エピローグ
偽シルビア殺害の報は、伝書鳩によってすぐさま法王のもとへと届けられた。
法王はその報告を受け取ると、ライルとシルビアの活躍に心から感謝した。
「よくやってくれた…」
伝書鳩の手紙を握りしめ、彼は開け放たれた窓の外に目線をうつす。
広大な森林が広がる大地。そのずっと先に、彼らがいる。
法王はその景色を眺めながら、姿の見えぬライルとシルビアに祈りを捧げた。
ラバ地方の町や村の人々は、自分たちが崇め奉っていた相手が偽者だと知らされて驚くとともに納得した。ここ数年の間の彼女の豹変ぶりは目を見張るものがあった。金の亡者のごとく、人々から多額の金品を要求してくるようになっていたのである。
それでも、従順なイシス教徒である彼らは生活が苦しくなっても要求された金額を払い続けた。
おかしいとは感じるものの、それを拒否することで天罰が下ることを恐れたのだ。
彼女が偽者だとわかり、彼らは心から安堵した。
不当に払わされたお布施は、形こそ変われ、すべて人々に返納された。
すべてはもとに戻りつつあった。
5年前の、魔王がいた頃まで……。
「どうやら、ラバ地方に新しい神殿ができるようです」
神秘の湖、ライルがシルビアと初めて出会った場所に二人はいた。
ライルは皮の鎧に皮のマント、重そうなロングソードを腰に差した傭兵風の格好をしている。
シルビアは初めて会った時と同じくイシス教の神官衣を羽織っていた。もちろん、手には巨大なメイスが握られている。
「それはよかったですね」
シルビアは、ライルの言葉に満足そうに頷いていた。
「新しい神官長は、もと枢機卿の方です。私もお会いしたことがありますが、とても偉大なお方です。あの方ならば、混乱したラバの地に平穏をもたらしてくれるでしょう」
「まあ。誰ですか?」
「アフレシア卿です」
その名を聞いてシルビアは笑みを浮かべた。
「その方でしたら、安心ですね。魔王討伐の際、私を全力でサポートしてくださった方ですから」
ふふ、とライルは笑った。
信仰心のあついイシス教徒の中でも特に優れた彼が、鬼神のごとく暴れまわるシルビアをどのようにサポートしていたのだろうか。
不思議でならない。
「なにか?」
と睨み付けて言う彼女に、ライルは
「いえ、なんでもありません」
と肩をすくめた。
「ところでライル様。その格好はなんですの?」
シルビアは、イシス教徒とは思えない彼の姿に怪訝な表情を浮かべた。
「ああ、これですか。変装です。今度は別の場所で流れの傭兵が暴れまわっているという情報が入りまして、この格好で調査しようと思ったのです。似合いますか?」
くるりと回って剣を構えるライルに、シルビアは鼻で笑った。
「よくお似合いですよ」
「…今、バカにしませんでしたか?」
「いえいえ、ほんと、とってもよくお似合いです。仮装パレードに出てもじゅうぶん通用するほど…」
「それをバカにしていると言うんです!」
憤慨するライルに、シルビアは思わず吹き出した。
「わ、笑わないでくださいよ」
「ごめんなさい、でも私の偽者にいろいろと偉そうなこと言ってたわりに、あまりに変装のレベルが低すぎて……」
「ひ、低いですか…?」
「頑張って戦士のふりをしている村人のようです」
笑いをかみ殺しながら言う彼女の言葉に多少ショックを受けながらも、ライルはこの格好で行くことをすでに決めていた。他の衣装は用意していない。
ふてくされたように彼は言った。
「わかりました、もういいです! 変装の不自然さは立ち振る舞いでカバーします」
「怒らないでください」
確かに彼の瞬発力や格闘技術ならじゅうぶん傭兵として通用するだろう。
シルビアは悪いと思ったのか、提案した。
「私も参りましょうか? 一人より二人の方が傭兵っぽくなりますよ」
頬を膨らませてそっぽを向いていたライルが目をしばたたかせながら顔を向ける。
「そんな、聖女様にそんなことさせられませんよ」
「いえ、ぜひお手伝いさせてください。凶悪な女戦士としてライル様をサポートいたします」
自分で“凶悪な”と認めているところがおかしくて仕方がない。
ライルはふてくされていた顔を緩めた。
「わかりました、あなたの言う通り一人よりも二人のほうが解決が早かったりしますからね」
そう言うと、深々と頭を下げる。
「傭兵稼業をともにする女戦士として、私のサポートをお願いします」
「はい、ライル様」
ぎゅっとメイスを握りしめながら微笑む彼女に、ライルは思った。
彼女こそ“世界最恐の女戦士”だ、と。
完
聖女討伐 ~かつて魔王を倒した聖女を討伐せよ~ たこす @takechi516
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