第11話 家は権力の象徴かもしれない

 そんなこんな(第10話参照)で、土曜日を迎えた慧斗けいと秋葉あきはは例の御屋敷の前へとやってきていた。


「これ、本当にあの子の家なのよね?」

「そう言ってたけど……」


 遠くから見ているだけでも大きさを理解していたつもりだったが、ここまで近付くと入口の門ですら見上げれば腰を抜かしそうなほど。

 庭には噴水、手入れされていそうな植木、綺麗に咲乱れる花々。そして圧倒されそうな迫力のある豪華な外装の御屋敷。

 幼い頃から見ていたはずの建物が、これから入ると思うと少し恐ろしく見える。怖い人が出てきたりしないだろうか。

 そんなことを思いながら敷地内を覗いていると、どこからともなく現れた黒服サングラスの男に声を掛けられた。


「そこで何をしている」

「ひぃっ……ごめんなさいごめんなさい!」

「あ、いや、怖がらせるつもりは無かった。何か困り事でもあるのかと聞きたかっただけなんだ」


 黒服の男性は驚きのあまり尻もちを着いてしまった秋葉を立ち上がらせると、サングラスをとって申し訳なさそうな顔を見せる。

 格好が格好なせいでびっくりはしたけれど、きっと二人が思い浮かべていたような悪い人では無いのだろう。


「それで、荒木あらき家に何か用が?」

「良かった、荒木さんの家で合ってたんですね」

「荒木さん? ああ、もしかして今日来られるというお嬢様のご友人か」

「そうですそうです。あまりに大きくて、もし違ってたらどうしようなんて……」

「その気持ちは理解出来る。俺も未だに少し緊張するくらいだからな」


 男性は「お嬢様に報告して来るから待っていてくれ」と告げると、走って御屋敷の中へと向かってくれた。

 どうやら荒木家には良い執事さん……いや、それともボディガードか何かなのだろうか。

 とにかくいい人を雇っていることは確かだ。怖がる必要なんて無かった。

 そんなことを秋葉と話していると、チラリと視界の隅に写ったスカートが少し汚れていることに気が付く。

 おそらく先程転んだ時に付いたのだろう。すぐに払ってあげようと手を伸ばすと、彼女は一瞬体をビクッとさせてからじっとその手を見つめた。

 何故だか分からないが、ものすごく期待を感じる。そんなにも誰かに汚れを落としてもらいたかったのだろうか。


「め、捲るの?」

「……は?」

「その手は完全にスカートを触りに来てるじゃない。ようやく自分からやる気になったのね」

「汚れてるから払ってあげようとしただけ」

「……お尻を触ろうとしたってこと? この変態」

「感性歪んでない?」


 スカートめくりはOKで、ボディタッチはアウト。それならいっそ両方ダメにして欲しい。

 そんな願いが届くはずもなく、依然として期待の眼差しを向けてくる彼女に、慧斗が選んだ選択肢は『汚れを払うのをやめる』だった。


「どうしてやめちゃうのよ」

「だって、変態扱いされたくないもん」

「変態は変態でしょ、つい最近まで毎日スカートめくりして来てたんだから」

「あれは別に意図があったわけじゃ……」

「理由もなく私の下着の色を毎日みんなにバラしたって言うの?」

「いや、それは……」


 秋葉の怒り顔がどんどんと迫って来て、また言う通りにしないと許して貰えないのかと諦めかけたその時。


「あの、お取り込み中ですか?」


 いつの間にかすぐ傍に来ていた乃愛のあがそう聞いてくる。

 慧斗はチャンスだとばかりに「いやいや、何でもないよ」とそちら側に着くと、さすがの秋葉も諦めてくれたのか素直に「そうね」と普段の様子に戻ってくれた。


「それでは、我が家へご案内しますね。私の後ろを着いてきて下さい」


 彼女が歩き出すと、どこからかカメラで見ているのだろう。門が自動で開き、三人が通り終えると閉まった。


「ほんと、ため息が出るくらいすごい家ね」

「そんなことありませんよ。少し庶民の方のお家よりサイズが大きいだけですから」

「……いちいち鼻に付くわね」

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