第3話 習慣って恐ろしい
教室に戻ってくるなりすぐに友達宣言をした
彼女を一目見たとき下から、慧斗がずっとデレデレしているからだ。あんな顔、自分にも向けたことがないというのに……。
(……って、何を考えてるのよ。慧斗はただの幼馴染、他の女の子にデレデレするなんて普通よ)
心の中で言い聞かせるようにそう呟いても、喉の奥に引っかかるようなモヤモヤは治まらない。
こんな感覚、今まで覚えたことはなかったというのにどうしてこのタイミングで……?
人間というのは不可解なことに答えを求める生き物だが、納得するためならそれが正解でも不正解でも構わない。
故に目に見えないお化けや魔法、超能力を信じる者もいる。しかし、秋葉がこの時導き出した答えはそんなものでは無かった。
彼女は慧斗に普段されていることをしていないことに気が付いたのである。そう、スカートめくりを今日は一度もされていないということに。
「ちょっと、慧斗」
そうとなればやることは一つ。スカートめくりをさせて、このモヤモヤを解消するしかない。
そうでなければ、今日一日ずっと慧斗のことを考えて過ごすことになってしまう。そんなのは勉強に集中出来ないから御免だ。
ただ、自分からスカートめくりをして欲しいなんて頼むわけにはいかない。
そこで好都合なのが、慧斗はいつも自分が近くに行く度にスカートめくりをしようとしてくること。
長年の習慣になっているからなのか、ノールックでめくる時だってあるほどに手馴れた動きで。
「どうしたの、秋葉」
「戻ってきたらどうだったのか報告しなさいよ。あなたの内申点が下がったら、私がおばさんに謝らないといけないんだから」
「別に大丈夫だったよ、先生も分かってくれたし」
「それならいいけど……」
チラッと視線を合わせてみるが、彼はそれに対してなにか反応を示す訳でもない。
試しにスカートをパンパンと叩いて見せるが、彼はあろうことか「用がないなら話は終わりでいい?」と言って乃愛との会話に戻ってしまった。
(こんなのおかしい……絶対におかしい……)
何が一番おかしいのかと言うと、スカートめくりされなかったことを悲しいと感じている自分に気が付いたことだ。
昨日まで毎日毎日しつこいくらいにめくられていたスカートに、視線すら向けない彼のあっさりとした対応に胸がギュッと締め付けられた。
慧斗が自分に興味を失ったのか、そもそも興味なんてなかった? そんな考えが頭の中を駆け巡り、出処の分からない悔しさで頭がクラクラとする。
「――――葉。秋葉、聞こえてる?」
「え? あ、いえ、ボーッとしてたわ」
彼の声で現実世界へ引き戻され、クラスのみんなが心配そうな目で自分を見ていることに気が付いた。
こんな感覚になるなんて、きっと当たり前になっていたから感性がおかしくなっているだけ。
昔はスカートめくりを嫌がっていたじゃない。いつもいつも、お気に入りの下着を見られるのが恥ずかしくて――――――――――。
(……あれ、本当に嫌だったのかしら)
嫌ならみんなと同じようにスカートの中に体操ズボンを履けばよかったはず。わざわざ慧斗の近くに行く必要なんてなかったはず。
そもそもの話、自分が下着を選ぶ時に何を考えていたかを思い出せば、その答えは明白だった。
秋葉はいつも、慧斗に見られることを意識して下着を選んでいるのだ。学校でも休みの日でも、彼に会う時は意識してお気に入りを履くほどに。
「秋葉、大丈夫? 顔が赤いけど」
「大丈夫……じゃないかも」
「保健室着いて行こうか?」
「いえ、一人で行けるわ」
フラフラとした足取りで教室から出た彼女は、たった今閉じたドアの横に座り込んで頭を抱えた。
たった今、当たり前や日常の中に溶け込ませて目を背け、気付きたくないと思っていたことに気付いてしまったから。
「わ、私って変態なんだ……」
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