(20)制限

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 ルーカスたちが上陸の準備を進めている間に、他に上陸する予定になっている船乗りたちが旗艦に集まっていた。

 探索の第一陣となる今回は、各船から四名ずつが集まって計十二名で探索をすることになっている。

 別に旗艦に集まる必要はないのだが、そこは形式というか探索チームの士気を高めるための儀式のようなものとなっている。

 全員が集まってから全体の指揮を執っているエルモが一声かければ、あとは順番に船から降りて先に進むことになる。

 ルーカスたちは、彼らが降りるのを待ってから港に上がることになっている。

 個々の戦闘能力でいえばルーカスやアルフの方が強いのだが、集団で行動できる分探索チームの方が総合能力は上なのだから当然だろう。

 当然ながらルーカスもそれに異論はなく、他の面々は自分たちはあくまでもおまけのようなものだと理解しているのでルーカスの言うとおりにしている。

 上陸の先陣を切ったところで、目の前にある島が自分のものになるわけではないと分かっているからということもあるのだが。

 

 探索チームが島にある桟橋に渡って行き、ルーカスたちが最後に船を降りた。

 その頃には、最初に降りた数名が桟橋を進んで島の大地に上陸しようとしていた。

 最後に船を降りたルーカスたちは、彼らに続いて彼らがいるところに向かおうとしたところで異変に気が付いた。

 普通ならさっさと陸地に上がって探索を開始するはずなのだが、何故か全員が桟橋への出入り口付近で立ち止まっていたのである。

 

「――なんだ? 何かあったのか?」

「ボン。どうやら俺たちは招かれざる客のようだぜ」


 探索チームのリーダーが言った答えを聞いて、ルーカスは首を傾げたがすぐにその意味を理解した。

 宙に浮く船を繋ぐ桟橋は当然のように中空に浮いているが、出入り口付近は陸地と繋がっている。

 その陸地と繋がっている部分から先は、見えない壁あって先に進むことが出来ないようになっていたのだ。

 先ほどから探索チームのメンバーが入れ代わり立ち代わりその壁を超えようとしていたが、誰一人として越えることは出来ていない。

 その見えない壁が何らかの魔法的な処理がされていることは推測が出来るが、そんな大掛かりな仕掛けを解けるような魔法使いはこの場にはいなかった。

 恐らく浮遊球の仕掛けでそうなっていると推測したルーカスも、早々にその魔法を解除することは諦めている。

 

 目の前に島への入口があるのに入れないという事実に探索チームが頭を抱える中で、数名のメンバーは既に船に戻ってエルモに報告に走っている。

 さすがに力づくで通り抜けようとする者はいないが、それでも隙間らしきものや何かしらの仕掛けがないかと探り始めている。

 ルーカスたちも何かヒントになりそうなものはないかと顔を見合わせていたが、ふとルーカスの視線が島の陸地があるところへと向いた。

 

「あ」

 

 文字通りたった一言だけの言葉だったが、それに気が付いた面々がルーカスの視線の先を見て同じような反応をした。

 探索チームが皆が入れないと確認した透明の壁の先、そこに『どうしたの?』と言わんばかりの様子でツクヨミがフヨフヨと浮いていた。

 誰もが越えられなかった壁を越えたところにツクヨミがいるという事実に、皆がポカンと口を開けてみる羽目になった。

 

「あ~、うん。なんだ、とりかえずちょっと試してみてもいいか?」

「ボン、俺もそうすべきだと思うが、大丈夫なのか?」

「少なくとも壁に触れたくらいでは何も起きないと、皆のお陰で分かっているからな。俺も試してみるべきだろう」


 探索チームの全員が駄目だったので自分も駄目だろうと思い込んで試していなかったが、まさが自分だけは通ることが出来る可能性がある。

 ツクヨミを見てそのことに気付いたルーカスは、一応探索チームのリーダーに確認を取ってから透明な壁があるはずのところへと手を伸ばした。

 そして透明な壁があるはずのその場所で、ルーカスの右手は何もなかったかのように通り抜けることが出来た。

 その勢いのまま歩を進めてみたが、やはり何かがあるように感じることなくあっさり陸地に上陸することが出来た。

 

「ツクヨミを……王種を得た人だけが通れるようになっているのか」

「恐らくそうなんだろうさ。随分と手の込んだ仕掛けだが、侵入者を限定する魔法というのもあるらしいからな。それの強化版だろうな」

「お二方とも少々お待ちください」

 

 ルーカスとリーダーの会話を遮るように、黙ったまま様子を見ていた藤花がそう声をかけて歩き始める。

 するとルーカスと同じように、藤花も他の面々が通れなかったその場所をすんなり通ることが出来た。

 

「――どうやら私たちと島の管理者だけが通れるように設定されているようですね」

「藤花、何か思い当りがあるのか?」

「あるにはありますが、それをここで口にしていいのかは判断できかねます」

「オーケー、わかった。俺たちは知らない方がいい話ってことだな。だったら後は団長が来るまで待つか。――ところで、こっちに戻って来ることはできるのか?」

 

 リーダーの問いに、そう言えば試していなかったとルーカスが桟橋側に向かって歩いたが、特に問題なく戻ることが出来た。

 どうやら不可視の壁は、浮遊球の管理者である魔族とマスターとなっている者だけが通れるようになっているらしい。

 藤花に言われてそのことに気付いたルーカスは、リーダーの進言通り今回の船団の団長であるエルモも判断を待つことにした。

 

 そのエルモが来たのは、探索チームのメンバーが呼びに行ってからすぐのことだった。

 状況を考えれば呼ばれてすぐに来たということは分かった。

 それにエルモを待つ間に幾つか分かったこともあるので、それも付け加えて報告をした。

 

「――つまりだ。島に入れるのはルーカスとツクヨミ、それと藤花だけということなんだな?」

「そうなるな。特に出たり入ったりは問題なくできるからいいけれどな。どうする? 俺たちだけで探索を続けるのか?」

「どちらかといえばそれを判断するのはお前になるだろう、ルーカス。どう考えてもこっちで決めることじゃないな。王国に連絡を入れるにしても、多少なりとも調べていたほうがいいとは思うがな」

「やっぱそうなるか。今のこの状況を考えると騒ぎにしかならないと思うが……見つけてしまった以上は逃げても仕方ないか。――とりあえず二、三時間くらいで戻って来る目安で調べてくるか」

「ああ。あまり深入りはするなよ。中で何かあってもこの状況だとこっちはどうすることも出来ないからな」


 親として心配するような顔になるエルモに対して、ルーカスは「分かっている」と素直に頷いていた。

 島の中がどういう状況になっているのか分からない以上、心配しすぎて無駄になることはない。

 人の出入りの制限がされている以上、何かしらの機器が生きていることは確実で、それを維持するために何かしらがあることは間違いない。

 その『何かしら』が人であるのか、あるいは機械的な何かまでは分からないところもまた怖いところだろう。

 

 とはいえここで待つだけというのもつまらない。

 ルーカスは無茶をするつもりはないが、ある意味では最高の『冒険』が出来る状況にワクワクもしていた。

 エルモもそれに気づいてはいたが、探索者を続けている時点で似たような気質を持っているのでその気持ちも理解できていた。

 結局ルーカスたちだけで探索することが決まり、他の面々は他に出来ることがないかを探すことになった。




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m(__)m

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