第5話 不法侵入は犯罪ですが、幼馴染なら免罪です
久しぶりに会話と呼べる会話をしたことで、何とか無視し続けていたスカートめくりされたい欲が溢れ出てしまったのである。
明日は休日だから夜更かししても問題は無い。気を紛らわせるために何か別のことをしよう。
そう思って勉強を始めても、気が付いたら毛糸と書くところを慧斗と書いてしまっていたり。
ゲームなら大丈夫だと懐かしの作品をプレイしても、昔は慧斗と一緒にやっていたななんて物思いに耽ってしまったり。
とにかく、何をやっても慧斗がチラつく。こんなにも人のことを考える時間は今までになかった。
「ああ、もう……どうしたらいいのよ……」
考えれば考えるほど、自分が今覚えているこの感情が自分のものでは無いように思えてくる。
頭がふわふわとして、顔が熱くなって、どうしようもないくらい慧斗と話したい。
けれど、こんな真夜中に打てる手段なんてない。諦めて布団を被ろうとした時、すぐ近くの台に置いていたものに当たってしまったのだろう。
何かが床に落ちる音を聞いて秋葉はベッドから身を乗り出すようにして確認した。
「……鍵」
おばさんから預かった慧斗の家の鍵。最近は使う回数も減っていたけれど、そう言えば自分はこれを持っていてもおかしくない存在だ。
それはつまり、いつ
……秋葉の頭の中に悪い考えが浮かんでくる。
「少しだけよ、少しだけ」
時刻はもう十二時を過ぎている。ちらりとカーテンの隙間から様子を伺った向かいの窓からは光が漏れる様子は無い。
電気を消しているということ、それ即ち眠っているということ。そう判断した彼女は突き動かされるようにスカートに履き替えてから部屋を出た。
「さすがに寒いわね……」
夜の道は春中頃でもひんやりとする。けれど、焦って鍵を開けてはダメ。
僅かに残った理性が秋葉を忍び足にさせ、最小限のガチャリという音ともに素早く侵入する。
それから壁伝いに階段を見つけると、慎重に登ってすぐ近くのドアノブを握った。そして。
(よし、行くわよ……)
少し開いた隙間から覗き、ベッドに横になっているらしい気配を確認したら中へ入ってそっと締める。
そこから再び忍び足で近くまで寄り、目が暗さに慣れるのを待ってから数回の深呼吸をした。
(やるわよやるわよ……)
鼓動が先程までより少し落ち着いたタイミング。ここしかないとばかりに、彼女は思い切ってスカートをたくし上げる。
幼馴染の前でこんな破廉恥なことをしていることはすごく恥ずかしいし、変態な自分に嫌気が差す。けれど、胸の内の何かがスッキリするのも事実だ。
(さすがにこれ以上は……でも、あと少しだけなら)
何度心の中で同じことを繰り返したか分からない。ようやく気持ちも収まりかけ、今度こそ帰ろうと思った矢先のこと。
慧斗の耳に着いていた何かがポロリと取れ、ベッドから転げ落ちて秋葉の足に触れた瞬間、彼女は驚きのあまり「ひゃっ?!」と声を出してしまった。
それを聞いた慧斗はまるで寝ていなかったかのように勢いよく体を起こすと、目の前でスカートをたくし上げている幼馴染を見て絶叫した。
下手なホラーよりも恐ろしい光景だったから。
「いやぁぁぁぁ……って、秋葉……?」
「チ、チガイマス」
「カタコトになっても秋葉なのは変わらないよ。こんなところで何やってるのって、聞いてもいいのか分からないことしてるのは明らかだけど」
「ううううるさい! 偶然通り掛かっただけよ!」
「いつもベランダから帰宅してるの?」
「そ、そうよ!」
さすがに自分でも苦しい言い訳だと分かっていた。だから、すぐに飛びついたのだと思う。
先程転がってきたイヤホンから微かに聞こえてくる音の正体。それがなんなのかを確認するために枕元のスマホを奪うという逃げ道に。
けれど、それがまさか反撃の材料になるだなんて思ってもみなかった。
「……幼馴染に耳フーされる音声……?」
「あ、いや、それは……」
「慧斗、あなたまさか寝てたんじゃなくてこれを聞いてたの? 幼馴染に耳フーされる音声を?」
「何度も言わなくていいって。別に僕が何を見てようと勝手でしょ」
「そうね。だったら、幼馴染がいるのに幼馴染に変なことされる音声を聞くような変態だって、誰かさんに告げ口するのも私の勝手よね?」
「なっ?!」
脅しは明らかに効果的。ここまで来たら、後は取引を提示するだけの簡単な作業だ。
「……嫌なら、私の言うことを聞きなさい」
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