第12話 偽科学2

 科学上有名な実験がある。

 それは仮想の刑務所を作り、一般人を雇って看守と囚人に分けて配置し、そのまま生活させるという実験だ。

 実験が進むにつれ一般人のはずの彼らは変化していき、看守役はより看守らしくなり囚人に暴行を加えるようになり、囚人役はより囚人らしくなり看守に反抗するようになっていった。

 その内、実験は歯止めが利かなくなり、実験の提案者である教授は実験の中止を宣言したが看守役が実験の続行を主張して立てこもり、最後は警官隊の突入により実験は終了を告げた。


 これにより教授の論文は脚光を浴び、『人間は与えられた役目に従い、人格までも変化する』のだと結論づけられた。

 この結果は多くの人が知ることとなった。今でもこのことを実験に裏打ちされた科学的事実として挙げる人は多い。


 それより三十年が経過した。

 ついに罪悪感に耐えられなくなった教授が死ぬ前の懺悔を行った。

 この実験、実は参加者全員が役者なのである。そして教授が毎日演技指導をして、自分の論文に合うように結果を操作していたのだ。

 つまりはすべて捏造の実験ということだ。

 正式な科学者が作り上げた偽科学の良い例である。


 人間は与えられた役割をそのまま受け入れてしまうほど愚かでもないというのが本当のところである。

 もちろん役者たちも自分たちが実験結果の捏造に関わっていることを知っていたし、いくら口止め料込の報酬を貰っていたとしてもこれほどの長きに渡って口を噤んでいたことを考えれば、人間は愚かではないが悪辣であると結論づけてもよいのではなかろうか?

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