第12話 警報が訃報になってはいけない
御屋敷へ向かうため、庭の中央を通るように敷かれた道の上を進む。
ただそれだけのはずだと言うのに、
目の前を歩く
二人ともその通り、彼女を追いかける形で歩いていると言うのに。
「ちょっと、もう少し早く歩けないの?」
「私はそれでも構いませんが、
「はぁ? いいに決まって――――――――」
それと同時に庭のオブジェである石像の手が回転して投げられた銀色に輝くの槍が、彼女のすぐ目の前の地面にぶつかって転がった。
「え、あ、何なのよ……」
「先程、警報システムをオフにし忘れたことを思い出したんです。だから伝えたはずですよ、私の後ろとね」
「だったらはっきり言いなさいよ! 危うく死ぬところだったじゃない!」
「大丈夫ですよ、これプラスチックを銀色に塗っただけなので。警報で人を殺してしまったら、悪いのは私たちになりますから」
「……何のために投げたのよ」
「こんなものが飛んできたら、誰でも手に取って確認しますよね。お馬鹿な侵入者はみんな、これに指紋を残すんですよ」
「なかなか理にかなってるシステムだ」
「ですよね! さすが慧斗さん、私の気持ちをよく分かってくれていますね」
褒められて鼻の下を伸ばす彼の頭を、秋葉は拾った槍で叩いてスタスタと歩いて行ってしまう。
「何を怒ってるんだろう」
「もしかすると、今日は女の子の日なのかもしれませんね」
「……そうか、秋葉も女の子だったか」
「それ、本人には言わない方がいいですよ。きっとゲンコツ一発で済まないと思いますから」
「だね」
長い時間を一緒に過ごすと、相手の性別なんて気にならなくなる。子供の頃から知っている相手だと特にだ。
慧斗は「秋葉も大変だなぁ」なんて呟きつつ、ドアの前で腕を組んで待っている彼女に小走りで追い付く。
いくら不機嫌でも他所様の家に勝手に上がるような幼馴染じゃなくて良かった。
「楠木さん、そんなに私の家を見るのが待ち遠しいのですね」
「別に。ダラダラしてる時間が無駄なだけ」
「そういうことにしておきましょう。では、中へご案内しますね」
乃愛が開けてくれた扉の隙間から中へと入ると、それだけで肌を撫でる空気が一変するのを確かに感じる。
大きなシャンデリアも、床に敷き詰められた赤い絨毯も、壁に掛けられた高そうな絵も。
目に映る何もかもが童話の中に出てくるような光景で、その眩しさに思わず目が眩む。
「ていうか、玄関広過ぎない?」
「以前は多くの客人を一度に招く機会があったので。大事な方々を外でお待たせする訳にはいきませんから」
「なるほど。庶民の僕らとはレベルが違うね」
最低限の物資さえ用意すれば、玄関だけで生活出来そうな広さはある。
そこで靴を脱いで上がらせてもらうと、そそくさとやってきたメイドさんたちが用意してあったスリッパを履かせてくれた。
「初めて見たよ、本物のメイドさん」
「偽物のメイドさんを見た事があるの?」
「テレビでなら」
「ふーん、行ったわけじゃないのね」
「別に僕がメイドカフェに行ってようと自由だと思うけど」
「ふん。行ってたらモテない男の末路だって笑ってやろうと思ってただけよ」
「……確かにモテないから仕方ないか」
あっさりと納得してしまう慧斗に秋葉は曖昧な表情を浮かべつつ、去っていくメイドさんたちに会釈をしてから乃愛の方へと向き直る。
「では、まずはお父様に挨拶をしてもらいましょう。紹介しなくてはなりませんから」
「紹介だなんてそんな。まだ知り合って少ししか経ってないのに」
「紹介ってそういう意味じゃないですよ」
「知ってる。一度言ってみたかったんだ」
「ふふ、慧斗さんはお茶目ですね」
そこはかとなくイチャつく二人に、秋葉はやれやれと肩を竦めながら「何やってんだか」とため息を零すのであった。
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