第11話 偽科学

 オカルトを語る者の中にオカルトのオの字にも達していない偽オカルトがあるのと同様に、科学を語る者の中にも科学のカの字にも達していない偽科学者がいる。


 大勢の人々が勘違いしている偽科学の一つは「光速を越えると過去に戻る」というものである。


 説明しよう。

 この考え方の基礎になるのは情報光円錐という考え方だ。

 ある惑星上にでっかい時計を置き、宇宙にいる誰でも見ることができるようにする。

 この惑星から宇宙船で出発するところを想像してみよう。

 宇宙船が光より遅い場合、惑星上に見えている時計は前に進む。

 宇宙船が光と同じ速さの場合、見える時計の針は止まる。時計の光景を示す光子と同じ速度で動くので、同じ光景が続くからだ。

 さらに速度を上げると、時計の針は逆転して見える。より過去から出た光に追いつくためだ。

 これを一言で言うと、「光速を越えると過去(の光景)に戻る」である。

 読者諸氏にもお分かりのように、これは我々一般人が考える時間移動とは全く別の意味である。

 ところが科学者の中にも情報光円錐の考え方ではなく、ごく一般の考え方でこのセリフを言う人間が存在する。


 科学者と言えども自分の専門以外では何も理解していないことの良い証明である。



 以前、ブラジルの科学者が重力制御装置を開発したと発表したことがある。

 その論文にはこう書かれている。

「コアとなる部分に電気をかけると重力子を放出するエキゾチック物質を組み込み」

 そんなエキゾチック物質は見付かっていない。

 これはつまり魔神の壺を使った装置の設計法を述べているのと同じだ。


 どんな願いでも叶えてくれる装置の設計法。

「まずどんな願いでも叶えてくれる魔神が入った壺を用意します・・」

 これと内容的には同じなのである。


 自分の理論に都合のよい存在をまず要求するような理論は白昼夢を見るのと同じく無益な行動である。

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