(4)

「あたしがイメージしたのに、なんでこいつはこんなに生意気なのよ」


 歩きながら、あたしは白狼に問い詰めた。白狼は眠そうな顔で「さあ?」と言って完全に他人事だった。そういえば、白狼もまだこの儀式のことについて全て分かっていないと言っていたっけ。


「儀式を行う際、外見は僕や関与した人のイメージによって形成されるけど、内面的なことは性格ガチャみたいなものなのかもね。儀式の最中、僕はシャトルやカマシオ、ゴンベエがどんな性格になってほしいとか思っていないから」 


 外見は儀式の参加者のイメージに影響されるが、性格は運。だとすると、あたしのこのトナカイの性格は最悪だ。


「おい恋虎。相手の性格を直す前に、まずはお前が謙虚になるべきじゃないのか?」


 タゴサクはあいかわらずのアニメ声で辛辣な毒を吐く。これならまだシャトルの方がましだ。


「うっさい。ていうか、タゴサクってなんなのよ。なんで生みの親なのに命名権がないのさ」


「おまえはイメージしただけだろう。僕を根本的に生み出してくれたのは白狼だ。僕の名前に文句言うんじゃねえよ」


「ちなみに、恋虎はタゴサクの名前考えてたのー?」


「ふむふむ。某も気になるでござる」


「……」


 白狼のポケットから飛び出した三匹が興味深そうに聞いてきた。


「当り前じゃない。儀式の前からずっと温めていた名前があるわよ」


「ほうほう。それはどんな名前でござるか?」


「シャルロット」


 あたしが言った瞬間、四匹は大笑いした。


「なんだよそれ。少女漫画の見すぎだな」


「大体シャルロットって、女の子の名前でしょー? 男の子がほしいとか願っておいてそれはないよー」


「おそらく恋虎嬢は、あだ名でシャルルとでも呼びたかったのでは?」


「ぷーっ。それって私のシャトルって名前から引っ張れてんじゃーん。ケッサク」


「……」


 こいつら……。言いたいこと言いやがって。けらけらと笑う四匹に殺意を向けながらも、あたしは周りの目を気にして怒りを抑え込んだ。


「その猫はともかく、ほかの三匹はなんでそんなに古風な名前なのよ」


「全部イメージさ。初めてこの子たちを見た瞬間に思い浮かんだ名前をつけるようにしてるんだ」


「命名権は全部白狼にあるの? あたしじゃ駄目なの?」


「この子たちの気持ち次第だよ。僕は強制していない。不服なら、改名してもらってかまわないよ」


 白狼は一連の説明をした後、あくびをした。昨日変な夢を見たと言っていたが、加えて神社でのタゴサクを生み出した後、家で二回も儀式をしたから疲れが残っているのだろう。


「私はこの名前気に入ってるよー。白狼。かわいい名前をつけてくれてありがとう」


 シャトルがポケットの中から鼻先を白狼に向けて微笑んだ。くっそう……。やっぱりこいつ、かわいい。


「某も、カマシオという名前気に入っているでござる。それと、台座まで作ってくれて感謝しているでござるよ。旦那様」


 カマシオもかたくるしい言葉で白狼にお礼を言っていた。


 カマシオのデザインは、鯛だ。四匹の中で一番おっさんくさいが、体は薄いピンク色をしていて、黒目の大きい瞳と、魚類にしては小さめの口がかわいらしい。


 一応オスらしく、声はタゴサクより少しだけ低い。自立できないせいか、彼だけはフィギュアを固定するための台座がセットになっている。


「……」


「ありがとう。ゴンベエ。何も言わなくても、君の気持ちは分かっているよ」


 ずっと無言の鳥、ゴンベエはハシビロコウがデザインだ。顔の半分以上を占める黄色い嘴に怪訝そうな瞳。雄雌不明で、四匹の中で一番謎の生物だ。そんな無口なゴンベエの気持ちも、生みの親である白狼にはすべてお見通しらしい。


「ああーあ。僕も、シャトルたちと一緒に過ごしたいなぁ」


「悪いね、タゴサク。でも君は恋虎さんのそばにいてあげて。君は彼女が望んだから生まれていたんだ」


 そして白狼はきりっとした目つきになって、


「でも僕は、君も含めてここにいる四匹はかけがえのない友達だと思っているよ。だから、恋虎さんに溶鉱炉に入れられたり、チャッカマンで角を燃やされそうになったらすぐに来るんだよ」


「分かった! 白狼、ありがとう!」


「おまえら! あたしが虐待する前提で話してんじゃねえよ!」


 すると四匹は、いつものようにはっとしたような目であたしを見た。もういい。もうそのやりとりは飽きた。

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