(3)

「利音! 手紙書くから! あと、スマホ買ったら教えて! 毎日LINEするよ! あ、パソコン派だったらメールだよな! 俺、ブラインドタッチができるように頑張るよ!」


「未練たらたらじゃねえか! もう遠距離でも良いから付き合えよ!」


「美藤さーん! あなたのことはよく知らないし、事情が事情なだけに、あなたたちの恋路を素直に応援できない私だけど、多分この事は少なくとも一年は忘れないよー! いや、半年かなー……」


「美藤さーん。君とはろくに会話もしたことはないし、何故僕がここにいるのかもあまり分かっていないし、僕と君は今までイカとスイカくらい接点がなかったけど、おそらく、頭の片隅に残る程度には忘れないよー!」


「傷口に塩塗るくらいだったら、遅れてきた二人はもうしゃべんな!」


「武士沢くんはイカとスイカに接点がないと言っているけど、実は以前、頭がスイカで体がイカでできたカプセルトイがガチャガチャでリリースされたんだ。僕も欲しくて勇んで駅の中のゲームセンターに行ったんだけど、予想に反して売り切れていてね。もうこの辺では手に入らないんだ。だからもし、美藤さんが引っ越し先でそのガチャガチャを見つけたら、着払いで良いから送ってほしい。あ、ちなみに僕が欲しいのは、黒の閉じているコウイカで、」


「走りながら全く別の世界観で無理な注文してんじゃねえよ! 他の三人が忘れないっていってるだけマシに見えるわ!」


 各々が美藤さんに別れの言葉を叫んでいると、やがて車はぐんぐんと加速し、徐々に遠のいていった。


「みんなありがとう! 正直、星野くん以外のモブキャラ共に用はないけど、まさか私がこんなに盛大に見送ってもらえるとは思わなかったわ! 私はあっちでも元気でやるから、星野くんと、その他の雑草たちも元気でねー!」


「辛辣すぎるだろ! 誰がモブキャラで雑草だこの野郎!」


 やがて車は角を曲がり、完全に見えなくなってしまった。あたし達はそこで走るのを止め、肩で息をしながら車が去って行った方向を見ていた。


「利音……元気でな」


「美藤さん……私、何があってもへこたれないからね」


「美藤さん……負けないでね」


「映画やドラマじゃないんだから、今更調子の良いこと言っても、おまえらの発言はカットされねえからな」


「さて。僕らも帰って昼ご飯を食べよう」


「わーい。もうお腹ぺこぺこだよー」


「ようやく茶番が終わったでござるなぁ」


「……ふぅ」


「偽りでも感傷に浸っている奴らの前で、何事もなかったように言うな。おまえらは鬼か」


「恋虎―。僕もおなか空いたぞー!」


「もう、分かったわよ」


 そこであたし達は解散することになった。帰り際、何気なくヒナを見ると、あたし達の前だということを忘れていたのか、しっかり武士沢くんと手を繋いでいた。そしてそのまま二人は商店街の方に向かって仲良く歩いて行った。


「あれっ。まさか……」


 二人の仲むつまじい後ろ姿を見ながら、あたしはある可能性に気付いた。もしかして、最初に学校に侵入した人物って……。


 あたしは答え合わせをするように白狼を見た。彼もまた、細めた目で遠ざかっていく二人の背中をしげしげと見つめている。


「例の儀式も、あながち作り話ではないようだね」


 白狼はそう呟くと、あたしにバイバイも言わずに家に帰っていった。


 あたしは、白狼が呟いた一言を聞き逃さなかった。なるほど。だから彼はあんなに儀式に詳しかったのか。そう言えば小学生時代は友達がいなかったから、よく休みの日も図書館に行っていたとか言ってたな。


 まあ何にせよ、これで本当に終わった。ようやく肩の荷が下りたと思いながら、帰宅していると、何かもう一つ重大な事を忘れているような気がしてすっきりしなかった。


 うーん。何だろう。この一週間はずっと捜査で頭がいっぱいだったけど、何かあたしには、人生をかけた目的があったはずなんだけど。

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