(24)結果報告

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「――ふむ。大体話は分かったが、そなたは何かしら騒動を起こさないと生きていけないのか?」

 遠征から戻ったルーカスがすぐに一連の流れをリチャード国王へ報告をすると返ってきた答えがこれだった。


「それは勘弁してほしいのですが……というよりも、そこまで何度も騒ぎを起こしているつもりは……ない、わけでもないでしょうか」

「フハハ。まあそれは冗談として、確かにそなたが言う通りとてもではないが表ざたには出来ぬな」

「はい。遺失島が見つかったことは既に知られているので隠すつもりはありません。ですが、過去に見つかったものと同じ扱いでいいかと思います」

「そうであるな。余は実物は見ておらんが、話を聞いただけでもとても管理ができるとは思えん」

「それは私も同じですよ。なので制御不能で既に失われる寸前だったということにします」


 ルーカスがヘルミナから託されたものは、あの王種だけではなく島自体も含まれていた。

 さすがにあれほどの大きさの島は管理できないと一度は辞退しようとしたのだが、そうすると早くて数年、長くても十年ほどで『下』に落ちていくと言われると断れなかった。

 あの島にある浮遊球で管理されている情報は、簡単に失われていいものではないとルーカスは考えている。

 完全な形で情報を残しておきたいのであれば島の形を維持したままで残した方がいいと言われれば、受け取るしかないという結論しかなかった。

 

 ちなみにだが、表向きにはあの島はルーカスに王種を託したあとにそのまま沈んだことになっている。

 ルーカスが王種に導かれた結果島に入れただけで、それ以外のこともろくに調べることが出来なかったということも合わせて伝えてある。

 完全な嘘というわけでもないので、ある程度はそれで誤魔化すことは出来るはずだ。

 問題があるとすれば船員たちから島の情報が漏れる可能性があることだが、そもそも不可視の結果の結界に守られて上陸することが出来なかったのは事実なので、多少なりとも真実味を持たせることが出来るはずだ。

 

「話に聞く限りどの国でも引き受けるのは厄介そうだな。そもそもそれだけの大きさの島は維持できないであろう? 未だ魔族との繋がりがあるライフバートは別にして」

「そうですね。藤花の話だと、ライフバートの浮遊球でも太刀打ちができるような相手ではないそうです」

「それだけ聞ければ問題ない。まあ、浮遊球の制御が出来たとしてもそれほどの大きさの島を手に入れても、誰を住まわせるのかという問題が出て来るであろう」

「確かに。周辺国家からまんべんなく人を入れたとしても、大小合わせて後々問題が発生する未来しか見えません」


 中継島のような小さな島でさえ、敢えて移民を引き受ける国を限定しているのは政治的な問題が大きい。

 各地から適当に人材を引っ張ってきたとしても問題が出るからこそルーカスは中継島への移民の受け入れを限定しているのだから。

 それに加えて、ルーカスがあの遺失島を他に開放しないと決めた理由はまだ他にある。

 むしろそちらの方が、理由としては大きいかも知れないほどだ。

 

「――それにあの島の浮遊球に接触できる者がいるとは思いませんが、誤った情報を元にして混乱が広がる可能性があります。とてもではないですが、そんな暴発を起こす気にはなれません」

「……それほどか? 何を聞いたのか気になるところだが、聞かない方がよさそうであるな」

「どうでしょうか。この国だと神官たちの語る神話に抵触する可能性がある言えば伝わりますか」

「うむ。聞かないでおこう」


 ルーカスの言葉を聞いたリチャード国王は、速攻でそう決断した。

 ヘルミナから聞いた十二の島に関する話は、この国に存在している神殿で受け継がれている神話では全く触れられていない。

 もしかすると高い地位にいる神官なら知っている話なのかもしれないが、それはそれで敢えて隠しているということになるので猶更厄介になることが想像できる。

 信仰心というものが絡むと人が厄介になるのはどの世界でも同じで、だからこそリチャード国王もまた知らないままがいいと判断していた。

 

「それならば話しませんが……代々の王には伝わっていてもおかしくはないと考えていたのですが、伝わっていないようですね」

「どこかで断絶している可能性はあるが、少なくとも余は知らぬな。ひょっとしたらライフバートの王辺りなら知っている可能性はあるんじゃないか?」

「あそこの魔族なら確かに知っていてもおかしくはないですか。ただほぼ同時期に生まれた王国なので知らない可能性もありますか」

「そうだな。あちらに伝わっている神話もこちらと大筋は変わらないはずだ。宗派による解釈の違いはあるはずだがな。あちらの魔族については、むしろルーカスの方が詳しいのではないか?」

「そうかも知れませんが、そこまで多くの話をしたというわけでもありませんよ。というよりも、知っていたなら話してくれていたような気もしますね」

「確かにそれはありそうだな。――とにかく、遺失島のことも含めて公にはしないということは了承した。いずれは知られそうな気もするがな」

「その時はその時ですね。どちらにしても外から島に無理矢理入ることは不可能ですので、問題ないでしょう」

 

 多少楽観的なルーカスの言葉だったが、リチャード国王は「そうか」とだけ言って頷いた。

 そもそもルーカスは浮遊球のマスターという立場が無かったとしても、一流と言ってもいいほどの魔法の知識と実力がある。

 宮廷魔術師に認められているルーカスが、軽く「侵入できない」というのであれば本当にそうなのだとリチャード国王も理解していた。

 

 ルーカスがあの島を得てから戻って来るまでさほどの時間は経っていないが、それでも数日の時間がかかっている。

 その間に島のことは浮遊球を通じて学んでいるので、今のルーカスはある程度の情報は得ている。

 もっとも遺失島の浮遊球に蓄えられている知識はもともと持っていた浮遊球とは比べ物にならないくらいに多いので、全てを確認することがことが出来たというわけではない。

 むしろ表面的なことだけしか知る事しか出来ていないともいえるので、これから何日もかけて知っていくしかない。

 

「――そういえば、船団への報酬はどうなっているのだ? 表向き島自体を失ったことにするならば、ギルドからは出ないであろう。国も勿論だが」

「それならば島にある資源をわずかばかり譲っていますよ。もっとも僅かといっても島の大きさからすればという意味で、船団から見れば大儲けもいいところですが」

「なるほど。話に聞いた大きさの島ならそれでいいのか。となると我が国もそれなりに潤うことが出来るということであるな」

「三隻の船で持ち帰ることが出来る資源ものとしては最高といえるものを用意しましたから。期待してもらっても良いと思いますよ」

「ほう。それは楽しみだ。沈みゆく遺失島から出来得る限りのものを持ち帰った――それで決着がつくなら構わないであろう」


 船に積んできた資源については、遺失島があったという証拠にもなるので噂を裏付けることが出来るはずだ。

 遺失島は船乗りたちがいる目の前で島全体を魔法で覆い隠してしまうということをやったので、今はもう姿が見えないという話も同時に広めてくれるはずだ。

 あとは船乗りたちからその話を聞いて同じ場所に向かう船が出る可能性があるが、それは自己責任でしかない。

 探索者界隈は遺失島に関する話で盛り上がることになるはずだが、それも時間と共に収まってくだろうというのがルーカスの考えだった。




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