(14)遠征前の仕事

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 長期遠征に行くとなると艦隊の準備も色々と大変になるので、アルフとエルッキは数日の間こき使われるように動き回っていた。

 その間ルーカスは暇をしていたというわけではなく、中継島関係の仕事をこなしていた。

 そして遠征出発前日にはライフバート王国の移民の受け入れ準備を開始するために、大使館を訪ねていた。

 

 大使館に入って最初に挨拶してきたのは、先日パーティであった大使だった。

「わざわざお越しくださりありがとうございます」

「いえいえ。学校の寮で話をするわけにはいきませんので、むしろ場を用意して下さりありがとうございました」

 そんな無難な挨拶から始まって、早速とばかりに本題に入った。

 

 今回の話はライフバート王国側の準備が整ったことを正式に受け取ることを建前にして、より具体的な話を開始する。

 詳細の話し合いについてはルーカスの部下に当たる魔族が対応することになるので、今回はあくまでも顔合わせと必要最低限の確認くらいで終わることになっている。

 もっとも移民の詳細については、ある程度バルド国王と話をしているので大きな変動があるわけではない。

 これから先話をしていく必要があるのは、より具体的にどういった日程で進めていくのかという話し合いが必要になる。

 

「――こちらが我が国で用意できた人員になります。増減はいつでも仰っていただければ対応可能ですが、出来るだけ早めにお知らせください」

「ありがとうございます。具体的にはしっかりと用意してくださった書面に目を通してから決めようと思います。少々お時間をください」

「勿論です。こちらとしても今回用意した人員を無理やり押し込めるつもりはありませんので、しっかり精査してください。お互いに不幸にならないためにも」

「ええ。分かっております。ただ、今ならどんな人材であっても助かるというのが本音ですけれど」


 幸いにも島での農作物生産は順調に行われているので、いきなり今の倍の人数になるとかにならなければ食糧事情が悪化することはない。

 島の広さも十分すぎるほどなので、予定している人数を受け入れたとしても問題は起こらないはずだ。

 というよりも、問題が起こらない人数を精査したうえで打診しているのでいきなり食糧不足で詰みなんてことにはならないようにしている。

 問題が起こるとすれば元からいる島民たちと軋轢のようなものが発生する可能性があることだが、こればかりは実際に受け入れてみないと分からないところではある。

 

「……ふむ。貴方の島であれば千人単位で受け入れても集まりそうですが、そう簡単にはいきませんか」

「そもそもそれだけの数の住人を治めることが出来る行政機関が育っていませんよ。私もどこかの国の傀儡になるつもりはありませんし、恐らく貴国もそれは望んでいないのではありませんか?」

「確かに。後々の火種になるようなことは、迂闊には出来ませんな」

「王種という存在がなければ、簡単に飲み込まれているのでしょうね」


 あっさりと中継島の立場は弱いと本音を漏らすルーカスに、対応している外交官は納得しつつも余計なことは言わないように言葉は選んでいる。

 ここで迂闊にも『中継島が手に入るかも』と色気を出そうものなら、祖国ライフバート王国にどんな影響を及ぼすか分からない。

 ガルドボーデン王国が宗主国的な立場でいられるのは、リチャード国王が早くからルーカスとの関係構築に努めて来た結果だ。

 それにはっきりとした主従関係にあるわけでもないところが、他国が余計に手を出しづらくしている面もある。

 

「さて。それは私のような者には何とも言えないですが……。とにかく今後についてはお連れの方と話を継続するということでよろしいですね?」

「ええ。私はしばらくの間遠方に向かうことになっていますので、面会を希望されても無理ですから」

「おや。どこかの地方にでも向かわれるのでしょうか? ご学友の地元に向かわれるとか」

「いえ。そういうことではありません。数日後には船乗りとして遠征に向かうのですよ」

「船……なるほど。ルーカス様は探索者でしたね。長期休暇を利用して探索者に戻られるということですか」

「そんな感じです。今回はどちらかといえば付き添いというか……友人たちの研修に付き合うことになっているのですよ」

 

 ルーカスの言葉に外交官は「なるほど」と頷いていた。

 ルーカスが探索者であることは既に多くの人が知っている事実であり、今更驚くようなことではない。

 まだ成人前にも関わらず一人前以上の働きができるという普通ではない状態にも関わらず、だ。

 

 そもそも一般的にルーカスが評価されているのは、王種ツクヨミに選ばれたうえで中継島という価値の高い島を運営できているからだ。

 ルーカス当人の個人的な情報については予備知識として知ってはいても、そこまで重要視されているわけではない。

 簡単に言ってしまえば、探索者としてのルーカスはそこまで評価されているわけではないと言い換えることもできる。

 

「そうですか。その学友たちは得難い経験ができるのでしょう」

「そうなると良いとは思います」

「そう謙遜しなくてもいいでしょう。私もこうして外交官をしていなければ、探索者を目指していたかもしれませんから」

「おや。そうなのですか?」


 他国に常駐できるくらいの外交官ともなれば、エリートの一人であることは間違いない。

 そんな彼がかつて探索者を目指していたなんてことを言われても中々想像することが難しかった。

 ドワーフは何かしらの技術者を目指すのが当然だと思われている中で、そんな夢を持つのは珍しいはずだ。

 ルーカスが思わず驚いてしまうのも仕方がない。

 

 その後は、ルーカスが探索者として経験してきたことを雑談して終わった。

 時間にして三十分ほどのことだったが、後ろの半分は雑談をするだけの時間になっていた。

 元々の用事はライフバート王国の準備が出来たことを正式に受け取るだけのことだったので、中継島にとってはそこまで中身がある話をしたわけではない。

 ただしライフバート王国にとっては、ルーカスの人となりを知るための貴重な時間になっていた。

 その外交交渉を終えて寮の部屋に戻ったルーカスは、改めて藤花と話をしていた。

 

「あれで良かったのか? 余計なことまで話しているつもりはないのだけれど」

「十分だと思います。特に話してはいけないことは話しておりませんでしたし、船乗りなら誰もが知る事の出来るようなことしか話しておりませんでしたから」

「あんな話でいいのならいくらでも話せるんだけれどな。あそこまで興味深げに聞かれるとついつい話したくなってしまったな」

「それが外交官としての能力ということでしょう。交渉相手の人となりを知る事は必要なことですし、何よりもマスターのことはあまり知られておりませんから必要な会話だったのでしょう」

「あんな話がねえ。まあ、向こうが満足したならそれで良かった。あとは実務的な話になるから俺の出番もそうそうないだろう?」

「そうですね。あとは最後の調印くらいでしょう。もしかすると今回の長期遠征が終わったころには、すべて決まっているかも知れませんね」


 島に受け入れる人材の選別と輸送方法など決めるべきことはまだまだたくさんある。

 ただしそれについてもある程度は事前に話し合って決めたたたき台があるので、正式に受け入れる移民を決めた時点で細かい調整をすればいいようになっている。

 それでも長期遠征の予定となっている半月で決まるかどうかは微妙なところだが、あとは文官の皆に頑張ってもらおうと呑気に考えるルーカスであった。




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m(__)m

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