第13話 暴力テスト




突然、国のトップに口説かれた。互いに既婚の身のはずだが彼女はお構い無しに僕の手を握る。


 「君は合理的で全てに全力を尽くす素晴らしい人間だ」


 ど、どうすればいいんだ?ちり紙みたく簡単に人を殺せる人間だ、下手に答える訳には……。


 ヨハナがグイッとマッテオの腕を引っ張るがアグネスはわざと引かせて体制を崩し、マッテオの腰に手を回し引き離す。


アグネスはマッテオの胸をガッツリ掴み、揉みしだくと甘い声を聞いて微笑む。


「胸は控えめ、服の上からでも形が綺麗だと分かる、今の背丈は私と視線を合わせやすい。君が私の側に居てくれるなら悦楽のなんたるかをみっちりと教えてあげよう」


 マッテオはここまで他人からセクハラされた事が無かったため頭が真っ白になり、どうすれば良いのか分からず固まる。


 「ダーーメーー!」


 叫びと共にヨハナはアグネスを殴り飛ばした。オフィスの机の上に頭から豪快に落下したのを見てマッテオは目が冷め青ざめる。


 「……君も一緒にどうかな?穢れに触れても穢れ無い純粋無垢を持つ素晴らしい人間。豊かな胸も嫌いじゃないし、私よりも背が高くて一緒に居て安心感が湧くよ」


 頭から血を流しながら人を口説く、筋金入りの人たらしなのか?殴られても気にしてない様子、にしてもあの机頑丈だな凹みもしてない。


「くーー!良くも私のマッテオにスケベな事を!許せない!私もする!」


自分の言葉など聞く気がないヨハナに笑顔が固める。

 

「なんでそうなるかな」


 両手でマッテオの胸を鷲掴み揉まれまくる。くすぐったくて笑いが止まらない。


「……姉さん、もう用が無いなら戻らせてもらうよ」


 ヘイディーの呆れた声に哀れな目でコチラを見てくる。そんな目で見るな、友と呼ぶなら見ないでくれ。


「……あぁいいぞ、でも後でわさびマヨネーズのタコライスアボカドチップス入りを差し入れてくれ、久しく食べてないからな、ヨダレが出てしまいそうだ」


 僕を見て言うのに深い意味は無いと考えて良いんだよな?ヨハナはまだ胸を揉んでいるけど、慣れてしまえばくすぐったくないな。


 ヘイディーが後ろ手で手を振り「姉さん、私の友を余り虐めないでくれと願うよ」そう言葉を残して去って行った。


「なんか……楽しい」


「は、はぁ、そうですか」


 ヨハナがヨシとするなら別にいいけど、そろそろ話に戻らないと。

 

「総統閣下のお誘いは大変恐縮ですが私には既に伴侶が居りますのでお断りさせていただきます」


 既婚して無くてもこの人の伴侶なんかお断りだけど。


「……そうか、では今宵の相手はしてくれるか?」


「お断りします」


「5時間だけ」


「お断りします」


「指先だけでも?」


「お断りします」


 しつこいな、中身は男だぞ、女体なら誰でもいいのか?いい加減なレズだな。


「そうか……不本意ではあるがコレを返そう」


 力強く投げ渡されたのは白い塊。それがマッテオの体の中に霧散して入っていき、肉体が男性に戻っていく。……大きめの服を着ていて良かった。


「マッテオが戻った!」


「さっきのは確か……前に僕が作った」


「あぁ……ゴホッ、失礼……そうだ君が作った胞子爆弾だよ。奥方の胞子で女になるなら旦那の方は男かな?とありきたりな予測が当たった訳だ」


 アグネスは口に付いた血を拭い、残念そうに見つめてくる。僕が気にする事じゃないと思うが時折吐血して大丈夫なのか。


 ──なるほど、ヨハナが溶けた時に僕の胞子を分け与えれば男になるかもしれないのか……今以上の力で抱きしめられたくないな。


アグネスは背を向けゆっくりと離れた後、コチラに向き直る。

 

 「では……戦おうじゃないか」


 ヨシ来たと言わんばかりにヨハナは構えるがいつからウチの嫁は戦闘狂になったんだ?


「ほら、マッテオも構えて、多分テストだと思うから」


「了解した」


 使える奴かどうかの話か……能力は流石に控えた方がいいか?アグネスから目を逸らした瞬間、マッテオの足に弾丸を撃ち込まれた。


 能力云々じゃない、殺らなきゃ殺られる、そう直感した。床に菌糸を張り巡らせ徹底的に追い詰めよう、そしたらこの拳銃で撃ち抜いてやる。


「ほう?そう使えるのか。まるで魔法だな、素敵だ、素晴らしい!もっと私に見せ給え!」


 アグネスは既にあの短剣を抜いている。どうゆう原理でアルン中尉の背中を一瞬にして切り裂いたは分からないが近づいてくるならコチラに利がある。


 ヨハナが正面から突っ込む、僕たちは戦闘の素人だがヴァニタスの時の様に能力を押し付ければ勝機はある。


「喰らえ!タナトスマッシュ!」


 ヨハナの拳さえ当たれば菌糸まみれで殺せる。


「ラメント」


 その言葉の後、僕の体は宙に浮いていた。血の滴が目の前で舞っている、誰かの声が遠くなっていく。


 床に付いて体の上に何かが乗っかる。腕?


「あぁぁぁぁ!腕がぁぁぁ!」


体が痛い、血が滲んで右目が見えない。どうなった、どうなってる?何故僕は立ち上がれない?


「ヨ……ハナ……」


 声が掠れる目が霞む。


「……!マッテオ!」


 転びながらも僕に近づいて来る。手を伸ばそうとするが伸ばした感覚が無い。


「全く、たかだか右腕と右半身を失った程度で騒ぎ立てるな」


 ……右半身が無くなった?誰の?僕のか?


「マッテオが死んじゃう!」


 ヨハナが近寄ると僕の右半身がうごめき始めた、そんな感覚がする。再生されているって事で良いんだよな?


 マッテオはまた女性になるかも知れないと思いつつも再生が終わるまで気絶しない様に意識を集中させた。


「君の都合の良いように生かされているもその腕のように再生するさ、死人のお嬢さん」


 ヨハナの顔がよく見えない、彼女に何か言われたのか?だが徐々に体が動くようになっていく。


「……私も彼も生きてる!私達を侮辱するなー!」


 どうしてそんなに激怒しているのか分からない。マッテオは早く治れと思いながらも妻の戦いを見守る事しか出来なかった。


 

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