(8)王家の反応

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「ハッハッハ。ルーカスも順調に成長しているようで、中々良いことだな」

「お爺様……いえ、国王陛下。あまり喜ばしいことではないかと思うのですが?」

 

 ガルドボーデン王国の中でもごく一部の限られた人間しか入れない場所で、パーティを終えたリチャード国王とフェデーレ王子が対照的な顔になって話をしていた。

 他にはエルアルド王子と兄弟二人の父親であるベニート王太子もいる。

 皆がいる場所は王族の生活圏になっているので、使用人と護衛を除けばむやみやたらに人が入って来ることは無い。

 現在の王族でもトップクラスに重要な人物が集まって何をしているかといえば、先ごろ行われたパーティの総括をしていた。

 

「ふむ。何故であるか、理由を言ってみるがいい」

「何故と言われましても。ルーカス本人はともかくとして、周りが騒がしくなることは確かですよ?」

「今更ルーカスの価値に気付いたものなど放っておいてよかろう。現状だけでもライフバート王国にホルスト家と動いているのだ。むやみやたらに手を出す者など出て来ることはあるまい」

「ハリュワード王国はどうなりますか? 間違いなく動くと思われますが?」

「今更あそこが動いたとて、ルーカスが何かをすることはあるまい。現状維持にしかならぬであろう。多少の関係改善はあるかも知れぬが」

「我が国の貴族を使って何かをする可能性は?」

「何かをというが、何をするのだ? ルーカスが学校の寮にいるか船の上にいるかのどちらかだ。下手に動けば大騒ぎどころの話ではあるまい。


 一部を除いて今まで『小さな島の領主気取り』と軽く見られていたルーカスだが、先ごろ行われた社交界によってその価値が知られることとなった。

 ルーカスが話をしていたことは船と魔法(魔道具)に関することだけだったが、シャド宮廷魔術師長を相手に堂々と会話をしている姿を見られたことでその価値が跳ね上がっていた。

 そもそもシャド宮廷魔術師長は、自ら魔法のことをあのような社交の場で話すことはほとんど無い。

 これまでの態度を変えてまでルーカスを相手に長々と話をしていたのは、それだけ気に入っているのだと目されるまでになっていた。

 

 それだけではなくライフバート王国の外交官から問われた問いについても、期待以上の答えを出したとされている。

 少なくとも見た目通りの年齢で考えるととんでもない目に合うのではないか、と。

 ライフバート王国の外交官があの場であったことを国王へと伝えることは間違いなく、その上であの巨大な技術者集団国家を束ねている者がどう判断するのかはわざわざ考えるまでもない。

 ガルドボーデン王国がルーカスを見放すようなことをすれば、間違いなく自らの国に取り込むことを選択するだろう。

 それをしていないのは、今のところルーカスがそれを望んでいないからだけに過ぎない。

 

「では、父上。ルーカス殿に関しては、これまで通りということでよろしいですかな?」

「基本はそれでいいであろう。ただし今後はお前も出て行く必要はあるだろうな。先の社交で関係があるところは見せたのであろう?」

「それは恙なく。元々何度か会話をしていたので、問題はありませんでした。周りへの周知もできたでしょう」

「それで良い。ここで次代との関係が良くないと勘繰られると面倒になるからな」


 エルアルド王子とフェデーレ王子の父親であるベニート王太子がこれまでルーカスとあまり接触して来なかったのは、その必要があまりなかったからだ。

 ただしルーカスが社交の場に出てきた以上は、意識してきちんとした関係を築いていることを見せなくてはならない。

 ルーカスもそれは理解できているので、先の社交の場でもしっかりと挨拶程度の会話はしている。

 それを見ていた周囲がどう考えるかは分からないが、少なくともお互いに無視を決め込んでいるわけではないことは伝わったはずだ。

 

「御爺様。以前から考えていたことがあるのですが、いいですか?」

「どうしたのだ。エルアルド」

「御爺様は先のことを考えて私たちが積極的に関わるように促してきましたが、折角の機会ですので父上も同じことをすればいいのではないかと」

「うむ。であるから徐々に関係を進めようと、挨拶をしたのではないか」

「いえ、そういうことではなく。ルーカス当人も大事ですが、親同士で関係を進めることもできるのではありませんか?」


 ルーカスが浮遊島の運営に父親エルモを直接的には関わらせていないことは分かっている。

 それでもこれだけルーカス当人に注目が集まれば、その親に目が行くのも自然なことだろうというのがエルアルドは以前から懸念していた。


「……なるほど。そういうことか。ベニート、どうだ?」

「ルーカス殿の父親は……エルモ殿でしたか。彼は確か以前に表彰もされているはず。探索者への依頼という形でしたら無理なく進められるかと」

「うむ。だが一つ気を付けなければならないのは、彼の家柄であるな。しっかりと表彰を受けていることを考えれば過去のことを引きずったままとは思えないが、無理に進めるのは禁物であろう」

「確かに父上のいう通りですね。となれば……いえ。下手にこちらで考えてから動こうとはせずに、ざっくばらんに本人に全てを話してみましょうか」

「……ふむ。彼の人となりを考えれば、それもありか。ただし加減は気を付けるようにな」


 エルモの家系がかつては貴族家から排出されていることは、既に調べがついている。

 これはルーカスのことが起こる前に、エルモが国から表彰される際に調べられていたことだったりする。

 そのことと合わせて今回のルーカスの件があるので、多少なりとも警戒されているかも知れないというのが現時点での王家のエルモに対する考えだ。

 

「心得ております。調べた限りでは、いつまでもどことも関係を持たずにいるとは考えていないでしょうから歩み寄る余地はあるはずです」

「そうであろうな。ただそれを利用して息子を……と考えれば、すぐに離れるであろうから気を付けるように」

「探索者や冒険者は元よりそういう存在だと分かっております。しかも今なら船ごと島へと移動できるのですから」

「この国に見切りをつければ、確実にそうなるであろうな。他の船乗りがどれほどついて行くかは分からぬが、最低でも船の一隻や二隻は運用できるくらいは残るであろう」

「それはまた、父上にしては随分と少なく見積もっておりますな。私はもっと集まると考えておりましたが」

「あやつのやり方を見ていれば、多くはこの国に残して敢えて少数で移動すると考えたまでだ」

「……あくまでもこの国への影響力を残しておくわけですか。それは失念しておりました」


 そんなことを語っている親子二人だが、ガルドボーデンの王家ではエルモの船団をかなり正確に把握している。

 それがどの程度かといえば、エルモが直接運用している『疾風のごとく』だけではなく、それ以外にも動く可能性がある他の船団についてもだ。

 そもそもエルモは、ルーカスがいなかった時から国から褒章を貰えるほどに活躍していた船乗りだ。

 だからこそエルモが持っている他の船乗り立ちへの影響力があるということも把握していた。

 

 元々扱いづらかったエルモの元にルーカスが来たことで敢えて放置をしていたのだが、さすがにこれほどまで他の貴族たちに注目されるとそうもいかなくなってきた。

 それを考えるとベニートが提案した通りに、親同士で関係を深めていくという手は最善といえるかもしれない。

 問題は王家にとっていい結果を得られるかどうかだが、こればかりは進めてみなければ分からないという結論になるのであった。




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m(__)m

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