第33話 勉強会は人数が多い方が捗る
あの日から気を良くした
正直、勉強が面倒だと言う気持ちはあるものの、善意でしてくれていることなせいで拒むに拒めない。
ここまで来たらいい点を取らないと、彼女の顔に泥を塗ることになるだろうし。
「慧斗、今日もやるわよ」
「分かってる」
テスト三日前、放課後になるや否やすぐにそう声を掛けてきた秋葉に連れられ、彼は荷物を持って教室を後にした。
すると、先に廊下へ出て待っていたらしい
「慧斗さん、もし良かったら今から勉強会しませんか?」
「勉強会かぁ。有難いお誘いなんだけど、もう先約があってね……」
「
もう少し粘ってくれるかと思ったが、彼女は意外にもあっさりと諦めて帰って行く。
ただ、その背中がいつもよりも小さく見えた気がして、慧斗は慌てて呼び止めた。
「秋葉、
「ダメよ。慧斗、荒木さんがいたら絶対に集中しないもの」
「そんなことないよ。むしろ、ここで帰しちゃった方が気がかりになると思うけど?」
必死に主張しても、遊びじゃないだとか自分のためにならないだとか、ああ言えばこう言うの繰り返しで断られてしまう。
こうなれば卑怯かもしれないが、奥の手を使うしかない。彼は心の中でそう決断すると、思い切って秋葉の耳元に口を寄せた。そして。
「人を好きになる気持ちが分かるなら、少しは協力してくれてもいいでしょ?」
乃愛には聞こえない程度の声でそう囁く。
すると、秋葉は何かを堪えるように拳を握り締めた後、深いため息をこぼして「分かったわよ」と頷いてくれた。
「ありがとう! 優しい秋葉大好き!」
「ちょ、調子に乗らないで。慧斗こそ、私の気持ちを知ってるのに配慮が足りてないわよ」
「ごめんごめん。優しさに対するお礼はちゃんとするからさ、今日一日だけ我慢してね」
「我慢って……まるで私が駄々こねてるみたいな言い方しないでもらえる?」
少しの不満は残ったようだったが、慧斗が一緒に勉強しようと伝えると、乃愛は心から嬉しそうに笑ってくれた。
やっぱり好きな人の笑顔に勝る報酬はない。幼馴染の安心させてくれるそれとは違って、すごくドキドキとした喜びがあるから。
「じゃあ、場所は秋葉の部屋でいい? それとも、荒木さんの部屋でする?」
「あの、私慧斗さんのお部屋がいいです。ずっと興味があって……」
「きょ、興味?」
「変な意味じゃないですよ?! 一般的な男子高校生の部屋がどんな場所なのかな、なんて……」
「そ、そういうことね。だったら別にいいけど、見て楽しいものじゃないよ?」
「大丈夫です!」
瞳をキラキラとさせながら前のめりになる彼女に、秋葉も文句を言う隙を見つけられずにため息だけを零す。
そんなにため息ばかりついていたら幸せが逃げるぞと言ってやろうかとも思ったが、叩かれそうな気がしたので黙っておいた。
すぐ後に「何か言いなさいよ」と殴られたので、気にかけた時点で負けていたということを思い知らされてしまったのだけれど。
「あっ、お宅に伺うのであればお土産が必要ですね。急なことで用意していませんでした……」
「用意されてた方が怖いよ。それに友達なんだから、そういうのは気にしなくていいよ」
「ですが……」
「どうしても気になるなら、今度お弁当のおかずひとつくれるだけでいいよ。ああいうのは気持ちが大事なんだから」
「ありがとうございます! とびきり美味しいのをあーんしてあげますね!」
「あ、あーん? それは困っちゃうなぁ」
予想外のお土産に緩む頬を抑えられないでいると、背後に立っていた秋葉が小声で「あーん?」と威嚇してくる。
こっちのあーんは嬉しくない。身の危険すら感じるので、泣く泣く「やっぱり何も無しで大丈夫」とお断りする慧斗であった。
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