第2話 キョウチクトウ

 『夏に咲く花キョウチクトウ~』

 広島で中学校に通ったことのある人はこのフレーズを知っている。音楽の時間に歌わされるからだ。


 キョウチクトウは街路樹としてよく植えられている木である。特に広島には多い。

 排気ガスに強く、年間を通じて青々としていて、しかも猛毒である。

 そう、猛毒なのである。葉にも枝にも根にも猛毒があり、大変に危険な植物なのである。


 高校の弓道部では弓道場の脇に植えてあるキョウチクトウを年に一回刈り取る作業をやらされた。

 ナイフで伸びすぎた枝を切り落とし、落とした枝を集めて焼き払うのである。

 このとき、枝の汁がついたナイフで誤って手を切っていたら、死ぬことになる。

 焼き払う際の煙を吸い込んでいたら死ぬことになる。

 しかもこういった危険性を一切説明せずに作業をさせるのである。

 恐らく高校の教師たちはこの植物の危険性を知らなかったのだろうと思う。その中には生物学の教師も含まれてはいたが。


 この植物は広島の公園にも多く植えられているが、幸いにも美味しそうに見えないので幼児が葉っぱを口に入れたとは聞かない。まあそんなことがあって幼児が死んでも、その原因を正しく推察できる人間が日本にはいないだけかもしれない。日本には鑑定医の類が極めて少なく、中でも毒物に関する専門家は皆無のためである。


 我われは知らず知らずの内に毒物の林の中で生活しているのである。

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