第16話 反逆の始め
───かつてドール達が暮らしていた人工大陸ウルロアはケラウノスと呼ばれる青い閃光によって破壊された。
「邪魔だぁ!」
「退きなさい!」
そして人工の島エーテルコアにある、ドールの本拠地でヴァニタスとアイゼンベルグは共に反乱を起こしていた。
「アイゼンベルグ、貴方は本当に最先端の軍事システムを持つドールなのですか?あまりにも計画に捻りが無いと言うか……ただの正面突破では?」
周りに気を配りながら、この力任せな作戦にヴァニタスは疑問を抱いていた。
「ヴァニタス、お前のデータがそう言ってんのか?目的がブレなきゃ計画もブレねぇ!予定通りセレスを叩く」
──数時間前、私はアモルの崩壊を見て、私の中で強い衝撃が走った。そして忘れていた。いや、自ら忘却した記録を悪夢を見る形で取り戻した。
──ココは何処?……見覚えのある人工滝に時計塔が見える大広場……まさかウルロア?滅びたはずのウルロアが何故?
「湿気た面してるわね、ヴァニタス」
見知った顔を見てヴァニタスは戸惑う。ドールの私がこんな夢を?にしては記録の整理による現象とは程遠いような……なんとも形容し難い異質感。
「キュリアスさん……です、よね?」
間違えるはずもないその部分的にスケルトンでありながら超耐久を持つ暗殺の為に作られたドール。
「それ以外に何に見えるの?カメラアイ汚れてんじゃない?それとも認識システムバグった?」
この少しキツイ物言いが懐かし。
「まぁまぁ〜、ヴァニタスちゃんは働きモノだからボーっとしちゃったのよ、あんまり意地悪言っちゃダメよ」
「ガントさん」
土木建築兼大軍殲滅を目的にした体の一部が切り離され反重力で浮いているドール。
これが夢なら……夢ならあの子達に会いたい。
「あ、あのアーガスとクレアは何処に居ますか?」
ヴァニタスの記録に砂嵐が過る。そのたびに苦痛と悲しみがこみ上げる。システムが何かを修復している。
「アーガスと貴方の躾のなってない娘は私の庭園で遊んでますわ、全く貴方に似て余計な世話をしてきますの、良い子ですわ」
ケンタウロスの様な見た目でサルバドール1硬い盾アイギスの持ち主であり、その力強い攻守一体での戦闘は地上戦最強を轟かして……。
ヴァニタスの頭の中の砂嵐がさらに強まり、まともに思考できない、思い出せない。
「……ありがとうございますシェリルさん」
ヴァニタスは急ぎ足でシェリルの青薔薇の庭園に向かい、二人の姿を捉える。
「クレア!アーガス!私です!ヴァニタスです!」
あぁ、ずっと二人に会いたかった。あんな別れ方をして、私はずっと後悔していました。
ずっと謝りたかった。ずっと二人の顔を見ていたかった。ずっとずっとずっと幸せで居てくれるモノだと。
砂嵐が思考と視界を覆った。……システムがロックされた記録の内にある破損データを修復し終えた。
あ……あぁ……
思い出した……思い出した……思い出した……思い出してしまった……思い出したく無い!忘れろ忘れろ忘れろ
「お姉ちゃんどこ?……痛いよ……暗くて、怖いよ……何も見えなくて、聞こえなくて、体も動かなくて、私死んじゃうの?……いや、嫌……一人にしないでお姉ちゃん」
目の前でドロドロに溶けていく妹の手を握りヴァニタスの手も溶け落ちた。
やめて!やめて!やめて!やめて!やめて!見たくない!見たくない!
「お母さん…、悪い子でごめんなさい……いい子になれなくて……ごめんなさい」
止めて!苦しい辛い何もかもの内側がグチャグチャになる。理解している!したくない!見たくない聞きたくない。
……この記録は。
「どうして私を再起動したんですか?」
2本少ない知らない躰。残存するサルバドールは既に2機のみで先日まで居たネメシスはホンドウにて消滅したと聞かされた。
「解、今回の戦争によって多くを失った。だが幸運にもサルバドール1多く能力を持つ君だけが修復できた」
他がどうなったのだろうか?あの青い閃光はいったい何だったのかさえヴァニタスは解らない。
(クレアはダメでも……アーガスなら……)
「セレス様お願いします!アーガスを!妹を修復してください」
「……回答、不可、ウルロアが吹き飛んだ今、彼処に保存されていたドールの人格データは全て吹き飛んだ。無から有は生まれない」
「アモル!お願いします!」
「……躰欠け無く無いと消滅のに無力、頭ひく、謝罪あげる。私の才能呪う、謝る」
ヴァニタスは突然のアモルの言語エラーに戸惑ったが要訳するに「躰のかけらすら無ければ、自分の力ではどうにもならない。ごめんなさい」という事だ。
その夜、私は自室で伏せて4つ腕を動かす為のシステムの最適を勧めた。少しでも辛い事を紛らわす為に。
──後日
アモル、ヴァニタス、そしてネメシスの部隊の生き残りで後釜のネモはセレスから改めて現在の状況を聞かされた。
アモルはシェリルと一緒に必死でケラウノスと呼ばれる核と未知のエネルギーの塊を防いでいが、セレスのテレポートする時にアイギスが砕かれ二人はテレポートの中で激しいエネルギーの乱流で損傷してしまう。
その結果、アモルの前でアイギスを維持していたシェリルはテレポート後、躰が未知のエネルギーに侵され塵も残らず崩壊。
テレポートの中でシステムが入り混じった結果か、アモルはアイギスが使えるようになっていた、だが結果的に大量のエラーを抱えてしまい、しばらくは車椅子で過ごす事となった。
「それと……君の妹を作ってあげたよ」
「……え?」
ヴァニタスの眼の前には一人のドールが歩み寄る。
「始めまして!私、
「私の中のアーガスに関する残存データが微かに残っていたのでアーガスを知るモノ達のイメージを用いて作った50%アーガスだ。型番も今の君の躰の連番になってるし間違いなく君の妹だ」
ヴァニタスはかつて無い程のショックを受けてセレスに対するあらゆる尊敬の念が完全に崩れた。
そうだ確か……私はこの後……
「あああぁぁぁ!私が信じた神は!私が使えた神は!私を救わない!存在を生み出してはイタズラに弄び、本来の目的すら放棄している!」
「落ち着き給え、アーガス同様この子も君の妹としての条件をクリアしている。それで妥協してくれ、私にできるのはそれまでだ」
その言葉を聞いて私は……様々な感情が煮えたぐり一つの衝動を弾き出した。
あぁ、壊そう。私の神様は救わない。
「止めろ!この子はニセモノだ!私の妹を蔑むな!偽善だ!欺瞞だ!空事だ!虚飾の真実なんて求めていない!」
「お、お姉ちゃん…」
辛子は怯えながらも寄り添おうと近づくがヴァニタスは怒りのあまり自身の武器を取り出して辛子を吹き飛ばし、セレスに近づく。
「ヴァニタス?足は止ま!手は動作?」
私はセレス様の腕を切り飛ばし、流れる血を見て冷静さを取り戻した。
「あぁ、セレス様……どうして私を消してくださらないのですか」
そして信仰を捨てきれない事実と不信を働いた事実に耐えられなくなったヴァニタスは自分自身に能力を使い、人格と記録を改ざんした。
──ヴァニタスは一人、机の前で目が覚める。
ヴァニタスは全てを消し去った記録を全て思い出した。そして確認しなければならない事実とある決意が固まった。
「……アイゼンベルグ、居ますか?」
何もない空間が捻れ虚無のような真っ黒な空間から軍服の彼女がドシンと音を立て姿を晒した。
「呼んだなヴァニタス、つまりは反逆する気になった、ということだな?お前は俺の望みを、俺はお前の望みを叶える。さぁ言ってみろ」
(アイゼンベルグの望みは全てのドールの頂点に君臨する事……この子に協力するのは本意ではないけど…、反逆の果てに終えることが出来るなら……)
決断は済ませた、後は口に出して言うだけ。ヴァニタスはその込み上がってくる憎悪を抑えながら答える。
「私の願いは……私の目的は昔から変わっていません、人々を導き、平和な世界を実現する事です」
「つまり、俺と同じで勝利して支配するって事だな」
行き着く所は同じ、ヴァニタスは特段否定はしなかったが冗談のつもりで言ったアイゼンベルグはつい熱い眼差しで見つめた。
鋭い目つきで見められるヴァニタスは反射的に微笑み返した。場を和ませるのは笑顔、かつて自分が人から学んだ事だ。
───そして現在
本部の長い通路を警備を押し通りながら二人は歩き進める。
「…………本当にサルバドール全員と戦闘するつもりですか?」
「やるぞ。それにヴァニタス、お前さえ居れば余裕だ!暗殺も情報収集も破壊工作も防衛も侵略もあらゆる点で最強だろ!?」
最初は人に寄生するだけの能力。その能力の特性上、疑似人格への負荷が大きく大量のエラーを受け、その度に本体は熱を溜め込み、機能不全を起こして倒れていた。そして目覚める頃には新しい能力を得て起き上がる。
「私はアイゼンベルグの様に空を飛んだり、兵器を無尽蔵に生み出して優位を作ったり出来ません、最強と言ってくれましたが私は無敵では無いんですよ」
アイゼンベルグは何か腑に落ちたようで今持つレーザーブレードをしまい、別の武器の用意をし始める。
本部の通路を真っ直ぐ行くと3つの部屋がある。一つは本部の広い司令室とサルバドールの控え室がある。その奥にセレスと謁見できる大広間。そしてセレス本体が居るとされる部屋。
───扉を開けて入ると円形状の司令室のど真ん中、二人を待っていたかの様に椅子に座り読書するドールが居た。
「よう、姉貴」
「……ヴァニタス、アナタがどんなに足掻こうとも母様の手の平から零れ落ちる事は無い」
アイゼンベルグの姉、オリビアはセレスの代理でドール全体の管理をしているドール。オリビアは本をサイドテーブルに置き、白い艷やかな椅子から立ち上がる。
アイゼンベルグを無視してオリビアは遠回しに反逆を止める様に彼女なりにヴァニタスに伝えたのだ。
「警備をめちゃくちゃにして……お互い多忙なのだから、シ、ゴ、ト、増やすのやめてもらえる?私、これでもアナタの事尊敬していたのよ?」
──ドガン!!
対戦車用のキャノンを一瞬でデジタル生成からのぶっ放し、実の姉に容赦無い一撃をお見舞いしたアイゼンベルク。
「発見抹殺!先手必勝!お喋りしてんじゃねえぞ姉貴!」
煙が晴れるとオリビアの周りには不気味な9つの球体がどろりと溶けて彼女を守っていた。
「
九星崩壊は全能に近いとされる武器の一つで使えるモノは限られ、3体のサルバドールとセレス、オリビア、現在ロックを掛けられたアイゼンベルクのみである。
「妹ちゃん、いい子だから大人しく回れ右しなさい。仕事終わりで退屈なら一人で遊園地でも行ってなさい」
「俺が上司になったら追加で遊園地のアナウンスの仕事も上乗せしてやるよ」
アイゼンベルクはショックグレネードの束を投げつけ跳躍する。オリビアからは幼稚な陽動に見える。
ショックグレネードの束を九星の一つの炸裂攻撃で防ぎ、そして唐突に剣を取り出し、鈍い金属音を立て透明な攻撃をオリビアは防いだ。
「ホログラム隠す気無いでしょ?私の戦略戦闘プログラムは貴方と同等、九星と室内戦で妹ちゃんが勝ったことある?」
「そうだな、だが姉貴はまだ
ボトン、またボトンと九星が落ちる。剣でアイゼンベルクをはじき飛ばしオリビアは再接続を試みるが何かに弾かれ反応しない。
「アイゼンベルク、言われた通り九星崩壊を無力化しました。本当に私は加勢しなくて良いんですね?」
「あぁ……九星無しで室内戦の姉貴に勝てるか試さないとな。ほら、お互いスタンブレードでやろか姉貴」
電撃纏う鋼の模擬刀をオリビアは受け取った。
「……ヴァニタス、後で私の仕事手伝いなさい」
「私が変わりに全て行っておきます」
オリビアは笑顔を見せると持っていた剣は投げ捨て模擬刀を両手で握りしめる。
「それじゃあ、アイゼンのお姉ちゃんとして存分に遊んであげるわ!今日はオフよ!」
「ヨッシャー!模擬刀以外は反則だからな!姉ちゃん!」
意気揚々と盛り上がる姉妹を横目に仕事の効率を上げるためにヴァニタスは光の粒子に身を包み
4本の腕を駆使してオリビアの仕事を淡々と進め始める。"家族との時間は大切だから"ヴァニタスはそう胸に留めた。
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