「そうバックから責められてヒーヒー……ごほん、そう。軍隊は留守の背後を突かれたわけだね」

「なんか、スケベな顔してません?」

「シテマセンヨー」

「??? ベトナムは絶体絶命ですね!」

「そうだね、……ってなんで目をときめかせてるの?」

「だって、大逆転があるんですよね!?」

「う…んー……そういうのはネタバレといってだね」

「あ、そうなんですね、ごめんなさい、てへ」

「コホン(……可愛いなチクせぅ!)」



 ──ホビランのいうとおり、

 ベトナムの軍隊はカンボジアにいて、突然怒り出した中国に対処できません。

 そして、ついにベトナムの国境を破って襲い掛かった中国軍の大軍が!

数で勝る中国軍!

主力はカンボジアで背後ががら空きのベトナム。


こ、れ、は、ヤバイ……!


「ニーハオ!」とばかりに突如侵攻した中国軍。

予想通り、正規軍のほとんどがお留守です。これはしめたもの。裏取りじゃーとばかりに、大暴れ。

やっほほ~い、楽勝~とばかりに、当初は快進撃に注ぐ快進撃。当然です。だって、主力の軍隊はカンボジアにいるんだから──……。


 しかし、中国軍は知りませんでした。

 本当に恐ろしい敵がそこにいたことを……。

 ろくに調査せずに、ベトナムに攻めいったのが運のツキ──中国軍の前に立ちはだかるのは……なんと、民兵たち!



「はい、せんせいー」

「はい、エルシル──何かな?」

「民兵ーって何? 兵隊と違うのー?」

「ベトナム戦争の話で紹介した「南ベトナム解放戦線」のことは覚えてるかな?」

「えっと、……無茶苦茶強いアメリカ軍をスゴイ怖がらせて苦しめた、……普段は農業とかしてる人たち?」

「そうだね。全員が農業してたかは別だけど、普通の軍隊とは違って、村や町の人たちが自主的に戦ったりしている人たちだね。もちろん色々事情はあるけど、だいたいはそんな感じ」

「ふーん? えっと、森の盗賊達と似た連中?」

「うーん……そうだね、たしかに似ているけど。……目的は略奪や誘拐、強姦じゃなく、国……つまり郷土を守りたいっていうのが違うんじゃないかな」

「森の盗賊は……悪党だもん! 民兵と違うね」

「そうだね……。括りは難しいけど、騎士団が軍隊、村の自警団が民兵──そんな感じの理解で良いよ」

「はーい!」



 ──その民兵なんだけどね。

 ベトナム戦争が終わって、平和になった村で元の暮らしを謳歌していたんだ。

 だけど、彼らをただの民兵と侮るなかれ……!

エルシルがいったように、あの大国アメリカを叫喚せしめ、最後まで決定的な勝利を譲らなかったツワモノたち。それが南ベトナム解放戦線の民兵たち。

 彼らも長い長い期間をアメリカ等との戦いに費やし、

 ようやく戦争が終わり平和を享受し、普通の村人や市民に戻っていたベトナムの民兵。いや、この時点では、もう一般の人だった。


しかし、一たび武器をとれば豹変ひょうへん……!!


ベトナム戦争当時、中国とソ連から流れた武器弾薬がタッーーーープリ! ある民兵。

おまけに、アメリカが遺棄していった武器弾薬に加え、

 アメリカが持って帰れなかった「戦車」に「大砲」に……「ヘリコプター」!? を持っていたという。


それだけじゃないよ。なんたって、一番は実戦経験豊富で地元──。

 経験も、

 地の利も、

 そして士気も、


──中国が侵攻した先にいたのは、無抵抗の農家の人々ではなく……世界最強の民兵だった。




結果……フルボッコですよ。




舐めてかかった中国軍は、軽装備で実戦経験のない兵ばかり、

 しかも、行き過ぎた共産主義のせいで、平等を勘違いしたのか、階級制度が崩壊…

 そのうえ、極端な組織づくりであったため(軍隊にまで意味不明の平等という共産主義を持ち込んでいた)、

 そりゃ敵いませんよ……実際に、一たび攻撃を受けると指揮を執るものがいなくて大パニック。


 たかが民兵、

 されど民兵、

 強いぞ民兵、


 もう、ね。めちゃくちゃ損害を受けて撤退……。

 というか、潰走だったそうだよ。


 そりゃぁね。

 軍隊がいないはずの場所に、


 正体不明の機甲部隊やら、

 どこからきたのか航空兵力やら、

 バンバン降り注ぐ巨大な大砲やら、


 そこら中に罠やら、

 神出鬼没の精兵やら、

 潤沢にばら撒かれる銃弾やら、


 昼夜問はず──ジャングルでも崖でも田んぼでも、どこからでも襲ってくる敵に右往左往。


 はっきり言って無理ゲーです!

 とばかりに、這う這うの体で逃げかえることになり──……。


 後年の復讐を誓って軍の改革をすすめたそうな。

(じっさい、のちに大勝利で恨みを晴らすことになるのはまた次に機会に──)



めでたしめでたし……。





 ──以上が中越戦争初期の概要だ。


 半蔵は、教科書をそっと閉じる。

 ほとんどページは捲っていない。これは、教えるときのポーズのようなものだ。


「ん。いい時間だね。どうだ? 質問はあるかな?」


 子供たちは目をキラキラさせて聞き入っている。

 ……社会の授業というよりも、幼稚園児が紙芝居を聞いている時の反応に近い。


「「「はい、はい、はい」」」「はーい」「はーい!」


 おおう……!

 ノリ良いわこの子ら。


「一時間目はもう終わりだ! 一個だけ質問に答えるぞー」

「はいはいはいはいはーい!!」

 エルフのエルシル……テンションたけぇぇ!


「……はい、エルシル君」

「はい、はい! あ、はい」

「…どうぞ」

「んと、ね。えっとね」


 ……質問考えてなかったんか~~~い!?


「あ! ベトナムはどうなりましたかー!」


 ……。

 …………。


「んむ……。先生がいた頃までには、かなり裕福な国になって、アメリカとも仲直り、中国とは今も時々睨みしているけど、うまくやっているみたいだな。概ね平和そのものだね」

「やった! じゃー……」


 おいおい、一個って言うたやろ───!


「───なんで戦争したの?」


 ……。

 …………。


 深いなーーーーー…………。



「先生にもはっきりとしたことは言えないなー…ちゃんとした理由はもちろんあるんだけど、」

 そう、

 カンボジアを当時援助していたのが中国だったり、アメリカ、ソ連などの大国の冷戦構造が生んだ代理戦争の様相だったり、第三国どうしの小競り合いであったり──。


 理由は一つではない……。

 ないが──。


 人がなぜ戦うのか……。


 そこまでエルシルが考えていたのかは、はなはだ疑問だが、

 ……結局は、戦争した理由はそこに行きつくのだ。



 なぜ戦うのか──。



「せんせー?」


 ……先生もな、なんでも知ってるわけじゃないんだよ──。

 だけど、先生は答えねばならない。

 先生としての答えを……。













「きっと……」











 コァコァコァ……!

 コカカカカカカカカカカ……。


 ギャーギャー……!




 大森林と言われる、見渡す限りの森林地帯。

 一度、奥地に入った物は生きて戻れぬとも──。


 森の妖精にたぶらかされて、人でなくなるとも──……。


 かつて、世界を割る大戦争が起こったのはそう遠い昔のことではない。

 巨大な飛空船が舞い、

 地を割り、海を干す大魔法が飛び交った戦争が起こった。


 人と魔族の戦争だ。


 それは、人口の大半を殺傷せしめ、文明を退化させ、人も魔族も大いに疲弊した──。


 そして、

 人の英雄も、

 魔族の豪傑も、


 伴に倒れ、戦いは決着がつかずに終わった。

 人も魔族もすさみにすさんだ世界……。


 文明の黄昏の世界──。





 そんな残り香の漂う荒廃した世界の片隅で……。





 アハハハハッ、アハハハハ!

 キャーキャッキャ!!

 ウフフフフフフ!!


 ワーイ! ワーイ!


 ハッハッハッハッハ!



 とても、静かで豊かで明るい声の響く土地があるなど、誰に知れようか──。







 巨大な木に引っかかり、構造物の大半が崩落し、大地に墜落した飛行船が苔むす中で、

 

 今日も、明日も、






 情けない中年教師の声と、

 子供たちの笑い声が響いていた──。



 中越戦争解説編


~ 完 ~



─────あとがき─────


お読みいただきありがとうございます!


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〇「突然ですが、仕事辞めます。なので、顔面が陥没するくらいパンチをしていいですか?」~騎士団長になったクソ幼馴染(男の娘)と決別しました~

https://kakuyomu.jp/works/16817330648918353111


〇㍉飯召喚召喚

https://kakuyomu.jp/works/16816927861200016803


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異世界の果てで、「社会」を唱える LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!) @laguun

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