(5)魔法界のために
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リチャード国王が去ってからしばらくは、ルーカスの元に誰かが来ることはなかった。
ただし次は誰が行くのか探るような雰囲気はあり、このまま大人しくは終わらないだろうとルーカス本人も感じていた。
そんな中で次にルーカスの所に来たのは、つい最近面識が出来た相手だった。
「ルーカス殿、どうですかな。初めてのパーティらしいですが、楽しんでおりますかな?」
「これは宮廷魔術師長殿。勿論、楽しんでおります。特に普通なら絶対に口にすることなどできない料理を楽しめるのが良いですね」
「それはいいですな。折角来たのですから楽しめないのは勿体ないですからな。初めてで楽しむという余裕があるだけでも素晴らしい」
「そう言っていただけるとありがたいです。まだまだ未熟者ですが、頂いた言葉を胸にして精進いたします」
普段のルーカスを知る者なら『一体誰だお前は』と言われそうなやり取りだが、これも必要なことだと割り切って会話を始めた。
相手のシャドも微笑みながら会話をしているので、これでいいのかとルーカスも安心している。
それに肝心の二人の会話を聞いている周囲の者たちは、やり取りそのものよりも別のことに感心が向いていた。
褒章を受け取っているルーカスの元に国王が来ることはまだ可能性の一つとしてあり得るのだが、宮廷魔術師長との繋がりが全く分からなかったためだ。
ルーカスが先日国王の紹介の元でシャドと会っているという情報は、一部の者なら掴んでいるはずだ。
ただしそれにしても『何かがあった』程度のことしかわからず、こうしてパーティで会話ができるほどに関係性が出来ているとは考えられていなかった。
さらにその情報すら持っていなかった者は、どういう繋がりでここまでの関係になったのかと探りを入れ始めていた。
いい意味でも悪い意味でも注目を集めているルーカスだからこそ、ちょっとしたことであっても調べるに足る情報になってしまっていた。
周囲がそんな状態なことは重々承知のうえで近づいてきたシャドは、その目的を果たすべく会話を続けた。
「――ところでルーカス殿。先日貴殿が発表された論文について少々聞きたいことがあるのですが、よろしいかな?」
「私が発表したというと、身体操作と身体強化のことについてでしょうか。何か不備でもございましたか?」
「いやいや。そういうわけではありませんでな。あれは素晴らしい着眼点の元で書かれております。そういうことではなく、確認したいことがありましてな」
「勿論、そういうことでしたら喜んで伺います」
ルーカスは、シャドが敢えてこの場で話を振ってきている理由にもきちんと気付いている。
早い話が魔法の熟練度についての考察を表に出して行くための布石、土台作りをしようとしているのだ。
身体強化に関しての論文自体は大したものではないのだが、それに魔術師長が注目をしていると知らせることでルーカスが魔法についても見どころがあることを周囲に示していた。
「――確かあの論文では誰でも身体強化は使えるということだったが、ではどこで強者との線引きをするのが良いと考えてるのか?」
「線引き、ですか。どうでしょう。そもそも分ける必要はあるのかと、私自身は考えております」
「どういうことかな? これまで身体強化が『使える』とされていた者は、明らかに戦士としての強者であった。その区別が必要ないと?」
「それは前提の考え方を変えればよろしいのではありませんか? 身体強化が使えるからこそ強者なのではなく、実戦でレベルで使えるほどに昇華できたからこそ強者なのだと。魔法で火を作り出すことはほぼ誰にでも出来るでしょう。ですがそれを実戦レベルで使えるかどうかはまた別の話ではありませんか?」
「……ふむ。なるほど。確かにそう言われると納得は出来るな。だがその例えだと強者は『身体強化』という魔法を使っているのであって、全員がその魔法を使っているわけではない――となるのでは?」
「それは程度の問題ではないでしょうか。例えば、小さな火だろうと大規模な爆発だろうと『火』の魔法であることには違いありません。そういう意味では、生活レベルだろうと実戦レベルだろうと身体強化は身体強化でしかないということになるでしょう」
「うむ。確かにそのとおりであるな。――いや、失礼。このような場でするような話ではなかったか。だが貴殿がその若さで素晴らしい魔法使いであることは理解できましたな」
「まさかシャド様にそのように仰っていただけるとは思いませんでした。ありがとうございます」
ほぼ手放しといえるほどのシャドの言葉にルーカスが頭を下げると、周囲で様子をうかがっていた者たちが少しだけ騒めいていた。
ルーカスが魔法の使い手として優れているという話は聞いていても、まさか宮廷魔術師長から認められるほどの話が出来るとまでは想像していなかったという様子だった。
戦いの場で魔法を使えるだけではなく、しっかりとした理論を持っているとなれば、既にルーカスは魔法使いとしてさらに上の段階にいるということになる。
しかもそれが『自称』ではなく、宮廷魔術師長という国が認めたトップの魔法使いのお墨付きとなればその価値は相当なものとなる。
中継島という重要な拠点を運用しているだけではなく、魔法使いとしても認められるとなるとその価値はまた一段と高くなったといえる。
「そのようなことで礼を言われる必要はないですな。私は、評価されるべき者を評価しているだけのこと。変に貶める者が出て、折角の成果が評価されなくなるのは魔法界全体にとっても良くありませんからな」
「あの研究成果にそこまでの価値があるとは思いませんが、シャド様が仰られるのでしたらそうなのでしょう。何かのお役に立てるのであれば幸いです」
「私は必ず役に立つと確信しておりますぞ」
「そうであると発表をした私としても嬉しい限りです」
ここまでにこやかに会話を続けている二人を見ながら、内心では頭を抱えている者がいた。
それは、ルーカスのお目付け役として着いて来ていたジルッド学校長である。
二人の会話は社交で行うものとしては、特に問題があるようには見受けられない。
ただし学術的に見てこれ以上の踏み込んだ内容に言及し始めると、専門的過ぎてこのような場での会話にふさわしくないと判断される可能性がある。
ちなみに今この場には、もう一人の補佐であるフェデーレ王子はいない。
王位からは遠いとはいえ、フェデーレも王子の一人であるため四六時中ルーカスのすぐそばについていられるわけではない。
だからこそジルッドが追加で選ばれているわけであって、その補佐としてここらで口を出すべきかどうかが悩ましいところだと悩んでいた。
学業を教えている学校の長としては止めるべきではないのだろうが、社交の補佐としては余り勧められる状況ではないためだ。
とはいえこれ以上はきちんとした場で話し合うべきだとジルッドが決意したところで、思ってみなかった相手が二人の話し合いに混ざってきた。
それはライフバート王国の外交官のドワーフだった。
「お二方とも興味深い話をされておりますね。私も混ぜて頂いてもよろしいですかな?」
「む。ライフバートのドワーフ殿が、どのようなご用件ですかな」
「いや、何。ルーカス殿に我が国からの言伝を預かっておりましてな。それを伝えるつもりで近づいてみると、中々に面白そうな話をしていらしたので声を掛けさせてもらいました」
ライフバートの外交官がルーカスに何の用かと興味を示す周囲に対して、その外交官は大したことではないとさらりと答えるのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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