(13)結果報告と長期遠征の話

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 ダッツ船長への処分は、予定していた通りに『疾風のごとく』からの追放で決まった。

 ガルドボーデン王国内にいる探索者たちに対して大きな影響力を持っている『疾風のごとく』からの追放は、ダッツ船長の今後の活動に影響を与えることは間違いない。

 少なくともエルモとの関係が深い他の船団や船長たちと組んで活動することは、出来なくなるはずだ。

 船団に所属しているからという理由で受けられていた仕事も来なくなるので、今までのようにそこそこ羽振りの良い生活をすることは難しくなるだろう。

 ダッツ船長がその状況に甘んじるとはエルモをはじめとして他の誰も考えていないが、既にギルドにも船団からの追放を宣言しているので関係のない話になる。

 

 その一方で、『疾風のごとく』もまた一隻の船を失うという結果になっている。

 王種が生み出す浮遊球を使って作られている船は早々簡単に手に入るわけではないので、団も間接的に罰を受けた結果となる。

 もっともそれを罰と考えるかどうかは話を聞いたそれぞれで変わって来るだろうが、少なくとも団員たちは罰だと考えていた。

 ダッツ船長がしたことで『疾風のごとく』も規模を小さくすることになったわけで、それを不満に思っている団員もいる。

 ただしその不満の矛先は団ではなくダッツ船長へと向いているのだが。

 

 ちなみにガルドボーデン王国の探索者が乗るための船は、子爵家が王家から委託されるような形で作っている。

 だからこそ今回の騒ぎに、『疾風のごとく』の団員たちも騒ぐ結果になったていた。

 子爵家当主がどんな性格をしているかなど一団員が知るはずもないので、何か報復のようなものがあるのではと懸念するのは仕方のないことといえる。

 結果からいえばその懸念は杞憂に終わったわけだが、もし違う貴族家だった場合はその懸念が当たっていた可能性があるだけに素直に喜んでいるだけの団員は少ない。

 ダッツ船長のことを反面教師として酒の肴にして語り継ぐことになるのだが、それはまた別の話だ。

 そして一隻の船が減った『疾風のごとく』はといえば、事件の処理が終わった翌日には次に向けて動き始めていた。

 

「――というわけで、三日後には長期遠征に行くみたいだが、二人は当然行くんだよな? ちなみに学校の後期開始には間に合うように返って来るそうだ」

「「当たり前だ」」

 

 ルーカスからの確認に、アルフとエルッキは声を揃えて同意した。

 長期遠征に向かう探索船に乗れる機会など早々あるわけもなく、きちんと学校の開始までに戻って来るとなると断る理由がない。

 懸念があるとすれば先日のダッツ船長の件だが、二人が乗るのはエルモの船で既に顔見知りの船乗りたちが多いので問題はないはずだ。

 

 今回の長期遠征はエルモの船だけではなく、他に二隻の船も同行することになっている。

 アルフやエルッキにとっては、初めての小船団での遠征ということになる。

 当然のことながら船団を組むことでたどり着ける場所にも違いが出てくるので、二人が経験できることも増えるはずだ。

 さらにいえば今回は魔物の討伐ではなく、漂う小島を見つけることが目的となっている。

 近場での資源探しは何度か行っている二人だが、本格的な遠征を行っての探索は初めてなのでいい経験になるだろうとルーカスは考えている。

 

「――俺らが行くのは当然として、ルーカスはどうするんだ? 長期となるとやっぱり難しいだろう」

「まあな。でもさすがに例の件があってすぐに、何事も無かったかのように二人だけで乗せることは出来ないな。俺も乗るさ」

「俺たちは子供じゃない、と言いたいところだろうが、それが妥当だろうな」

「そうだな。ワイもルーカスがいてくれたほうがいいとは思う。だが本当に大丈夫なのか? この時期は色々と忙しいだろう」

「それは何とかするさ。幸いにも王家主催のパーティはもう終わっているんだ。それに、二人だけ船に乗るのはずる……じゃなくて、二人の監視はしなきゃならんからな。監督役として」

「本音が漏れているぞ」


 ルーカスが思わず漏らしかけた言葉に、アルフとエルッキは笑っていた。

 ルーカスの負担を心配する二人を安心させるための言葉ではあるのだが、本心だということも間違いではない。

 二人もそれが分かっているので、笑ったのだ。

 ルーカスが根っからの船乗りだと知っている二人だからこそ、色々なことを押しのけて船に乗ろうとする機会を作ろうとするのはさすがだといえる。

 

「ちょっと心配なことがあるとすれば、新人たちが今回の件で勘違いしていなければいいがな」

「俺は最近乗っていなかったからよくわからないが、大人しくしていたんだろう? 今更変なことをすると思うのか」

「四人は大丈夫とは思うが、後の一人がなあ。今回の騒ぎで変な意味に捉えている可能性もあると思うぞ」

「船持ちであってもきっちり処分はされているから大丈夫だとは思いたいが……どちらにしてもそこを考えるのは教育係の兄貴の仕事だな」


 長期間の遠征で新人たちが余計なトラブルを起こさないかと心配するアルフに、ルーカスは特に問題ないと言い切った。

 今回は複数の船で船団を組んでいるので、何か騒ぎを起こせば他の船に移してしまうこともできる。

 長期遠征に慣れていない新人がいるからこそ、船団を組む意味が出てくる。

 勿論それ以外の理由も多々あるのだが、大きな理由の一つになっていることは間違いない。

 

「――それに、最近は簡単な仕事も任されるようになっているんだろう? だったら前みたいにおかしな行動はとらないだろうさ」

「そう……だったらいいんだけれどな。そこはかとなく不安が……」

「アルフ、お前もか。実はワイもそんな感じがしているな」

「何だよ。二人とも揃ってとなるとよっぽどだな。何かあるのか?」

「具体的な何かがあるわけじゃないだが、相変わらず何かを狙っているような感じがあるんだよな」

「アルフもそう思うか。ワイもそれは感じているな。悪ガキが妙に虚勢を張っているだけならいいんだが……」


 アルフとエルッキが何とも言えない顔になっているのを見て、ルーカスも内心で首を傾げていた。

 これがどちらか一人というならまだ気のせいだとスルーしてもいいのだが、二人揃ってとなると無視することは出来ない。

 とはいえ具体的にどうだと説明が出来ない以上は、遠征前に船を下ろすということは難しい。

 信用という点では新人組よりも明らかにアルフとエルッキの方が上だが、だからといって『おかしいと感じる』ということだけで罰を与えるような真似は出来ない。

 

「二人がそう言うなら注意しておこうか。指導係にも言っておくけれどな。だからといって出発する前に降ろすなんてことは出来ないぞ?」

「それはそうだろう。俺もエルッキもそんなことは望んでいないさ。ただ……ああ、そうか。攻撃魔法を使えるようになったばかりの子供を見てるような感じがするのか」

「……なるほど。アルフが言いたいことは理解できた。確か魔力循環は教えたと聞いているから、もしかすると関係しているかも知れないな」

「どこかで感じたことがあるとワイも思っていたけれど、そういうことか。確かにあれば新しい遊びを知った子供みたいな反応だったな。新しいことが出来るようになって、少し勘違いしたか」

「かも知れないなあ。魔力循環ができるようになったからといって、すぐに身体強化ができるようになるわけじゃないんだけれどな。そこまで教わっていないのか、あるいは聞いていないだけなのか」


 アルフとエルッキが感じている懸念が当たるかどうかは、現時点でルーカスには判断できない。

 もっとも新人たちには教育係が着いているので滅多なことにはならないとも考えている。

 それこそこれまでにも新人を教える当たっては、似たようなことを経験してきているからだ。

 ただ見ようによっては同じ新人という立場にいるアルフとエルッキがいるわけで、それがどう影響するかは分からない。

 長期遠征中におかしなことにならないように、自分も気を付けてみるようにしようとルーカスは考えるのであった。




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