(2)
放課後。あたし達はまず、美藤利音との接触を試みた。クラスメイトの情報によると、美藤さんは二年四組に在籍しているらしい。部活動もしていないみたいだから、急がなくちゃ。
放課後の廊下は多くの生徒達でごった返していた。あたし達は二年四組の教室に向かい、美藤利音を捜した。
「あんたらは静かにしてるのよ」
「僕らの声は白狼とおまえにしか聞こえないんだから、喋っててもいいだろう」
「そうだよー。それに、あたし達に命令して良いのは白狼だけだよー」
「もっとも、旦那様は恋子嬢のように口が悪くないですし、我々も命令されたことはないでござるからな」
「……へっ」
「そういう揚げ足取りをやめろって言ってるんだよ!」
胸ポケットに入れた四匹に小声で注意しながら教室の中を見る。でもなかなか見つからない。もう帰っちゃったのかな。と思ったその時。
「あの真ん中の席の子がそうじゃないのー?」
シャトルが前足で示す方向を見ると、そこで一人の女子が帰り支度をしていた。でも、あの子ってめっちゃ髪短いけど。
「間違いないよ。髪はかなり切ってるけど、あの恋虎と違って優しそうな目は美藤利音だよ」
「髪型は変えられても、二年では顔の形は変わらないでござるからな。現に恋虎嬢のアホ面も、卒業時とは全く変化しておりませぬし」
「……ぷぷ」
「誰がアホ面だ! これでも近所じゃかわいいピーナッツアイの女の子って評判だったんだぞ!」
「それを言うならアーモンドアイだろ。使い慣れない言葉を背伸びして使うとか、典型的な中二病だな」
こいつら、覚えてろよ。とにかくまずは美藤利音に事情聴取をしなくちゃ。あたしは早速、四組の教室に入った。
「美藤さんだよね?」
「そ、そうだけど……」
スクールバッグのファスナーを閉める手を止めて、美藤さんがあたしを見上げた。確かに、こうしてみるとアルバムとかなり面影がある。でも、あんなに似合っていたゆるふわ系の長い髪を、何でベリーショートにしちゃったんだろう。
「ちょっと聞きたいことがあるから、ツラ貸して」
「おまえは反社か。完全にビビってんじゃねえか」
タゴサクに言われてみると、美藤さんは今にも泣きそうな顔で辺りをきょろきょろ見ている。
いけない、いけない。ヒナの事だから、つい口が悪くなってしまった。あたしは気を取り直すように咳払いをした。
「少し聞きたいことがあるんだけど、ちょっとだけ時間あるかしら?」
「う、うん。ちょっとなら、いいけど」
美藤さんはあたしに対してかなり警戒していたが、ファーストコンタクトは成功だった。あたしは美藤さんの前の席で、るろうに剣心の漫画を読んでいる男子に睨みをきかせた。名札には田山孝史と書いてある。
「学校に漫画持ってきてんじゃねえよ。あと、その帽子のおっさんは縁の父親な。それと薫は縁の別荘みたいなアジトでちゃんと生きてるから安心しろ」
「え……そうなの?」
タカシは絶望したようにページを閉じると、そそくさと漫画を直して教室を出て行った。
「重要なシーンのネタバレをするなんて、おまえは鬼か」
「タカシには何の罪もないのねー。楽しみを奪われてかわいそうー」
「今人誅を受けるべきは、間違いなく恋虎嬢でござるな」
「……せいぃぃっ」
「いいんだよ。それに学校には授業と関係ない物を持ってきたらいけないの。これこそが人誅よ」
「あの、話がないならもう帰りたいんですけど……」
ああ、そうだった。あたしは美藤と向かい合う形で席に座り、調査を始めた。
「あなた、この間学校で起きた事件のこと知ってるわよね?」
「空き巣の犯人が、潜伏していたっていうやつでしょう」
あたしは美藤さんの垂れ目気味の瞳から目を反らさないように頷いた。
「その事件の被害者が、あたしの親友の長峰雛沙っていうことは?」
「確か一組の女の子が夜に出歩いていて被害に遭ったっていうのは聞いたけど……」
「その被害者はあたしの親友なの。それで今、ヒナを襲った犯人を捜しているんだけど、あなたが十月二日の夜に何をしていたか教えてくれない?」
「それって、私を疑ってるって事?」
途端に美藤さんが怯え始めた。
「現在の調査の状況から、容疑者は二人ということが判明していて、そのうちの一人があなたなの。ごめんなさいね」
「何で私が? 私はやってないよ!」
あたしはダメ元で胸ポケットに入れたシャトルを見た。シャトルも能力を発動しようとしてくれているが、数秒後残念そうに首を横に振った。シャトルの能力が機能したら、今の質問で即解決できたんだけど、やっぱりそう簡単にいかないか。
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