(6)外交官

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 リチャード国王が主催するパーティは国内の貴族の多くが参加しているが、国外からの参加者もそれなりにいる。

 その中には外交官としてガルドボーデン王国に滞在している者もいて、乱入してきたそのドワーフもその外交官のうちの一人だった。

 その外交官がわざわざ『我が国の王からの伝言』と口にしたのだから周囲にいた者たちは驚きを示した。

 それはルーカスへの伝言が気になるということもあるが、そもそもこのような場で言っていいのかという疑問が大きいだろう。

 ルーカス自身も不思議に思ったのだから、すぐ傍にいたジルッド学校長とシャド宮廷魔術師長が興味を示すのも当然だった。

 

「――バルド国王からの伝言ですか。それはこの場で伺っても大丈夫なのでしょうか?」

「勿論ですよ。出なければここで言ったりはしません。『こちらは島への移民の準備はできた。あとはお主次第だ』だそうです」

「それは……思ったよりも早かったですね。こちらとしては有難いことですが、今すぐにお答えは出来かねます。数日以内に返答いたしますのでお待ちいただいてよろしでしょうか」

「ええ。お待ちしております。返答は館へと直接来ていただいて構いませんから」

「畏まりました。数日内には必ずお届けいたします」


 何事かと構えていたルーカスだったが、話を聞いてそのことかと納得していた。

 ルーカスに会うためには学校の宿舎に伝言することが一番だが、今は船に乗って遠出してしまうこともありえる。

 それならば、確実に会えるこのパーティのタイミングを待っていたと考えるのは自然なことだといえる。

 思ったよりもライフバート王国側の準備が早かったという驚きはあったが、それ以外はまともな内容だったと安心していた。

 

 もっともドワーフ外交官がこのタイミングで切り出したのは、それ以外にも理由があることにルーカスも気が付いている。

 ライフバート王国が浮遊島との関係が出来つつあることをアピールする場としてこのパーティが選ばれたのは、決して偶然ではないはずだと。

 とはいえそれは浮遊島にとっても利があることなので、ルーカス自身は問題にはしていない。

 ……傍にいるお目付け役や周囲で様子を伺っていた国内貴族がどう考えているかは別にして。

 

「――ふむ。確かライフバート王国の国民が、ルミール殿が運営している島への移住するという話であったか。だが私が知る限りでは、話が出てからまだ数か月も経っていないと思うたのだが、もう準備が整うたのか?」

「シャド宮廷魔術師長殿。仰る通り私も早いと思ったのですがね。ですがこちらも想定以上にやる気のある者が早々に揃ったようです。お陰でこうしてルーカス殿へのご報告となったわけですな」

「そうですか。それは上々。島にとってもハリュワードの技術者が入ることは良いことになるでしょうな」


 こんなに早く準備を終えて人材としては大丈夫なのかと問いかけたシャドに対して、外交官はにこやかに返していた。

 ドワーフが王に立つ国だけあって、ライフバート王国に多くの技術者がいることは周知の事実であるため下手にその部分で口出しすることは出来ない。

 

 話の内容も中継島に関わることなので、無碍にすることもできない。

 というよりも、下手にライフバート王国の人間が口を出すと中継島の内政に関わっているという誤解を与えかねない。

 今のところのガルドボーデン王国の中継島に対するスタンスは、あくまでも『同盟者』という扱いなのでここで内政干渉をしているのかという誤解を与えるような真似をするわけにもいかないのだ。

 要するにシャドにしてもジルッドにしても、ここで余計な口出しをするとライフバート王国に対してを与えることになる可能性があるわけで、二人の会話を止めることも出来ないでいた。

 

 そして肝心のルーカスとしては、ここでライフバート王国の関係者と話が出来るのは悪いことではない。

 話の内容も隠す必要のないもともと予定にあったものが早まりそうだという報告なので、安心して聞いていられる内容でしかない。

 勿論相手とて他国に長期滞在できるほどのやり手の外交官なので、決して油断することはできないのだが。

 とりあえずの話題としての入植者関係の話だったので、次はどんな話題が来るのだろうかとルーカスもその外交官が次に何を言い出すのかと内心で身構えていた。

 

「――時にルーカス殿は探索船としてもやり手だと聞いておりますが、少し興味本位の質問をしてもよろしいでしょうか。ああ、シャド様も是非ともこのままで。御身にも関係のありそうな話ですので」

「私もか? はて、探索者が関わるとなると幾つか思いつきますが、確かに興味がそそられますな」

「そうでしょう。そういうわけでして、ルーカス殿。探索者にとって今一番必要な道具、もしくは魔道具とは何でしょう。勿論、未だ開発のされていないモノと限定します」

「なるほど。確かにそれは気になるところであるな」


 同時に二人からの視線を受けたルーカスは、考えるふりをしてなるほど上手いなと思っていた。

 ルーカスが探索者であることを利用してシャドも大いに関係のある魔道具の話をすれば、さらに話を続けることができる。

 しかもライフバート王国にとっても魔道具の開発は力を入れている分野なので、聞いて損になるということはない。

 ついでにルーカス自身としても話してみたかったことなので、良いことづくめの話題の作り方だった。

 

 そしてシャドと外交官だけではなく、ジルッドからも興味深げな視線を向けられたことでルーカスも少し考える様子を見せてから話し始めた。

「そうですね。私であれば、水と食料さえどうにかなれば後はどうとでもなる――そうお答えします」

「水と食料であるか。意外……とまでは言わぬが、誰もが思いつくようなことではあるな」

「シャド殿の仰る通り、皆が頭をひねっている問題ではありますね。だからこそ難しい問題ではあるのでしょうが」

 

 思っていたような答えが返ってこなかったことで、シャドとライフバート王国の外交官は微妙な顔をしていた。

 ただこういう反応が返って来ることはルーカスも予想していたので、真面目な顔のまま頷いて続けた。

 

「お二人の仰る通りです。ではお聞きしますが、そもそも船乗りが何のために水と食料が重要だと考えるか、お分かりになりますか?」

「それは勿論、どちらも命を維持するために必要であるからであろう?」

「そうです。ただもう少しだけ突っ込んで言わせていただくと、より遠くにより時間を掛けて動き回ることが出来るようにしたいがためともいえます。水と食料そのものを直接増やすだけではなく、より早く動けるようになるということもその手段の一つと言えます」

「……なるほど。つまりはより多くの活動をするために、どう船の改良をしていくのかということですかな。単純にその二つを増やすというわけではなく」

「はい。シャド様の仰る通りです。船の航行速度が上がればそれだけより遠くに行けることになり、間接的に水と食料を節約したことになります。私が水と食料の問題をどうにかすると言ったのは、そういう意味です」

「水と食料を増やしたいのであれば貨物の量を増やせばいい――それで解決すのであれば皆がやっているはずなのにそれをしないのには理由があるということですか」


 ルーカスが今語ったことは誰もが考え付くことであり、特に関係者は皆がその問題を解決するためにあがいている。

 ただだからこそルーカスは、初心に戻って考える必要がある根本的な問題であると提起したのである。




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