(10)呼び出し

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 寮に届いたエルモからの知らせに何事かと首を傾げつつルーカスが実家(?)に戻ると、いきなりルーカスがエルモから頭を下げられることになった。

「すまん。お前から気を付けるようにと言われて注意はしていたんだが、防げなかった」

「あ~、親父。いきなりすぎて意味が分からないんだが? ちゃんと説明してくれ」

 家に入ってすぐに言われたルーカスは、意味が分からずにそう返すことしかできなかった。

 それからすぐにエルモから説明を受けたルーカスは、すぐに納得して頷くことになる。

 

「――なるほど。つまりは『疾風のごとく』の船長の一人からお馬鹿さんが出たというわけか」

「ああ。これは完全に言い訳だが、船団行動しているときならともかく陸にいるときにまで注意が向いていなかった」

「『疾風のごとく』の船長だとある程度自由に旗艦にも近づけるだろうからな。しかもベンとかクルトとかがいない時を狙ってとなるとどうすることもできないか」

「その通りだが、言い訳にしかならないな。そもそもあんな馬鹿を船長に据えていたままだったのが間違いだった。船持ちだからと少し放任しすぎたつけが来てしまった」

 

 エルモが言った『船持ち』というのは、船団や所属している団体に関わらず個人で船を持っている船乗りのことを指している。

 自らの船を持ったまま組織に属することはままあることで、自分の船を持っているという面で他の雇われ船長と比べて優遇されることが多い。

 今回事件を起こした船長もその船持ちで、船団内で好き勝手に動くことがあった。

 ただそれでも『疾風のごとく』に対して評判を落とすようなことをしてこなかったので、エルモもそこまで厳しく罰したことが無かった。

 

「ダッツ船長がアルフとエルッキにちょっかいを掛けたねえ……。親父から話を聞く限りでは、二人はあまり気にしていないようだな?」

「ああ。だからこそ見つけるのが遅くなってしまったんだが、これも言い訳にしかならないな」


 事件が起こったのはエルモの船が短い期間の探索から返ってきて、帰港のあれこれも終わって船員たちが揃って船団が管理している拠点へと戻った時のこと。

 既に船員たちとも仲良くなって誘われるがままに拠点に向かったアルフとエルッキが、そこで鉢合わせたダッツ船長とその関係者に絡まれたという。

 もっとも絡まれたといっても罵倒に近い言葉を浴びせかけられた程度で、暴力沙汰にまでにはならなかった。

 言われた当人であるアルフとエルッキは特に気にした様子もなく適当に流していたそうだが、二人を拠点まで連れて来た船員たちは顔を青くすることになった――というのが事件の一連の流れだった。

 

「うーん。絡んだ理由が良く分からないな。その辺りまでは調べがついていないのか?」

「ああ。まだだな。お前が言った通り奴はそこまで二人と接点があったわけではないんだがな。どこから情報を仕入れていたのかが気になって調べているところだ」

「むしろ俺が連れて来た新人だからと絡んだ可能性もありそうだな。罵倒にはその辺のことは含まれていなかったのか?」

「一応その辺りは確認したが、無かったようだな。ただ絶対に無いとも言い切れないところだ」

「……なんだろうな。聞いていたらそっちの線が強い気がしてきたぞ。まあ、ダッツ船長の動機は今はいいか。それよりも話を聞く限りでは、二人は気にせずに戻ったんだな?」

「ああ。寮に行くと言っていたそうだから、お前にも話が行っていると思ったんだが……」

「なるほど。てっきり二人が俺に話をしていると思い込んでのあの態度だったわけか」


 ここでようやく家に入るなりエルモがいきなり頭を下げて来た理由が判明して、ルーカスは納得した様子で頷いた。

 確かにエルモにも非がある事なのできちんと話を聞けさえすれば理解できる行動だったのだが、ルーカスとしてはさすがにいきなりすぎて驚きの方が強かった。

 幾らなんでもエルモらしくない態度だっただけに、どれほどのことが起こったのかと焦ったりもしていた。

 

「――二人のことは俺がこれから話を聞きに行くから良いとして……船長はどうするんだ?」

「奴はこれまでも細かいことを色々とやらかしてきたからな。それでも大したことはなかったから見逃してきたんだが、今回は完全にアウトだな。私刑はしないが、追放は確実だ」

「やっていることはただ単に罵倒しただけだからな。警邏に突き出しても罪にはならないか。相手が貴族でなければ、だけれどな」

「そういうことだ。エルッキが訴えでもしたらこっちにま影響が出ていた可能性もあるからな。奴は完全に踏み越えたよ」

「貴族相手だと、知らなかったでは済まない場合も多いからな。とにかくどう処分するかは親父に任せる……と、言いたいところだがそうも言えないところがな」

「それこそ貴族関係だろう?」

「ああ。少なくともエルッキから話を聞くまでは、勝手に動くのは止めておいた方がいい。ただ、最低限あいつが逃げないようにする必要はあるけれどな」


 そう釘を刺したルーカスに、エルモは短く「分かっている」と返してきた。

 話を聞く限りではエルッキは全く気にしていないようだが、父親に笑い話として話された場合に問題となる可能性が高い。

 船団そのものが何かの罪に問われるようなことにはならないが、ダッツ船長がやったことは貴族に対する名誉の侮辱ととられかねない。

 それに加えて、たとえエルッキ本人とアークラ子爵が気にしなかったとしても、それをこちらで判断するわけにはいかない。

 

 貴族相手に「知らなかった」という言い訳は通用するはずもなく、それなりの罰が与えられることは間違いないはずだ。

 そのためにも『疾風のごとく』としては、ダッツ船長を庇うことは絶対に出来ない。

 もっともエルモ自身はさっさと切り捨てるつもりで、既にダッツ船長とその周りにいてはやし立てていた団員たちを軟禁状態にしている。

 ことが貴族の名誉に関わることだけに、エルモのその行動を責める者はダッツ船長の関係者以外にはいないだろう。

 

「――と、こんなことを言っていてなんだが、学校に入って分かったのは貴族関係のあれこれってのは色々と厄介すぎるからな。特に今回は俺が絡んでいることも不味い」

「あ~。あの島の利権に絡んでくるってことか」

「いや、さすがにそこまでにはならないさ。もしそれをすると王家が出て来る。そもそもアークラ子爵家だってこういうことが起こりえると分かった上でエルッキを出してきたんだからな」

「それはこっちとしては有難いが、本当に大丈夫なのか?」

「心配いらないさ。もし迷惑をかけたと思うなら、ぜひ島に船団の派遣を――」

「それとこれとは話が別だ」


 以前から何度もやり取りされているせいか、エルモはルーカスからの提案を速攻で断った。

 船団ごと島に関わることが出来ればそれだけ利益を上げられることは分かっているが、それ以上に国同士の厄介事に巻き込まれることが確定している。

 そんなことに『疾風のごとく』を巻き込むわけにはいかないというのがエルモの現時点での判断だった。

 ルーカスもそのことを分かっているので、いつものように目は笑いながら言葉だけは「残念だ」とだけ返していた。

 

 とにかく現状だとエルッキ本人から話を聞かないと身動きを取ることが出来ない。

 とんぼ返りになってしまうがルーカスが寮に戻ってエルッキに直接確認を取るまで現状維持ということで話はまとまるのだった。




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m(__)m

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