(9)島の今後

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「――疲れた……」

 社交(夜会)が終わって寮に戻ったルーカスは、ソファに寝転がってから盛大に本音を漏らしていた。

「ご苦労様です。予想外のことはありましたが、結果としては上々でしょう」

「あれでよかったのか? 少し言い過ぎたかなとも考えていたんだけれどな」

「魔道具のことまでは伝えず、大雑把なことしか伝えなかったのです。よくよく考えれば当たり前のようなことしかお話していないので、こちらとしては問題はないでしょう。それに、今の時点でライフバート王国の状況を知れたのは大きかったです」

「それがあったか。お陰で受け入れ準備も進められるようになったな。それを見越して伝えて来たのかもしれないけれどな」

「恐らくそうでしょう。とにかく具体的には今後の話し合い次第でしょうから、マスターの役目は十分に果たしています」

 具体的な話は今後文官同士で決めていくことになるので、ルーカスが細かいことを決める話し合いに出席することは無い。

 

 船のことについては具体的なことには触れず、一般的な考え方しか話をしていない。

 それでも出席者が話を聞いてくれたのは、ルーカスにとっては一般的であっても他の者たちにとってはそうではなかったからだ。

 あの話で満足してくれなければ別の話題をすることもできたのだが、幸いにしてあれ以上のことを聞かれることは無かった。

 そもそもルーカスは『どういう船があれば便利か』という話は出来ても、具体的にどうすれば船を造ることが出来るかまでは話すことなどできない。

 余談だが今通っている中央の学校で学年が進めばそうした学科も出て来るので、履修する予定だったりする。

 

「航海に仕えそうな魔道具に関しては上手く躱せたけれど、今後どう公開していくかが問題になって来たかな?」

「今のところ島で開発しているとは知られていないので、そこまで警戒する必要はないでしょう。問題が出て来るとすれば、実際に使い始めてからのことになると思われます」

「開発自体は浮遊球内で終わっているからなあ。あとはどう生産していくかなんだが、ライフバート王国の移民に期待するのは早すぎるか」

「島に囲ってしまえば大丈夫だとは思いますが、どこから漏れるかはわかりません。表に出した時点で広まると考えたほうがよろしいかと」

「特許制度なんてない世界だからなあ。せっかく作った魔道具を簡単に真似されても面白くないよな」

「出したくない技術のブラックボックス化は必須でしょう。あとは量産する技術者の口止めをどうするかですが、当面は予定通り浮遊球の中で生産するしかないでしょう」

「やっぱりそうなるか。移民の皆さんには、頑張ってこちらから信頼をもぎ取って欲しいと思うけれどな。どうなるかは来てみないことには分からないか」

 

 現在の浮遊島の大きな問題点は、土着の人間がいないということで簡単に秘密を漏らしてしまう可能性があるということだ。

 今はまだ漏らされても大したことがないことしかしていないので問題は起こっていないのだが、これが最先端技術とかになって来るとそうはいかなくなる。

 浮遊球内で折角新しい技術を開発できたとしても、それを量産できなければ宝の持ち腐れにしかならない。

 ただ量産するためにはどうしても人手が必要になり、情報漏洩のリスクは増える。

 結局のところルーカスが知る元の世界のようにきちんとした制度が無いと、職人や開発者は閉じ込めるレベルで囲い込まなければ技術が漏洩することは防げない。

 

「ライフバート王国もそのことは重々承知で送って来るでしょうから下手な人材は集めない、と思いたいところですね」

「気持ちとしてはそう考えたいけれどな。国が大丈夫でも個人だと駄目だということもあり得るからな。すぐに信用するわけにはいかないさ」

「そうですね。そこは現場にいる者たちのほうがよくわかっているとは思います」

「確かに、それもそうか。そもそもどんな人材が集まっているのかも分からない状況であーだこーだ言っても仕方ないな。今のところは、出来る対策はやっておくというのが一番ということだ」


 どうしても対処療法的になってしまうのは仕方ないと諦めてため息を吐くルーカス。

 これでもし中継島が一国並みの力を持っているのであれば取れる対策も増えるのだが、ない物ねだりをしても仕方ないので今は出来ることをやるしかない。

 ただただ国土を大きくすれば良いというわけにはいかないところにもどかしさを感じるが、こればかりはどうすることも出来ない。

 

「今いる人たちも頑張ってくれているみたいだからな。今後に期待するしかないか。――それはともかく、そろそろ顔を出しておいたほうがいいかな?」

「それは……確かにその通りですが、大丈夫なのですか? 予定を詰めすぎるのもいけませんよ?」

「そう言ってもらえるのは有難いけれどね。今が大変なのは島にいる皆が同じだろう? 俺だけ楽をするわけにはいかないな。それに無理をしているというわけでもない。浮遊球を使えば移動は早いしな」

「そうですか。それなら早めに予定を立ててしまいましょう。それにこれから申す込みがありそうな社交を断る良い口実になります」

「それで逃げられるならいくらでも島に行きたいんだけれどなあ……。そうもいかないのが辛いところだな」


 リチャード国王からの招待は別にしても、ルーカスとしてはできる限りパーティの出席は断りたいところだった。

 とはいっても島のことを考えれば、出席したほうがいい場面というのはどうしても出てくる。

 本気で嫌なら逃げられる立場にいるルーカスだが、島のためになら良いかと思える程度のことでしかないので必要なものは出席することにしている。

 そうすると必然的に島に向かう時間が限られてしまうわけで、ちょっとしたジレンマに陥っているというわけだ。

 

「――浮遊球を動かすのもタダじゃないしなあ。俺が学校へ通うのを止めればまた違って来るのかもしれないけれど……」

「それは止めた方がいいでしょう。マスターが良い関係を築いているお陰で、王国とのいい関係が構築されているのです。マスター自身が嫌なら無理をする必要はありませんが」

「そこなんだなよな。なんだかんだいって楽しいとさえ思えているから、嫌とも止めたいとも思わないんだよな。学校に行く前だったら面倒とか思っていたのに」

「ですので今は島のことよりも学校を優先していただいて構いません。島民はたまに顔を出していただけるだけで喜んでおります」


 最近になってようやく百人を超えてきたような規模なので、月に数回顔を出すだけでも顔見知りといっても過言ではない。

 そもそも島民全員がお互いを知っているような状態なので、不満があればすぐに周囲に知られてしまうような環境になっている。

 それを閉鎖的だと考えるのか、あるいはお互いに助け合っているのだと考えるのかは、それこそ状況によって変わって来るのだろう。

 そんなことを考えているルーカスもまた、島民たちから良くも悪くも影響を受けているのでお互い様だといえる。

 

「島はまだまだこれからですので、今のままで大丈夫です。それよりもあのお二方は大丈夫なのですか?」

「お二方……? ああ。アルフとエルッキのことか。それならあまり心配はしていないな。それぞれが上役に気に入られているからな。滅多なことが無い限りはおかしなことにはならない……はず」

「そうですか。それならよろしいのですが……。学生のうちから船に紛れ込むということも珍しいですから変に巻き込まれたりしていないと良いですね」

「うん、藤花。それは立派なフラグっていう奴だと思うぞ」


 そんなことを言いつつも何かしらのトラブルは起こっているかも知れないと、ルーカスは余計なことを考えてしまうのであった。




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