第37話 結果より努力

 あれから試験期間が始まってからも毎日交互に勉強を教えて貰い、数日前にようやく最終教科のテストが終わりを迎えた。

 今日はテスト返し、つまり点数が明らかになる日。秋葉あきは乃愛のあはここ数日ずっと会えば視線をバチバチとさせている。

 おそらく彼女たちにとって負けられない戦いなのだろう。成績がかかっている慧斗けいとからすれば、余計な不安が増えて精神的に辛いのだけれど。


冨樫とがし

「は、はい……!」


 先生に名前を呼ばれ、緊張のあまり同じ方の手足を同時に出しながら、壊れたロボットのような歩き方で教卓へと向かう。

 冷静に「何やってるんだ」というツッコミを受けてようやく正気に戻った彼は、五枚の解答用紙を受け取って足早に席へ戻った。

 隣の乃愛が受け取りに行っている間、用紙の縁を使って平均点から何%差があるのかを確認していく。


【教科名(慧斗の点数/平均点)……ポイント】

 国語(70/65)……+0.07

 社会(62/72)……-0.15

 理科(78/68)……+0.14

 数学(62/79)……-0.22


 秋葉担当 国語+社会=-0.08

 乃愛担当 数学+理科=-0.08

(※ただし、小数点以下は切り捨て)


 結果を見て、慧斗は唖然とした。全体としては平均点より一割も下回る合計点ではあるが、彼にしては上出来の点数。

 しかし、そのことについて驚いたのではない。ありえないと思っていた同点が、実際に起こってしまったことが信じられないのだ。


「慧斗さん、どうでしたか……ってこれが結果ですか?! 嘘、こんなことって……」


 乃愛も戻ってくるなり結果を覗き込み、目を丸くして言葉を失う。

 引き分けが唯一の救いだなんてことを思ってはいたが、慧斗はこの顔を見てから本当にそうなのかと不安になってしまった。

 二人共を落ち込ませてしまうだけなのではないか。実際は何も得られないだけなのではないか。そう思えて仕方がなかったから。

 けれど、そんな不安はすぐに吹き飛ぶことになる。何故なら――――――――――――。


 時間は流れ、テスト返しが終わった後の昼休み。

 同じ机で弁当箱を広げた秋葉は、慧斗から結果を渡されて乃愛と同様に目を丸くした。

 そして決着が着かなかったことをどうこう言う……かと思えば、点数の方を指さしながら嬉しそうに肩を弾ませる。


「前回より20点も上がってるじゃない、慧斗にしてはよく頑張ったわね」

「不満じゃないの?」

「確かに私の90点に比べたら見劣りはするけど、これだけ成長してくれれば文句なんてないわよ」

「そうじゃなくて、勝負のことなんだけど……」

「……まあ、正直勝ち負けなんてどうでも良くなっちゃったのよね。勉強教えるのって結構楽しかったんだもの」


 先程からニコニコしている乃愛に向かって「勝ったらドヤ顔してやるつもりだったけど」と呟く彼女に、慧斗は思わず緩む頬を抑えきれなかった。


「何をニヤニヤしてるのよ」

「いや、同じこと言うんだなと思って」

「私が? 誰と?」

荒木あらきさんにも聞いたら、さっき同じ答えが返ってきたんだ。教える時間が楽しかったから満足だって」

「ふふ、慧斗さんも前回よりすごく高い点を取ってくれたみたいですし、私たちが争っていては気分が冷めてしまいますからね」

「……何よ、真似しちゃって」

「後から言ったのは楠木くすのきさんですけど」


 満足したとは言っても、やはりまだバチバチとした視線を下げようとはしない二人。

 彼はそんなに光景を見ながら、「やっぱり二人とも好きだな……」と独り言を呟く。

 それを聞き逃さなかった彼女たちは「今なんて?!」「何と言いましたか?!」とものすごい勢いで顔を近付けてきた。


「あ、いや、友達としての好きね!」

「……そんなの当たり前じゃない」

「……私だって大好きですよ、お友達として」

「あれ、そう言いながら声が冷たくない?」


 慌てて弁解したところ、どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。

 そんな慧斗は昼休みの残り時間、頬を膨れさせながら食事を続ける彼女たちを眺めることになるのであった。

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