(15)雑談という名のお勉強

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 浮遊船による探索は、基本的には何か明確な目標へ向けて進むわけではない。

 道なき道を進んだ先に何かがあることを期待して進むように、明確な目印がない場所を『有用な資源を探す』という目標だけ持って進むことになる。

 そのため探索者のことをただのギャンブラーだと揶揄する言葉があることも事実。

 実際船を持った探索者が、大きな夢を抱いたまま失敗を繰り返して破滅するなんてことはよく聞く話になる。

 そんな中で潰れることなく長い間続くことが出来ている『疾風のごとく』は、ガルドボーデン王国で探索者を目指す者たちにとっては一種の憧れの存在といっても過言ではない。

 何しろ現在の団長であるエルモだけではなく、さらに二代までさかのぼって存在し続けることが出来ていたのだから。

 貴族や大商会などの後ろ盾も無しに長年存在し続けることが出来ている船団は、そこまで多くはない。

 少なくともガルドボーデン王国内では『疾風のごとく』だけといっても過言ではないので、多くの若者が憧れを抱くのは当然のことと言える。

 

 そんな『疾風のごとく』の旗艦であるエルモの船は、ルーカスが乗る以前から結果を出していた。

 これまでも何度も大掛かりな改修工事が行われて姿かたちを変えているが、それでも代々の団長が乗り続けている旗艦であことには違いない。

 だからこそこの船に乗ったという事実は、探索者たちの一種のステータスにもなっていたりする。

 ガルドボーデン王国における探索者にとって、『疾風のごとく』の旗艦に乗れたということはそれだけの腕があると認められたことになる。

 

 そんなエルモの船であったとしても、自在に浮遊している資源を見つけることは容易ではない。

 長期遠征に出たとしてもそれに見合う資源を見つけることが出来るのは、数度に一度、下手をすれば両手で数えても足りないくらいには空振りになることもある。

 逆にいえば小さな物であっても島を見つけることができれば、それだけ実入りがあるということの証明でもあるのだが。

 もっとも近年のエルモの船では、とある要因によって有用資源の発見は大幅に上がっている。

 

「――なにか技術的な発展があったとかでしょうか?」

 そう問いかけたのはアルフで、その隣にはエルッキも座っていた。

 問いかけた相手は新人組の指導役で、他には例の新人五人組も同じ部屋でその話を聞いていた。


「いや、そういうわけじゃねえな。そもそもそんな有用な道具が出来たのなら、他の船も同じように資源を見つけているはずだ。そうなっていないところがミソだな。というか、言い渋っていても意味がないから言ってしまうが、ボンのお陰だ」

「ルーカスのお陰……? 個人の力でどうこうなるようなものだとは思えないのですが?」

「だよなあ。俺も最初はそう思っていたさ。勿論、長い間船に乗っていれば、風の流れや天気なんかを先読みして資源の流れてくる方向を絞ることは出来る。だが、ボンのあれはそんなものはあっさりと超えていると俺は思うな」

「言っている意味がわからないんだが……? 経験やそれの基づいた勘なんかとは違った能力がルーカスにはあるってことか?」

「さてな。エルッキも言ったとおりだと分かりやすいんだが、実際のところは俺にも分からん。前にボンにも聞いたはあるが、本人もよくわかっていないようだったしな」

 

 ルーカスが誰よりも早く確実に島を見つけられるという特殊能力は、別に彼が転生者だからというわけではない。

 それはこの世界で生きている人で同じような能力を持っている者が、他にも現れていることからも分かる。

 ではどうやってその能力を身に付けられるのか、それはルーカス当人にもよくわかっていない。

 少なくともルーカスの場合は幼少のころから船に乗り続けて来た結果ではないかと予想しているが、それは正解かを証明する手段はないのが現状である。

 

「どうせ適当に言っているのがたまたま当たっただけじゃないのか?」

 新人の一人が少し呆れた様子でそう突っかかってきたが、指導役は冷静なまま首を左右に振っていた。

「一度や二度ならただのまぐれ当たりで済ませられるんだがな。それが何度も続くとなると違うと思いたくなるだろう? それにボンは、外すときは外すと言っているしな。その辺の占い師なんかが適当なことを言っているのとは違げえよ」

「なんだ。結局は当てずっぽうなんじゃねーか」

「お前なあ……。いやまあ、いいか。これ以上口で言っても納得しないだろうしな」


 ルーカスの探索能力(?)については、確実に当てるものではないだけにただの当てずっぽうだと思われても仕方のない面がある。

 ただし当てずっぽうだろうと何だろうと、船長エルモが信じて船を動かし、さらに結果を出しているのは紛れもない事実だ。

 その『結果を出す』ことがいかに難しいことなのかは、新人にとっては理解しがたいのだろう。

 何かの魔法を使って探知しているのではないかと言われる方が納得できるだけに、それ以外の特殊な能力だと言われても信じられないと反発するのはある意味で普通の感覚だったりもする。

 それは指導役の船乗りもかつてそう思い込んでいただけに、今この場で反論することは止めていた。

 

「――ボンのことはそれぞれで判断してもらうとして。アルフ、一般的な話として俺たち探索者が狙うべきお宝は、どうやって探しているかわかるか?」

「どう、と言われましても、ただ闇雲に探しているわけではないことくらいしかわかりません。先ほど話に出た風の吹く方向とかから予測しているのかでしょうか」

「風読みは確かにその通りなんだがな。他にもっと重要なことがある。――分かる奴はいるか?」

 

 指導役がそう問いかけるが、問われた生徒(仮)たちは首を振ったりお互いに顔を見合わせたりしていた。

 探索者のことを悪いイメージで山師だと表現する者がいるくらいなので、宝くじを買うようにただただ当てずっぽうに船を動かして資源を探していると考えている者がほとんどだったりする。

 だが実際にはそこまで適当に探し回っているわけではなく、ベテラン船乗りになるほど過去からの経験に基づいて探索を行うようになる。

 

「誰も分からんか。いや、責めているわけじゃないぜ? これから言うことなんて、俺も先輩から聞くまで知りもしなかったことだからな」

 指導役は、そう前置きをしてから探索者の探索事情を話し始めた。

 

「まず前提として、本島周辺で浮遊している物体を探そうとしてもそうそう簡単に見つかるわけじゃない。理由は分かるか?」

「国軍が大量にいるからとかか?」

「エルッキの言うとおりだ。国軍は海賊からの監視をしているのと同時に、浮遊資源の探索も行っている。どちらも軍にとっては重要な任務だな。この程度のことなら船乗りじゃなくても知っていることだろう」

 

 国軍が行っている周辺警護は、資源の採集目的ということもあるが島に浮遊物が隕石のように当たってこないように警戒しているという意味もある。

 船持ちの探索者は、その国軍が有用資源を見つける前に探し出さなければいけないわけだ。


「軍の本島警戒はマジで厳重でな。ほとんど見逃しは無いと思った方がいい。結果として俺たちみたいな探索者は、軍の警戒領域よりも先の場所を探索しなきゃいけないわけだ。その結果として長期遠征が必要になるんだよ」

 

 軍の警戒網をくぐり抜けて本国に近づくためには事前に警戒ルートを知っていなければ無理、と言われるくらいには軍の警備は厚いと言われている。

 だからこそ浮遊島をはじめとした有用資源を探し出す探索者は、その警戒網の先に進出して探索を行うのが日常となる。




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