第7話 タナトスピルツの片鱗



──────煙が上がるタワーの前に付くがマッテオはまだ抱き抱えられたままだった。


「そろそろ下ろしてくれないか?」


「今の体ならあそこまで飛べそう!」


 何も聞いてくれないな……ん?飛ぶと言ったか?あそこぱっと見20階はあるぞ?


「もしかしてマッテオ高い所苦手」


「命の危機を感じる所は苦手だ」


怖いに決まってる、今だって心音が激しく鳴っているのを感じるぐらいだ。


 「へへ、マッテオの苦手もの知れてなんだか嬉しいなぁ」


 不意に見せた純粋な笑顔にドキッとマッテオの心臓にさらに負担が掛かる。──苦しいはずなのに嬉しいと感じてしまうのはヨハナのせい……なのか?


「……明るいヨハナが見れて僕も嬉しいよ、だけど流石にあそこまで飛んっ…」


 マッテオの声は飛び上がる風切り音でかき消され、ヨハナはニヤけた顔でタワーの壁にタナトスピルツを生やし、足場にして登って行く。


「タナトスピルツの力を使ったら周りに被害が」


 下を見るとタナトスピルツの足場は消えて無くなっていた。いったい何をしたんだ?


「消えて、って念じたら消えてくれるの。研究所のヤツもそうすれば良かった」


 ──ヨハナはどんどんタナトスピルツの力をモノにしていっている。……凄い事だが何かの拍子に力が暴走したりしないか心配だ。


 怖くてつい、情けなくヨハナにしがみつく。


「マッテオは可愛いね」


「怖いのは仕方ない……だろ」


 煙の根本の目の前に立ち、ヨハナはなんの躊躇いもなく、中に飛び込んだ。


 煙が晴れると右に仮面の軍人と左に高身長の女性とスーツ姿の女性を捉えた。左の二人は頭上にはそれぞれ天使の輪の様なネオンの光を発していた。


敵味方は明らか、拳銃を出すして撃つのに躊躇なく、高身長の方を狙いすませて弾丸が飛んてゆく。


 だが弾丸はその向きを変え、マッテオが認識する前に頬をかすめた。


 「おい!科学者、発砲で合いの手入れるのはいいが、アモルのアイギスは銃ごときじゃ無駄だ」


 ──この軍人何故か見覚えがあるが今は敵だ、バリアをどうすすれば良いか考えなければ。


「今考えました!必殺!タナトスマッシュ!」


 ヨハナの大きく振りかぶった拳がアモルのアイギスに直撃しアイギスの表面は激しく震えた。


ヨハナの拳は割れ、血が吹き出し床にもだえ苦しむ。

 

 マッテオはバカバカバカと罵倒しながら懐から包帯を取り出し応急処置をした。


 アルコールが染みて苦痛の声が漏れ、汗が滲み出る。


「私は天才……だったのよ!バカって言い過ぎ、そんなことより見て」


「あわわわばばばば!」


 ──ヨハナが指差す方を見るとタナトスピルツの胞子がバリアを超えて、凄まじい勢いで繁殖しアモルの体は菌糸が犯していく光景が目に入ってきた。


 ヴァニタスの頭を掴んだ仮面の軍人は高笑いを繰り返し愉悦に浸り慢心する。


「コイツは素晴らしいぞ!素晴らしいな!見たかヴァニタス!見てるかセレス!お前の友は!貴様の盾は!見るも無惨に朽ちていくぞぉ!あはははは!」


 「ア、アモル……止めて……一人にしないで」


ヴァニタスはどんどん小さく朽ち果ててゆくアモルを見て嘔吐し涙ぐみ座り込む。


「可愛そうだなインパルスの、いや、コイツは……、ざまぁだな!あはははは!」


 ──あのアモルと呼ばれている奴はサルバドールなのか?だとしたら、この実績はモンスタードールとしての株を上げてくれるはずだ。


 アモルは機体を起こし仮面の軍人を睨みつけた。


「……私の存在に勝ちは無く……私の未来に負けもない。故に無敗の癒し手なり」


 アモルはその巨体から繰り出せる最大出力の瞬発力で迅速を作り出し、軋む腕でアウインの首を掴んだ。


「重なるノノお休み死て?」


 ジタバタと宙づり状態のアウインは必死にアモルの腕をミゼリコルデで刺しまくるが掴む腕は離さない。タナトスピルツの菌糸が胴体から腕に登って来てるのを見て仮面の軍人は叫ぶ。


「クソッ!おい小娘!今すぐピルツを止めろ!」


「いや!止めるな!止めたら殺されるぞ!」


マッテオはタナトスピルツの抑制薬を仮面の軍人に掛けるとアモルの懐に胞子の塊を投げつける。


 何気にこの胞子の爆弾は初めて僕がタナトスピルツの力で作った物だ。


 胞子は広がりと死滅を繰り返し、煙となって消えてゆく。晴れる頃にはアモルの姿形は無く、立って居た場所には大きな穴が残っていた。



「アモルちゃん……なんで…、こんな結末に」


ヴァニタスさ何も出来ない、短い期間の寄生では能力が限定される。

 

「ヴァニタス、いずれ貴様の本体も壊してやるぞ、忌々しいペテン師。いや、貴様ら全員心があると主張する嘘ツキだったな」


 「アウイン!」


その否定を許さない、それだけは許せない。この心が、悲しみが嘘なワケガない!


 しかし呆気なく喉を切り裂かれてヴァニタスは息絶える。やっと一息付くとマッテオ達の前にアウインは手を上げた。


 「さて、俺とハイタッチしたい奴はいるか?」


 ヨハナはイエイ!と陽気に乗っかる。総統閣下の事を知るマッテオは遠慮した。


 ──この国の支配者が小物臭いサイコパスか、今後が不安で仕方ない。


 突然床が揺れて体を伏せた。外の爆撃というよりも真下からの振動だ。


 揺れが止まり壊れた壁の向こうに飛び去るアモルの姿が見えた。


 菌まみれで壊れかけだったアモルが損失前の姿で飛んでいる。


「科学者、この弾丸に菌糸をつけて任意に爆発させれるか?」


「できます、コレ、借りますね」


 ヨハナが弾丸を握ると弾丸は黒く脈打ち、一つの命の様な暖かさが与えられた。アウインはスナイパーライフルに黒き弾丸込めると構えて撃つの速射だった。


 菌糸は届く、運ぶ弾丸はアイギスに到達する前にその姿を消した。何が起きたか分からなかったがアウインはそういうことか、と腑に落ちた様子。


「奴め、回収ユニットで一時的に電子化させてる、復元能力極ふりのアモルなら朽ち果てない訳か。所でお前達は飛行能力はあるか?」


「高くジャンプできます!けど飛べません!」


──サルバドールが逃げる?いや、もう何かした後なのか?だとすればきっと、盗みだ。アウインを暗殺するにしてもあのアモルは受け身すぎる。


「モンスタードール、ノーシスただいま戻りましたアウイン」


 翼を生やしたノーシスがアウインの前で跪く。


 ──このノーシスは前も羽を生やしていたが能力は変形、もしくは変体なのだろうか?どちらにしろオールラウンダーすぎる。


「私と共にアモルを破壊する、後旦那借りるぞ」


ノーシスは巨大化しマッテオを小脇に抱え、アウインが背に乗る。異議も聞かずに飛んでいくノーシス、心配そうな妻の顔と真下の地面の遠さに不安と頭痛がする。


 ──きっと傍から見れば畏怖の怪物にしか見えないだろう。しかし飛んで近づいてそれからどうするつもりだ?低学年の子供だってバリアが無敵って事ぐらい知っている。


「さっきの爆弾胞子ボールを早く出せ」


胞子爆弾で貫通できるかは分からないが取り敢えず作ろう。


まずは両手で玉を作るイメージ、この手の中でウニョウニョする感触にはまだ慣れない。できたのを見てマッテオの手から奪い取る。


「よし、……っておい!科学者、その頭のピルツはなんだ」


「え?」


 頭に触れると無数のヌメリとツルツルとした感触が手の平全体に感じた。──ハゲた!ハゲたのか!?いや、無数にピルツが生え散らかしている!


 なんだ!?体の感覚が遠のいていく、死ぬのか?今ここで?そんなの御免だ、死にたくない!原因を考えろ!僕は最後まで諦めたりしない!


「えぇい!クソッ!ノーシス、アモルは諦める、モルグに残ってるキリングドールを一掃しろ。俺はこの男をバティスタの所へ持って行く、体が半分変形してるがまぁ大丈夫だろう」


 ──意識が……遠のいて……消えて行く……。

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