(4)
「所々に赤い砂みたいなのが付着しているでしょう。それは祠の屋根の部分を拭いた時についた汚れなんだ」
「祠の屋根……あっ! この赤いのは、銅板の錆びた部分ってことね? それに、よく見ると苔みたいなのもついてる!」
「その苔は屋根か、地蔵に付着していたんだと思うよ。放置されているわりに、地蔵はかなり丁寧に磨かれていたみたいだから」
触ってみると、確かに微小な錆びの粒や細かい破片、苔のような物がこびりついている。
「あの祠はまったく目立たない場所にあった。僕らも含め、多分祠があの場所にあるということを知っている人も少なかっただろう。それにもし知っていたとしても、あの雑草の生い茂り具合から、手入れはされていなかったと思うよ。お供え物もなかったし」
「お供え物は、犯人が食べたという可能性は?」
「ないね。もしも犯人がお供え物を食べていたら、食べカスが放置されていたはずだから」
あっ、そうか。犯人は食べ物の袋やペットボトルをそのままにしていく傾向があったんだっけ。
「恋虎じゃないんだから、いくら犯人でもそんなことしねぇよ」
「いつ置かれたものかわかんないものを食べるほど、犯人は食い意地が張ってないと思うよー」
「今まで五件も犯罪を成功させている手練れでござるからな。きっとうまく立ち回っているでござるよ」
「……っぷ」
おとなしくしてると思ったら、すぐ横やり入れてきやがって。それにゴンベエ。もうお腹いっぱいなんじゃないのか。
「犯人があの祠を掃除したという証拠はもう一つある」
白狼は、手提げ袋の中からもう一枚ジップロックを取り出した。その中から取り出したのは、ものすごく細かい糸のようなものだった。あたしはそれを見て、白狼の言いたいことが分かった。
「それはこのハンカチの繊維ね?」
白狼は頷いた。写真を撮影する前、白狼がつまんでいた細かいものはこれだったのか。
「ハンカチで掃除をしている時、銅板のささくれに引っかかったんだろうね。本当によく見ないと分からない場所にあったから警察も気づかなかったんだよ」
警察もまさか犯人がハンカチで祠を掃除していたなんて思いもしなかっただろう。
「このR・Bっていうのは、犯人のイニシャルってこと?」
「可能性は十分にある。まだ分からないことだらけだけど、まずは刷新された学校指定のジャージ、卒業記念のハンカチ、祠に残っていた繊維などの点を踏まえて、僕らと同じ年に卒業した第一小学校の生徒に絞って捜査を始めてみたらどうかと思う」
白狼の言う通り、これらの情報だけで犯人を特定するのはまだ弱いかもしれない。でも今まで右も左も分からなかったのだから、捜査のとっかかりとしては十分だ。何もしないより、今ある可能性を潰していくことが大切なんだから。
「で、あたしは何をすればいい?」
「まずは第一小学校の卒業アルバムを入手して、このR・Bという人物を探してくれないかな?」
「もちろん。任せて!」
やっと役に立つ時が来た! 今までは白狼や珍獣たちに活躍の場を取られていたけど、これはあたしに取って最適な仕事だ。あたしの顔の広さだと、卒業アルバムをゲットするなんて朝飯前だ。
「じゃあ、よろしく。僕は午後の授業は保健室で寝ることにするよ」
「連日体調悪い上に、昨日も捜査に付き合ってくれてありがとうね。保健室まで送るわ」
「大丈夫。それくらいなら一人で……」
と言って立ち上がろうとした時、白狼が派手に転倒した。ちょっと大丈夫? シンジが初めて乗った初号機をうまく操作できなくて倒れた時みたいな倒れた方だったけど。
「大変! 血が出てる!」
倒れた時に鼻を強打したのか、つけているマスクが真っ赤になっていた。
「恋虎! 救急車だ!」
「漫画みたいに袖を破って止血してー!」
「そんな腕力ねえよ! それにそのシチュエーションの時は大抵長袖だろう! あたしはまだ夏服だ!」
とかなんとかやっているうちに、白狼のマスクはもう元からそんな色のマスクだったのかと思う程、赤一色に染め上げられている。
やばい! 本当にどうしよう!
「恋虎嬢! とりあえず、助けを呼ぶでござる! いくら支離滅裂の大食漢の御前でも、男性を一人で担ぎ上げるのは無理でござる!」
「支離滅裂は余計だ! そうね、誰か助けを呼んでくる!」
とはいうものの、美術室は校舎の隅っこにある部屋で、周りに人がいる気配はない。早く、急がないと!
「……グエッ」
「何よゴンベエ。今はあんたにかまってる暇なんか……」
その時、ゴンベエの瞳がきらりと光ったような気がした。なるほど、そういうことね。
「恋虎、何するつもりだ?」
「まあ、見てて」
あたしはタゴサクの頭を三秒長押しした。そして嘴が開かれたことを確認して廊下に出た。よし、いくわよ! あたしは大きく息を吸った。
「だぁぁぁれぇぇかぁぁあ! だぁぁぁぁすぅけぇぇぇてぇぇぇぇ! ああああっ!」
突如廊下に響き渡る断末魔。あたしの声量とバグが起きているゴンベエのスピーカー機能で、その声は校舎内に響き渡った。しばらくすると、足音がこちらに向かって近づいてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます