(19)上陸前

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 探索が必要になるほどの大きな島を見つけた場合、最初に問題になるのは『どこから上陸するのか』ということになる。

 全体を把握するためにも、船で島の周りを観察するだけでなく上陸するために最適な場所を探すのも第一の目的となる。

 大きな島を見つけた時に問題になるのは、島の周りを移動しているだけで時間がかかってしまってろくに調査する時間が取れなくなってしまうことだ。

 本当から離れて数日程度で島を発見できたならいいのだが、ギリギリまで探していた場合には食料などの消耗品が足りなくなる問題が出てしまう。

 ある程度の大きさの島なら現地調達するという手も取れなくはないが、確実ではないのでできる限り手早く終わらせたいと考えるのは当然だろう。

 

 今回見つけた島は大きさがあり過ぎて周回するだけでも時間が取られてしまう。

 そのため上陸のために適切な場所を見つけたら即上陸を開始して、陸地の探索中に島の周辺探索を進めることになった。

 この選択が出来たのは今回船団を組んで動いていたからであり、複数に分けて行動することが出来る状態だったからだ。

 陸地探索を進めているチームがいつでも帰って来れる場所を確保しておくということは、それほどまでに重要なことだ。

 

「――そのつもりだったんだが、こういうことになるわけか」

 島まで十分な距離に近づいて、探索チームが上陸をするための場所を探し始めてから一時間が経つか経たないかの頃になって指揮を取っていたエルモがそう言葉をもらした。

「良かったではありませんか。これで遺失島であることが確実になったわけだから、余計な探索をする手間が省けた」

「そうは言うがな、爺。ここまでうまく行きすぎると、逆に何かが関与していると思わざるを得なくなるぞ」


 そんな会話をしているエルモとベテラン船乗りの視線の先には、どう見ても『港』に見える施設が映っていた。

 これでこの島が遺失島であることは確実となったわけだが、おあつらえ向きに港が用意されていることに作為を感じてしまうのは無理もない。

 

「遠目で見てもあの港はと分かるのがあからさまだよなあ。そうなって来ると逆に何故ここまで近づいても反応が無いのかが気になるところだ」

「ルーカスもそう思うか。俺たち、というか訪問者をわざと迎え入れるためにわざと用意しているようにしか見えん」

「団長もボンも罠だと見ているわけですかい。でしたら別の上陸場所を探しますか?」

「いや。あの港が罠だったとしても避ける意味はないな。どうせこちらの動きは見られているだろう」

 

 ベテラン船乗りがそう問いかけると、エルモとルーカスは同時に首を振っていた。

 その理由を語るエルモに、周囲で話を聞いていた他の者たちもそうだろうなと頷いていた。

 

「招かれているのか、それとも引き込まれているのか。それを今の段階で議論しても意味はないな。上陸すると決めた以上は」

「ルーカスの言うとおりだな。反撃を恐れるなら最初から軍に任せてしまえばいい」

「団長とボンの言う通りでしょうな。ですが、どの程度の規模で上陸するかは決めないといけませんぞ」

「分かっているさ。それは俺の仕事だ」

 

 船団を組んで探索をしている以上は、その船からどの程度の人員を集めて上陸するのかを決めるのは団長であるエルモが決めることになる。

 前もってある程度は決めているとはいえ、見つけた島に近づけば分かることもあるので事前に決めていたこととは変わって来ることもある。

 港の発見はまさにその変更点に関わることなので、あとはエルモがどういう決断を下すのかと周りの船乗りたちも待っていた。

 

 遺失島というイレギュラーな状況であるとはいえ、発見した島への上陸はエルモも何度もしてきた決断なのでさほど時間を掛けずに決まった。

 その命令がそれぞれの船に伝わり、必要な人員が旗艦に集まっていざ上陸となる。

 その人員の中には当然のようにルーカスがいて、アルフやエルッキも加わっていた。

 ルーカスを選んだのはエルモだが、アルフやエルッキはルーカスが必要だと主張して選ばれている。

 

「――先輩たちを押しのけてワイたちが選ばれたのは多少引けるんだが?」

「ああ、やっぱり勘違いしていたか。アルフやエルッキはあくまでも俺の補佐であって、本隊とは別扱いだからな」

 

 少しばかり戸惑うような顔をしているエルッキに、ルーカスがそう説明をした。

 ルーカスとしては、アルフやエルッキに発見した島への初上陸を経験してもらいたいという思惑も勿論ある。

 だがそれ以上に、自分の指示を聞いて動いてくれる人が必要になることも考慮に入れて選んでいた。

 さらにいうと、エルッキの『立場』が必要になる可能性もあると考えている。

 

「そう言われると少しは気が楽になるな」

「今のところあれこれと指示するつもりはないから、とりあえずは本隊の邪魔をしない程度に見学するつもりでいるといい」

「そうは言うがな。そこまでのんびりできるのか?」

「さすがエルッキだな。きちんと気がついていたか」


 遺失島という普通ではありえない発見からして普通ではない状況である意味は、アルフとエルッキも気が付いている。

 その時にこそ、船乗りだけではないルーカスたちがいる意味が活きて来るはずだと。

 当然のように藤花も側について来るので、何もアルフとエルッキだけが特別扱いというわけではない。

 どちらかといえば、藤花の方が特別扱いと見ている船乗りの方が多いだろう。

 もっとも旗艦にいる船乗りたちはルーカスの現状を把握できているので、文句を言う者はいないのだが。

 

「あれだけあからさまだとなあ。無人だと考えるほうがおかしくないか?」

「確かにそうなんだが、本島の外のことなんて考えたことがない平民なんて山ほどいるからな。それを考えれば貴族教育ってやつのお陰か」

「……そう言われてみれば、貴族の中でも思いつかなさそうな奴らはいそうだな」


 自分たちは領土や権利を守るのが仕事でそれ以外のことは知らない――そんなことを考えている貴族は王国であっても一定数は存在している。

 そうした者たちだけではなく、船や港のことなど全く知らないという貴族はそれなりの数いるだろう。

 貴族であろうとなかろうと、自分自身が関わることのない分野のことは全く知らないということは珍しいことでも何でもない。

 この世界では浮遊している資源を得ることが重要なので船関連のことはある程度知っているという者が多いが、それでもそれらに関わることなく一生を過ごす人生も普通にあり得る。

 

「……反省だな。確かに知らない人は知らないか。自分が知っていることを当たり前と思ったら足元をすくわれそうだ」

「そこまでのことを言ったつもりはないんだが。エルッキがそう思うんだったら、まあいいか。アルフはさっきから静かだが、大丈夫か?」

「俺か? 俺なら大丈夫だ。ただ浮遊している島に上陸するなんて初めてのことだからな。何か目新しい物が見れるかもしれないとワクワクしているかな」

「その辺りは、さすが普通じゃない行商をしていただからこその感覚か」


 普通の行商であれば人が通る街道を使ってなるべく安全な道を行くものだが、アルフの行商は違っていて敢えて珍しい場所へ行くこともあった。

 その時は当然のように護衛を用意していったりしていたらしいが、アルフの実家ではできる限り珍しい物をそのままの形で見せるという教育方針があったからこその経験だろう。

 ルーカスがその話を聞いた時には、それは行商ではなく冒険ではと思ったりもした。

 とにかくそんな経験を積んだアルフなら島の探索も大丈夫だろうと安心するルーカスであった。




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m(__)m

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