(18)大発見

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 ルーカスとエルモが進路変更を決定してから数時間後には、マストの物見台にいる見張りから島発見の報告が来た。

 ただ見えている位置関係から考えると、これまでエルモの船が発見したことのないような大きさの島だと分かり乗組員全員が騒がしく動き回る結果となっている。

 見つけた島が大きすぎると三隻の船で曳航することすら不可能になるので、王都への連絡が必要になる。

 とはいえどんな島かの調査すらしてない段階で報告することは出来ないので、この時点で王国に連絡を入れた内容は『大きな島発見』という簡単なものだけだった。

 そもそも事前に連絡する必要があるのかという疑問も新人たちから湧いていたりもするのだが、それは横やりが入る可能性を考えて見つけた時点で連絡を入れるのが常識だと諭されていた。

 

 そして見つけた島に近づけば近づくほど、これまでに前例のない発見だということが分かってきた。

 そもそも島の大きさ自体が、この世界では島と呼んでいいのかと思われるくらいの大きさだったのだ。

 下手をすれば、ガルドボーデン王国の島と比べて十分の一程度の大きさがあるのではないかという目算すらされている。

 これほどの大きさの島が浮遊していることなどこの世界の常識ではありえず、どこかの国として存在している島ではないかと思われるほどだった。

 ただし国を名乗っているのだとすれば、これほどの近さまで近づいている時点で何らかのアクションがあるはずで、それがない時点で恐らく無人の島だろうという結論になっている。

 

「――大きいな。俺の代どころか、爺様の代までさかのぼってもこれほどの大きさの島は見つけていないんじゃないか?」

「さて。先代にも仕えていた儂も話に聞いたことすらないが、どうですかな」

 

 迫りつつある島を見て呟くエルモに対して、その隣に立って答えたのは既に老人と呼んでもいいベテラン船乗りだった。

 既に引退していてもおかしくはない彼は、普段は船に乗ることなく船団の管理を陸で行っている。

 今回は新人を乗せての船団での行動になるということで、船団の指揮を執るエルモの代わりに今乗っている船の船長となる人員として連れてきていた。

 

「ルーカスにも困ったもんだ。確かに問題が起こるとは言っていたが、これほどの爆弾だとは思わなかったぞ」

「ホホホ。さすがはボンですな。島を見つけるだけじゃなく、そこまで読んでおりましたか」

「いや、さすがにここまでとは俺も思ってなかったよ。それに俺とツクヨミが感じていたのは、島の大きさとは別の問題だ」

「怖いことを言うな。これ以上、何があるっていうんだ?」


 特大級の島を見つけただけではなくそれ以外にも何かあると示唆するルーカスに、エルモは呆れたような顔になった。

 この世界では島が大きくなればなるほど、『下』に沈んでいくのも早いと言われている。

 だからこそ探索者が見つけられる資源はさほど大きなものではない、とされている。

 その常識から考えると、今目の前に見えている大きさの島が普通に同じ高度を維持できているだけであり得ないということになる。

 

「――だからさ。もしあの大きさを維持するための何かがあるとすれば?」

「有人島である可能性はないだろう? もし誰かがいるとすれば既に警告や攻撃を受けていてもおかしくはない」

「今も人がいるとは限らないさ。ただ『今』はいないだけで、昔はいた可能性はあってもおかしくはないんじゃないか?」

「……遺失島ロストアイランドってことか。だとすると大きさ以上の騒ぎになるぞ」


 かつて人が住める環境で島を維持できていたが、何らかの理由で放棄された形跡がある島のことを遺失島と呼ばれている。

 ただ本来であれば人が住める状態を維持するための王族や王種がいなくなれば、島は『下』に沈んで行ってしまうので遺失島が発見される確率はかなり低い。

 ガルドボーデン王国の歴史を見ても、遺失島を見つけたという事実が確認されているのは片手で数えるほどだ。

 もしルーカスの言うとおりに目の前にある島が遺失島であるならば、大騒ぎになることは間違いないだろう。

 

 この世界では、王種が生み出す浮遊石がなければ人が住む島を維持することは出来ない。

 その王種は、王種に認められた誰かが管理しなければならないわけで、だからこそこの世界では王家が大きな権力を持つことに繋がっている。

 それは、ルーカスを含めたごく限られたものだけが存在を知っている浮遊島がなければ島の維持ができないと言い換えることもできる。

 その浮遊島には必ず管理者マスターか魔族がいるはずで、ただ黙って遺失島として発見されるはずがないのだ。

 

 そんな諸々の事情があって遺失島が発見される確率はほとんど無い……はずなのだが、ルーカス(とツクヨミ)は目の前に見えている島は遺失島だと既に確信していた。

 その確信を持てるだけの根拠もきちんとあるのだが、ルーカスはまだその理由を口にするつもりはなかった。

 実際に言葉にしたところで信じられないだろうし、何よりも島を見つけた以上は上陸して調査しないとう選択肢はないので、その時に話せばいいと考えているからだ。

 エルモもルーカスが何かを言わずにいるということに気付いていたが、これ以上の騒ぎにしたくはないとルーカスが考えていることは理解できているので下手に聞き出そうとはしていない。

 

「ですが、ボン。遺失島など儂でも噂話に聞くだけですぞ。その話に聞く限りでは来るものを拒む仕掛けがあるとか。調べられるとお思いですか?」

「それなあ。とりあえず実際に近づいてみないと分からないな。試しもせずに最初から遠巻きに見るだけなのは意味がない」

「そうだな。それもルーカスの意見に賛成が。入れなかったら入れなかったで、そのまま王国に引き渡せばいいだけだ。――ただ、俺は入れると思っているがな」


 そう言いながらもエルモの視線はルーカスの頭上に向いていた。

 そこではツクヨミが器用に寛いでいて、我関せずと言わんばかりに触手を使ってまるで猫の毛づくろいのように自身の身体をしきりに撫でまわしていた。

 王種であるツクヨミがいるからこそ、遺失島であっても入ることが出来るのではないかというのがエルモの意見だった。

 そもそも、目の前にある遺失島に噂にあるような侵入者を拒む仕掛けがあるのかどうかは分からない。

 それでもツクヨミが何かしらの鍵になっているのではないかと考えることは、さほど不思議なことではない。

 

「ボンの相棒ですかい。それなら確かにありそうではありますな。――で、実際はどうですかな?」

「さすがに今の段階では何も分からないさ。大丈夫だと言いたいところだが、外れたら格好悪すぎる」

「お前がそんなことを気にするとは思わなかったな。まあ、それはいいか。いずれにしても駄目だったら駄目だったで王国に任せるだけのことだから問題はない」

「ですな。見つけた時点で隊としても大勝利ですからな」


 遺失島と思われる島を見つけたということだけで、団に入って来る資金は莫大なものとなる。

 既に団としては大勝利の状態なわけで、あとは実際に自分たちの目で島がどういう状態なのかが確認できるかどうかだ。

 

 ――と、この時のルーカスたちはそんなことを考えていたのだが、そうそう上手くいかないのが世の中というものだったりする。

 ルーカスがそのことに気付くのは無事に島に上陸できてからのことで、今はまさに『捕らぬ狸の皮算用』という状態だった。

 そんなルーカスが頭を抱えることになるまで、あと数十分後のところまで迫っていた。




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