第18話 メイドと冥土は似ているようで全く別物
何とか誰にも声を掛けられることなく、お屋敷を一周して戻って来れたことにホッとする
何とか頼み込んでようやくメイクの落とし方を教えてもらい、二人の指導の元元の姿に戻っていく。
あともう少しで完全に落とし切れると安堵のため息を零しかけたその時、ガチャリと扉が開いて一人のメイドさんが入ってきた。
「お嬢様、お洋服が乾き―――――――――」
彼女は用件を言いかけたものの、女装して中途半端なメイクをしている慧斗のことを見ると、二、三度瞬きをしてから何も言わずに去って行く。
あれは完全に誤解をした目だった。むしろ、あの格好を見て間違った認識をしない方が難しい。
彼はすぐに追いかけようとしたが、この格好で走り回るわけにも行かず、泣く泣くドアの前に座り込むことしか出来なかった。
「け、慧斗さん、大丈夫ですか?」
「絶対に変な人だと思われた。メイドさんに冷たい目を向けられた……」
「そ、そんなことないわよ。私たちが事情を話してきてあげるから元気出しなさい」
「二人が無理やりこんなことさせるから……」
格好が格好なせいで中身まで女々しくなってしまったのか、慧斗は目を潤ませながら弱音を零す。
そんな彼を見てさすがに二人の中にも罪悪感が湧いてきたようで、
数分が経ってようやく戻ってきたメイドさん……胸元に『7』という番号が刻まれた金属のプレートを付けた彼女は、どうやら話を聞いて納得してくれたらしい。
「お嬢様と御友人のお戯れだったのですね。てっきり、そういう趣味なのかと」
「多様性が求められる世の中ですけど、僕にそういう多様性はありませんから」
「承知致しました。それと、気を遣って見なかった振りをしてしまい申し訳ございません」
「あ、気を遣ってくれてたんですね……」
聞いたところ、この黒髪クールビューティーなメイドさんは乃愛の専属メイドさんらしく、基本的に彼女の個人的な用事はこの人が全て担うらしい。
先程の訪問は乾いた服を持ってきてくれたようで、おかげでようやくいつも通りの格好に戻ることが出来た。
やっぱり布面積の広い男の格好の方が落ち着くものである。例えそれが慣れという概念によって形成された安らぎであったとしても。
「お嬢様がお屋敷へ連れられるほどの御友人ですから、今後もお会いすることはあるでしょう」
「そうですね。
「私はメイド番号7番、お嬢様からはセブンと呼ばれています」
「本名、では無いですよね?」
「私は
「なるほど……」
よく分からないが、乃愛の専属メイドということは仕事の出来る人に違いない。
そんな彼女が選んだ方法なら、きっといいことなのだろう。慧斗には真似できそうにないけれど。
「ご不満でしたら、ブンちゃんと呼んで頂いても構いませんよ」
「えっと……セブンさんで」
「畏まりました」
さすがに初対面で年上のお姉さんをニックネーム呼びは苦しいからと断ったのだけれど、もしかすると彼女なりのユーモアだったのかもしれない。
セブンさんは少ししゅんとしたように見える表情で会釈をすると、「失礼します」と退室して行った。
あの人には何だか見た目とは裏腹に一癖も二癖もあるような気がする。
「セブンさんって面白そうな人だね」
「そうでしょうか?」
はてと首を傾げる乃愛に慧斗は大きく頷いて、閉じた扉をしばらく見つめ続けるのであった。
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