(7)船乗りの夢?

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「――そうしたことを踏まえたうえで、もし私が船のことで提案できることがあるとすれば……」

「なんだ。あるのか。てっきり今の話で終わるかと考えておりましたな」


 ルーカスがさらに続きを話し始めたので、シャドがそう混ぜっ返してきた。

 話の途中で口を挟むのは不作法ではあるのだが、完全に話を逸らすわけではなくむしろ先を話すように促しているので、今回はギリギリ失礼とは見なされることはなかった。


「先ほどまでの話だと少々消化不良になってしまうでしょうから。折角なので私ができる話をしようと思います」

「いやいや。それで構いませんとも。勿論、先ほどまでの話も十分聞くに値するものではありましたが」

「どうもありがとうございます、外交官殿」


 今のやり取りも特に気にしてはいないというスタンスを取ってくれた外交官に、ルーカスは小さく頭を下げた。

 

「それでは話を戻します。私ができる提案があるとすれば、それは新しい型の船の開発でしょうか」

「ほう。それはつまりルーカス殿には今を超える船を作ることが出来る案があると?」

「いえ。さすがに私個人で思いつくことなど所詮は机上の空論でしかありませんよ。そんな一気に世代を超えるような船を作るという意味ではありません。もっとそれぞれの仕事に特化した船が作れないかということです」

 

 ルーカスがこれまでと違った方向で話をし始めたので、シャドが興味深げな表情になった。


「特化した船とな。それはどういう意味であろうか」

「今でも国家間でそれぞれ違った特徴の船を使って運用がされているかと思います。これはそれぞれの国の成り立ちが違うので当然のことかと思われます」

「そうですな。国の成り立ちが違えば大地の有り様が変わって来る。それに合わせて船が変わるのも当然でしょう」

「私もそう思います。ただそれは国家内で運用している船でも同じことが言えるのではないのでしょうか。

 ――今は軍が使っている船を改良して一般にも使われています。それをもっと……例えば探索や商用に特化した船というように用途別に作ることが出来ないかということです」

 

 ルーカスのその提案に、シャドとライフバート王国の外交官は思わずといった様子で顔を見合わせていた。

 

「なるほど。今は軍用船を基準にして船が作られておる。それをもう少し細分化することが出来ないかということであるか」

「はい。船そのものを改良するとなると浮遊石を使った機関の改良が必須になります。それを個人でいじるとなると問題ですから、国家が主導することが必要になるでしょう」

「それは確かにルーカス殿の仰る通りでしょう。ですが、どうでしょう。話を聞いただけでもそれなりの予算がかかりそうですが、それを超えるだけのりえきはあるのでしょうか?」

「はっきり言ってしまうと、それは分かりません。また、それがあるからこそ今まで思いついてはいても提案だけで終わったということもあるかもしれませんね」

 

 ルーカスの中にある前世の記憶には、大航海時代に活躍していた数々の帆船という実例がある。

 だからこそそれらの船が国家の役に立てることが出来るとはっきりと言えるのだが、こちらの世界では前例のないことなので『絶対大丈夫』とは言うことはできない。

 さらにいえば、それがあるからこそ民間での開発に期待するのではなく国家で開発すべきだと促していた。

 ルーカスが言った浮遊石の問題は、それを分かりやすくするために言った一つの例でしかない。

 

「確かにルーカス殿の言う通り、民間では中々難しそうなことではありますな」

「ですが国でできるかといえば、そう簡単には行かないでしょう。うまく行くかどうかも分からない分野へと予算を投入するとなると、必ず反発されますしそれが当然でしょうから」

「そうでしょうね。前例のないところへと資金を投入するのは、どの国でも中々難しいでしょう。現に今も中継島では、開発するための予算など組めませんから」


 言外に中継島で開発するつもりですよと言うと、シャドや外交官だけではなく周りで話を聞いていた者たちの様子が変わった。

 今の中継島では規模が小さすぎて新しく船を開発するどころか、新しい船を作ることすら儘ならない。

 ただしそれは、新しい船を作る際についでにこれまでと違った船が開発できるという意味にもなる。

 

 当然ながらその分の開発費はかかることになるが、今のように他国から船を払い下げてもらう(予定)よりもはるかに島のためになる。

 中継島を作った時からルーカスの頭の中にあった計画ではあるが、改めてそれができる存在だと示したことにもなる。

 それがどういう意味かは話を聞いた者によって変わって来るだろうが、間違いなく一部は潜在的な『敵』になりうると理解できたはずだ。

 そしてそれを今、ルーカスが他国の外交官がいるこの場で発言したことで様々な憶測が生まれることにもなる。

 

 ルーカスと直接話をしている二人も、そのことには当然気が付いている。

 ただしそんなことはおくびにも顔には出さずに、三人は会話を続けていた。


「安定している国ほど博打のような政策は打つことは出来ません。そういう意味では、新しい船を丸ごと開発するというのは難しいでしょうか」

「そうですな。だからこそ現状の船をアップデートすることに力を注ぐわけだ。これは、どちらが良い悪いの問題ではないのでしょうな」

「新しい船を丸ごと作ったところで、その開発に見合った利益が確保できるのか。それを説得できるだけの言葉が無ければ、確かに難しいでしょう。だからこその最初の私の質問に繋がるわけですが」

「そうでしょうね。そうだとしても、一船乗りとしてはやはり『使いやすい』船を求めるものですよ。それは剣だけではなく、色々な種類の武器がこの世に存在していることでも証明されているでしょう」

「なるほど。確かにルーカス殿の仰る通りかも知れません。出来る出来ないは別にして、実際の船乗りを知る者としての意見としては貴重なものでしょう」

「いえいえ。大使殿がおっしゃるほど大したことではありません。それこそ船乗りなら誰もが一度は考えることでしょうから。『自分ならを自由に操ってみたい』と」


 ルーカスがしたここまでの話は、あくまでも一般的に誰もが考えるようなことの延長でしかない。

 それでも『誰が』言い出したのかは重要で、それが中継島のトップに立っているルーカスならそれなりの影響力を及ぼす。

 もし中継島で新しい船が開発された場合には、それ以外の国で手にするはずだった利益を逃してしまう可能性がある。

 そう考えてくれる人が多くなればなるほど、この話を聞いたそれぞれの国で新しい船の開発機運が高まることになる。

 

 そしてそのことこそがルーカスの狙いであって、この場でそんな話をすることが出来たというだけでも中継島にとっては利益ができることになる。

 何しろより中継島の存在意義はより遠くに行くためなので、その目的にあった船が作られれば万々歳といったところだろう。

 それがなかったとしても、いずれは島で開発を進めるつもりなので全く問題はない。

 

 どう転んでも島にとってもルーカス当人にとっても利益になる話であることは、当然のように話をしていたシャドと外交官も気付いていた。

 ルーカスもただむやみに自分の利益のことだけを考えて話をしたわけではなく、きちんとそれぞれの国が利益になりそうな話をしている。

 それを実行するかどうかは今後の対応で変わって来ることになるのだが、それを判断するのはこの場にいる者たちで行うわけではなく、それこそトップ国王を加えて話し合っていくことになるはずだ。




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m(__)m

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