第14話 ダメはOKの裏返しじゃない時もある
「ここが資料室です」
他の色々な施設を見回った後、
「一度目の引っ越しをする前は、ここにお父様の仕事の資料が並んでいたのですが……今は図書室という方がいいのかもしれません」
「今は本がぎっしりだね」
「あちらには漫画やライトノベルもありますよ」
「ちょっと見てもいい?」
「どうぞどうぞ」
彼女の了解を取って奥へ進んでみると、本棚数個分にライトノベルが並んでいるエリアの前へ辿り着く。これ程揃うとなかなかに壮観だ。
「これは
「いいえ。お父様の会社は出版社にも多く出資しているそうで、皆さんお礼にと新刊が出る度に一冊持ってきて下さるんです」
「じゃあ、荒木さん自身はあまり興味無いんだ?」
「好んで嗜むことはありませんね。
「ラノベには男の夢が詰まってるからね」
「なるほど……」
慧斗が見覚えのある作品を数冊抜き取って、その良さを熱弁しようとしていると、退屈そうにしていた
乃愛はそれまで真剣に彼の話を聞いていたが、秋葉がいないことに気が付くと大慌てで探し始めた。
そして、
「な、何よ……」
「そっちは
「どうして私はダメなのよ。意地悪なことばかり言わないでもらえる?」
「そうじゃないんです!」
「あなたは慧斗と話していればいいわ。私はこの中を自由に散策させてもらうから」
制止を振り払い、ぷいっと顔を背けて暖簾を潜る彼女と、それを追いかけて飛び込む乃愛。
一体どうしてこの先に行ってはいけないのか、あそこまで大袈裟に言われるのを聞いてしまうと慧斗だって少しは気になる。
ただ、数分もしない内に出てきた二人の顔が真っ赤であるのを見ると、好奇心のままに確認するのはやっぱりやめておいた。
ふと思い出したのだ。レンタルビデオ店などで、暖簾の向こう側は未成年の立ち入りを禁止としている場合があるということを。
「だからダメだと言ったんです」
「わ、悪かったわよ。もう行かないから」
「私もお父様に入らないように言われていたと言うのに、こんな形で破ってしまうとは……」
「だから謝ってるじゃない」
「楠木さんにはあの漫画のヒロインのようになってもらわないと許せません」
「なっ?! 卑劣過ぎるわよ!」
「嫌ならいいんですよ、慧斗さんにあなたが何を見ていたのかを教えちゃいますから」
乃愛が「実は楠木さ――――――」と言いかけたところで、飛びついてきた秋葉が彼女の口を覆うようにしながら「なんでもないわよ!」と物陰の方へと引きずっていく。
慧斗はそんな光景を「仲良しだなぁ」と呟きながら見送ると、再び好みのラノベ探しを再開した。
「あ、これ続き出てたんだ。こっちもなかなか面白そう。荒木さんに貸してもらおうかな」
そうやって時間を潰しつつ五分ほどが経過した頃、やけに遅いなと二人の様子を見に行ってみた彼は思わず持っていた本を床に落とすことになる。
だって、秋葉が乃愛の目の前で慧斗の好きな作品のヒロインのコスプレをしていたから。
「け、慧斗?! これは違うの!」
「ふふふ、見られてしまいましたか。こちらも出版社がイベントの際に下さったものです。試しに乃愛さんにお願いしてみたら、あっさりと着てくれましたよ」
「別にあっさりじゃないから! どれだけ抵抗したと思ってるのよ」
「でも秋葉、すごく似合ってるよ。サイズもピッタリみたいだし、コスプレ向いてるんじゃない?」
「……そう言われたら悪い気はしないけど」
さすがは出版社自身が手掛けただけあって、細部まで細かく作り上げられている。
ウィッグのおかげで別人のように見えるし、街中ですれ違えば向こうの世界から飛び出してきたのかと目を丸くする人も少なくないだろう。
ただ、作中でヒロインが使用する魔法の杖も持っているので、せっかくならとセリフを口にしてもらおうとした時には――――――――――――。
「え、エクスプロ……って言えるかぁぁぁぁぁ!」
恥ずかしさのあまり暴走した彼女に、杖の先端で思いっきり殴られてしまった。
けれど、好きなキャラにやられたと思えば不思議と嫌な気はしない。さすがはライトノベル、理性や感情をも超越した力を持っているらしい。
慧斗はそんなことを思いながら、少し腫れた額を押さえながらゆっくりと床に倒れるのであった。
(……あ、走馬灯だ)
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