(6)

「龍二……馬場先生。そのタオルを氷水に浸して持ってきてください」


「あ、ああ。分かった」


 馬場先生は郡山先生の指示にしたがって銀色のボールで氷水を作り、棚から取ったタオルを浸した。郡山線はそのタオルでそっと白狼の鼻を冷やした。


「もう昼休みが終わるから、あなたたちは教室に行きなさい。大崎くんは何かあったら私が病院に連れて行くから」


「分かりました」


「馬場先生。職員室に戻るなら、大崎くんの担任の先生にこのことを伝えておいてください」


「ああ。わかっ……分かりました」


 そして馬場先生は、あたしたちよりも先に逃げるように保健室を出て行った。郡山先生の言う通り、あと五分もしないうちに授業が始まる。次は移動教室だからあたしも急がないと。


「星野くん。白狼のことありがとうね」


「いいよ。それより、さっきの声は小宮さんが出したの?」


「えっ? ……まあ、そうよ」


「そっか……」


 ちょっと待って星野くん。今なんで一歩退いたの。あたしはそんなにやばい女じゃないよ。それにこれにはのっぴきならない事情があって、


「じゃ、じゃあ。お大事に」


 そして星野くんも逃げるように教室の方向に走って行った。ああ。あたしは今日、何か大事なものをなくしたような気がする。まあ、寝る間も惜しんで捜査に協力してくれた白狼のためだもん。犠牲はつきものよ。悲しくなんかないんだから。本当に……。


「恋虎。今日は一緒に寝てやるから、泣くなよ」


「うう……タゴサク。ありがとう」


「しょうがないから、今日はあたしたちも恋虎の家に泊まってあげるからさー」


「たまには旦那様も某たちがいない方が楽に眠れるかもしれないでござるからな」


「……ふぅ」


「みんなー、ありがとう! やっぱりなんだかんだ言って、あたしのことを……」


 こいつら、かわいいところあるじゃん。よしっ! 今日の夜は、虎太郎からパソコンをかっぱらって、スイーツビュッフェとしゃれこむわよ!


「ちゃんと捜査はしろよ」


「白狼が無能の恋虎にもできるくらいの難易度の宿題を出したんだからねー」


「貢献度は今のところ、旦那様が8、某たちが1.5、恋虎嬢は0.5、くらいですからな。まだまだ協力してるとは言えないでござるよ」


「……へっ」


「おまえら、鬼のように手のひらを返すな。それにあたしの貢献度が0.5ってなんだ。もう、いないほうがいいじゃねえか」


 あたしは四匹に散々おちょくられながら、教室に戻った。とにかく今は第一小学校の卒業アルバムをなんとかしなくちゃ。それまでゆっくり休んでね、白狼。

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